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星を巡るソフィア  作者: 彩都 諭
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第20話 琥珀の女王号

 第20話 琥珀の女王号


 格納庫の扉が閉じると中は暗くなっており、足元も見えない。エメリアはソフィアを背負いながら恐る恐る前に進もうとするが、暗すぎて転びそうだ。


 そうしていると、急に天井から光が降り注ぐ。ここまで強い照明はエメリアの経験にないが、少しずつ目が慣れると周辺が驚くほど良く見えた。


「これは…なんて明るさだ。まるで太陽だな」


 そう呟くと、背中のソフィアの呻き声が聞こえる。もう少しで目を覚ましそうだ。


 エメリアは格納庫の奥に向かいながらリゴのメモを読む。正直、あまり理解ができる内容ではないが、なるべく頭を柔らかくして考えた。そうしていると、急に前から何かが姿を現わす。


「なんだ!? 敵か!?」


 身構えるエメリアの前に、地面からフワフワ浮いた、白いアヒルのような物体が姿をみせる。どうやら生き物ではなく、人形に近いものだ。大きめの猫のようなサイズだが、目が青白く光っている。


「な、なんだ…? 得体のしれないやつが出てきたな…」


「得体のしれないとは…随分ですね」


「な!? 喋った!?」


 エメリアは驚愕する。目の前の浮かぶアヒル人形が、口を聞いたのだ。


「喋りますとも。私はそう造られましたからね。ところで、あなたは誰ですか?」


「私…? えーっと、私は…」


 エメリアが口ごもっていると、アヒル人形が首を振って止める。


「ああ、大丈夫です。私が確認しますから、そのまま動かないで下さい」


 そう言うと、アヒルの目から二人に向けて光が浴びせられる。エメリアはとっさに防御姿勢をとるが、光を避けられない。しかし、慌てたのも一瞬で、光を受けてもなんともなかった。エメリアは安堵するが、得体のしれない光を浴びせられるのも不安ではある。


「お前は…何をしてるんだ?」


「今、お二人の身元を確認するためにスキャンしています」


「スキ…?」


「スキャンです。あなたたちの生体データを照合して、ライブラリのデータと一致、もしくは類似するデータがないか確認するのです。もう少し待って下さいね」


「でーた? らいぶ…り?」


「…とりあえず、黙ってて下さい」


 エメリアは少し顔を赤らめ、頰を膨らませる。何を言われたかはさっぱりだが、とりあえずあしらわれたのだろう。少し悔しかった。


「さて…照合完了っと。えーっと、まずは膨れてるあなた。オーランドの家の方ですか?」


「え? 確かにオーランドだが、なぜ?」


「やはり。あなたのデータは、オーランド家のデータと非常に近いので、ご子孫の方とお見受けしました。登録しますので、お名前を教えて下さい」


 エメリアは混乱しつつも、言われた通りにする。


「…なるほど、エメリア・オーランド様ですね。承りました。あなたにはリゴ様よりメリダのシールド用モジュール、並びにメリダの指揮権を移譲するよう伺っております」


「メリダの…! ということは、私がメリダを?」


「そうです。ですが、その前に質問にお答えください」


「質問?」


「はい。リゴ様より伺っているとは思いますが…。エメリア・オーランド様。あなたはアリアスの王として、国民と共に故郷を捨てる事を容認されますか?」


「な、なに? どういう意味だ?」


「そのままの意味です。あなたは一国の国王として、民を導く責任があるお方です。その事を承知の上で、故郷を捨てる事を容認されますか?」


 答えは以前から決まっていた。そのはずだった。だが、エメリアは言葉に迷う。国王として、民を導く責任がある。その通りだ。では、その国王が国民の故郷を捨てる事を容認することは、どういうことになるのか。国を背負うものが国を捨てる事を容認する…本来ならばあり得ない話だ。だが、脱出しなければ国民は助からない。ならば苦渋の決断として、容認すべき…はずだ。


(だが…それは何かが違う気がする…なんだ? 考えろ、エメリア! お前はもう、王なのだ!)


 エメリアは葛藤する。正しい行為だと思っても、それが決して正しいという根拠はあるのか? 先ほどのリゴとローケンとやらの争いも、同じではないのか?


