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星を巡るソフィア  作者: 彩都 諭
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第16話 ミナリス突入

 第16話 ミナリス突入


 ミナリス。それは、広大な砂漠に聳え立つ、白い塔。


 照りつける太陽の熱で、その姿は蜃気楼のように歪んで見えていた。


 その頂きでは、空を一閃する光の矢を放とうと、青白い光が輝いている。

 それはミナリスの矢と呼ばれる兵器だ。


 外観の美しさとは裏腹に、放たれる矢がもたらす結果は凄惨なものとなる。


 ミナリスの矢を止めるため、ソフィア、エメリア、そしてリゴとその仲間たちが、一斉に突撃する。彼女たちの目の前には表情の無い人形たちが剣や槍などの武器を構え、迎え討とうとしていた。


 これから、戦いが始まる。


「いいか、最優先はミナリス内部に突入し、エメリア姫とソフィアを連れて地下の格納庫に辿り着くこと。それから、ミナリスの矢の発射を止めることだ。二班が突入し、目的を果たす。残りの者は退路の確保の為に敵を食い止めてくれ。みんな、頼むぞ!」


「わかった!」


「人形共は任せろ!」


 リゴの指示で隊形を変え、狼たちが3つの班に分かれる。そして一班が楔のように敵の大群中央に向かって勢い良く突っ込み、突破口を開く。強烈な体当たりを受け、人形たちが四散する。


「…敵が人間でなくて、ついホッとしてしまった。あなたたちが味方で良かった」


 エメリアが身を強張らせて呟く。ソフィアも寒気を感じた。これが戦場。相手が人形だったから、まだ正気を保っていられるのだろう。そうでなければ、卒倒している。


「…どんなものであっても、戦場は恐ろしいところだ。ソフィア、覚えておきなさい」


「うん…わかった」


「よし。では、次は私たちが突入する番だ。しっかり掴まって」


 開かれた突破口を、リゴたちは駆け抜ける。だが、敵も黙って通してはくれない。数の有利を活かして、リゴたちを囲い込もうとする。その動きはリゴの予想より速かった。


「くっ…!反応が速い!こんなに統率されているとは…!」


「リゴ、それはどういうことなのだ?」


「わかりません…昔と人形の動きが違います。この感じは、おそらく敵に指揮官に相当する個体がいるようです」


「指揮官か。なるほどな…。それはあいつの事じゃないか?」


 エメリアが押し寄せる人形の後方を指差すと、そこには巨大な影があった。それも、他の人形と様子が違う。リゴは目を凝らすと、驚愕する。


 その影は、巨大な狼の姿をしていた。いや、狼の姿をした人形と言うべきだろうか。リゴたちと姿は似ているが、身体の所々を人形のような部品が覆っている。


「あれはなんだ…?見たことがない。それに、あの姿は…」


「なんか…リゴに似てる?」


「そうなんだ、ソフィア。私たちの仲間…つまり、獣人である"古狼"の姿をしているんだ」


「でも、あちこち人形みたいになってる…。リゴ、どういうことなの?」


「わからないが…一つ心当たりがある。だが、一体誰が…」


「リゴ、話は後だ!まずは突入しよう!このままでは囲まれるぞ!!」


 リゴは深い思考の海に沈みかけたが、エメリアの言葉で現実に戻る。人形たちが次々に迫り、リゴたちを包囲しつつある。突破口を維持している仲間も押されていた。


「考えてる暇はないか…。ソフィア!エメリア姫!一気に突入するので、しっかり掴まって!!」


 リゴが叫ぶと、ソフィアとエメリアは必死にリゴの背中にしがみつく。そして、リゴの漆黒の体毛が真紅に染まり始める。


 次の瞬間、リゴはミナリスの入り口めがけて突進した。リゴの仲間がその前に出て、先に重厚な扉を体当たりで弾き飛ばす。その直後に、リゴはミナリス内部に滑り込んでいった。