「どうしました? エメリア様。 お答えください」


「ああ…だが…」


「あなたはアリアスの王です。御決断は、あなた自身がしなければなりません」


「わかっている! だが、決断と本心は裏返しなのだ!! 私は王として、民の命を護ることを最優先に決断する! だが、民も私も、生まれ育った故郷を捨てるなんて考えることはできない!! 容認しても、それは本心からはできないのだ!!」


 エメリアは、胸が締め付けられる。情けない。これが父親から国王を引き継いだ者の姿だ。一つの決断が、民の未来を左右する。現実的には出せる答えが、心に嘘をついて出される。それが耐えられない。不甲斐ない。そう自分を責めていると、アヒルが首を引っ込め、丸い球体になった。


「承認、完了しました。それではエメリア様、メリダの指揮権をあなたに正式に移譲します。以後、あなたの指示でメリダ船団は動きます。良き船出をお祈りします」


「え…? 私は決断してないぞ?」


 エメリアは呆然とする。一体、どういうことなのだ?


「いえ、あの答えでいいのです。愛した故郷を本心から捨てたい者なんて、おそらくいませんよ。あなたが即答で容認していたら、問答無用でこの格納庫からつまみ出していました。どの答えが正しいかはともかく、王として真摯に考えなければなりません。それが出来ていれば、民もあなたも進むべき道が見えてくるはずです」


「…なるほどな。私は試されたのか。お前は…すごいな」


 エメリアは感嘆する。未だ得体のしれない物体だが、人間として、王として未熟な自分を、こんな形で試してくるとは。エメリアは無性に嬉しい気持ちに満たされる。だが、驚きはこれだけではなかった。


「私がお話しした事は、全てあなたのご先祖様の遺したお言葉です。そう、千年前に宇宙に旅立たれた、オーランド司令の。あなたはご先祖様と同じ決断を迫られたのです。そして、同じ答えを見出した。血は争えませんね」


「私の…ご先祖様が…」


 ついにエメリアは胸がいっぱいになり、涙が溢れてしまう。長い長い時を超えて、家族と触れ合ったような、暖かい気持ち。それは父、ヒースがエメリアに注いでくれた愛情にも似ていた。形は違うが、たまらなく嬉しい。


「ありがとう…お前の名前は…?」


「私はリゴ様とオーランド様によって造られました、人工知能搭載型オペレーション・ユニット、リオンです。以後、お見知り置きを」


「オペ…ごほんっ。わかった。リオン、改めて、エメリア・オーランドだ。よろしくな」


 リオンとエメリアが自己紹介をした直後、扉の外から轟音が轟く。壁を叩きつける音、肉が激しくぶつかる音、叫び声。


「これは…リゴの戦いが始まったのか! リオン、リゴの援護はできないのか!?」


 リオンは球体の姿でフヨフヨ浮かびながら、ピロピロと音を鳴らす。


「エメリア様、それはリゴ様からの指令を優先するように承っております。お持ちの計画書にも書いてありますね」


「あ…これの内容を知っているのか?」


 エメリアはリゴからもらった計画書を取り出す。


「はい。先ほどのスキャンで確認しました。それよりも、そこにいらっしゃる方の治療をした方が良さそうです。容態は安定してますが、もう少し処置をしなければ」


 リオンはソフィアの方を向き、青白い光を浴びせる。またスキャンをしているようだ。


「そうだな…リオン、お前に頼めるか?」


「お任せ下さい。まず、船にお運びしましょう。中に簡易治療設備があります」


 リオンがそう言うと、エメリアはソフィアを背負う。しかし、エメリアも怪我しており、難儀していた。すると、リオンが奥の方へフヨフヨと消えていく。


「リオン? どうしたのだ?」


「今、お手伝いをしますので、お待ち下さい」


 リオンがそう言ってからほんの少し時間が過ぎると、奥から大きな鋼鉄の荷車…を取り付けた、三脚の人形が現れた。胴体に腕も付いており、頭らしきところには、リオンらしき球体がくっついている。