「上手くいったか…。エメリア姫、大丈夫ですか?」


「私は大丈夫だ。そう何度も気絶してたまるものか」


「ソフィアは?大丈夫かい?」


「私も平気!さっすがリゴ!上手くいったね!」


 二人の無事を確認し、リゴは安堵する。だが、後ろを振り返ると入り口の非常隔壁が閉じていくのが見えた。その壁は先ほど弾き飛ばした扉よりも更に頑丈そうだ。


「やれやれ…ここまで頑丈に作っていたとはな。昔は頼もしく思えたが…」


「ん?もしかして、この建物を作ったのはリゴの知り合いなの?」


「そうなんだ。かつての大戦で、私の友が宇宙に出撃する前に、ここを一緒に建造したんだ。そして、しばらくここは私たちが拠点として使用していた。あの戦いで、星は敵に占領されてしまったが、ここは私たちが最後まで守りきっていた」


「リゴの友達が…そうだったんだ。どんな人だったの?」


「とても豪快で、楽しいやつだったよ。家族ぐるみで仲良くしていた、真の友だ。いつか軍を引退したら、私と旅に出ようと約束もしていた。だが、あいつは宇宙軍の指揮官として前線に向かい、そのまま帰って来なかった…」


 リゴは寂しげな目をしていた。遠い遠い昔の話だが、忘れることのない気持ち。その抑えきれない悲しみが、ソフィアたちにも目に見えてわかった。


「リゴ…ごめんなさい。私、またリゴに悲しいことを思い出させちゃった…」


 ソフィアは、あのメリダの花壇でリゴと話した時の事を思い出していた。


「ソフィア…ありがとう。私は大丈夫だよ。別れが辛かったことは確かだが、友の懐かしい話が出来たことは嬉しいんだ。だから今度、またゆっくり話しをさせてくれないかい?」


「うん…ありがとう、リゴ」


「よかった。あ、そうだ。後でソフィアに渡したいものがあるんだ」


「渡したいもの?」


「ああ。その時に、あの花壇で植えていた花の秘密も教えよう」


「あ…!あのお花の!?」


「そうだよ。楽しみにしててほしい」


「うん!ありがとう!」


 ソフィアは満面の笑みを浮かべる。久しぶりにこういう話をしたような気がして、ふとリゴは使命に追われ過ぎていた自分に気づく。無論、今も状況は切迫しているが、肩に力が入り過ぎて空回りしていては、その使命を果たすことは難しいだろう。


(長い時を生きてきたが、やはり慣れぬものだな…)


 リゴはそう思い、微笑む。そして少し吹っ切れた気持ちになっていた。


「さて、リゴよ。これからどうするんだ?結局、内部に突入出来たのは私たちだけのようだが…」


 エメリアに聞かれ、リゴはゆっくり頷く。突入出来たのはここにいる三人だけだ。目的は二つ。宇宙船である「メリダ」の盾を使えるようにするために、ここミナリスの何処かにある箱を入手する事と、「ミナリスの矢」と呼ばれる武器を止める事だ。


「二手に分かれる予定でしたが、私たちは三人だけです。それに、この建物の事を知っているのは私だけなので、一緒に行動しましょう。そしてまず優先すべきは、ミナリスの矢を止める事です。あれを止めなければ、この星からの脱出自体が出来ません」


「そうだな…。では、上に向かうか。それで、どうやって止める?」


「ミナリスの矢の仕組み自体はそんなに難しい物ではありませんので、そう時間はかからないでしょう。ですが、手が足りないので姫様とソフィアにも少し手伝って頂きますが」


「無論、構わないさ。細かい事はわからないと思うが、リゴの指示で動くことは問題ない」


「ありがとうございます。では、行きましょう」


「わかった」


「うん!行こう!」



 三人は再び走り始める。その時、頭上からミナリスの矢が放たれる音が聞こえ、空気が振動した。


 それから、上の方で何かを破壊するような音も轟いていた。


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