「お待たせしました。後ろの荷台にお乗り下さい。このまま私が船までお連れします」


「あ…ああ。頼むぞ!」


 エメリアはソフィアを荷台に寝かせ、その横に座るように乗り込む。リオンはあまり揺らさないように気をつけながら、滑るように格納庫の中を進んでいく。


「これは…中々快適だな。脚に小さな車輪がついているのか」


「車輪とは少し違いますが…似たような物です。間も無く到着しますよ。あの、前に見えるのが目的の船、"琥珀の女王号"です」


「琥珀の…女王号?」


 エメリアが顔を上げると、目の前には魚の胴体に鳥の羽を取り付けたような、不思議な形の船があった。胴体の下半分は黒色、上半分は真っ白に塗装され、翼も白と黒を基調に塗られている。所々には筒のような部品も付いているが、何かはわからない。だが、流れるように滑らかな胴体は美しく、エメリアたちの常識では考えられない船の姿だった。


「琥珀の女王号…別名、アンブル・ドゥ・レーヌ号と言います。かつて、リゴ様とオーランド様が惑星探検を夢見て建造を進めていた船です。パルス・ジェット推進と恒星間航行の試験用ワープ・ドライブも搭載しており、航続距離は中々のものです。自衛用のフォトン・バルカンとディフレクター・シールドも完備してますので、多少デブリが多い宙域も突破可能です。それに…」


「わかった。とりあえず、先にソフィアの治療を頼む。急いでくれ」


 何やら凄い船らしいが、エメリアにはさっぱりわからなかったので、素早く説明を流す。リオンは少し低めのピロピロとした音を出して船に急いだ。


 中に入ると、やはり相当に広かった。とはいえ、二人とリオンだけだから広く感じるだけかもしれないが。荷台ごと船の中の一室に運ばれ、ソフィアの治療が始まる。清潔感のある部屋で、エメリアも右腕の怪我を診てもらうことになった。リオンがバタバタしていると、もう一体、リオンみたいな黒い球体が飛んでくる。


「リオン、私もお手伝いしますよ」


「おお、アビー。では、エメリア様をお願いします。右腕を骨折されている可能性があります」


「わかりました。ではエメリア様、私があなたの治療を担当させていただきますね。どうぞアビーとお呼びください」


 真っ黒だが、意外と落ち着く。このリオンとアビーの声が子供のような感じだからだろうか。


「わかった、アビー。エメリア・オーランドだ。よろしく頼むよ」


「畏まりました。よろしくお願いします」


 程なくして、ソフィアが目を覚ます。ボーッとしており、まだハッキリ起きていないようだが、目の前でフヨフヨ浮かぶリオンとアビーの姿を見て、徐々に首を傾げる。そして…


「のわ!!? なんか浮いてる!?」


 元気良く目覚めたソフィアの声に、一同その場で飛び跳ねそうに驚く。とりあえずエメリアが説明する。


「…と、言うわけでだ。このリオンとアビーは私たちの味方だ。安心しろ」


「はー。びっくりしたー」


「びっくりしたのは私たちですよ…ねえ、アビー?」


「まあ…ね」


「えっと…白いフヨフヨさんがリオンで、黒いフヨフヨさんがアビーね!私はソフィア。ソフィア・ルーです。よろしくね!」


 怪我で痛むので、少し辛そうだが、ソフィアはニコッと笑顔で挨拶をする。


「フヨフヨさん…まあいいですよ。私はリオン。これからエメリア様のサポートをさせていただきます。以後、お見知り置きを」


「私はアビーです。私はあなたのサポートをさせていただきます。よろしくお願いしますね、ソフィア・ソランさん」


 ん?なんか変な事を言ったぞ?エメリアとソフィアは顔を見合わせる。


「あのー、アビー? 私はソフィア・ルー。ルー家の長女だよ? 勘違いしてない?」


「おや? おかしいですね? ソフィアさん、あなたはリゴ様のご子孫ですから、ソフィア・ソランではないのですか?」


「私が…なんですか?」


「ですから…あなたは、リゴ様の、ご子孫です!」


 エメリアとソフィアは固まる。理解できないことが起きたようだ。


「え…? 冗談でしょ? 私が、リゴの、子孫? ってことは、リゴは、私の…ご先祖様?」


「はい。データをスキャンしましたが、間違いなく、あなたはリゴ様の直系のご子孫です。血の繋がった御家族ですよ」


「えええええーーー!!!!」


 エメリアとソフィアは二人で一斉に叫ぶ。その声は船のハッチから漏れ、格納庫の中にも響き渡った。



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