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星を巡るソフィア  作者: 彩都 諭
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第14話 出陣

 第14話 出陣


 その日の朝は早かった。


 まだ夜明け前だというのに、人々が忙しなく動いている。


 これからメリダの人々は街を去る。


 西の地へ避難するのだ。



 ソフィアは眠い目を擦りながら、テントの外にいた。カトラがソフィアの身だしなみを整えている。ルーナはソフィアのお弁当を鞄に入れようとしていたが、ソフィアが用意していた荷物が多過ぎたため、中身を減らそうと奮闘している。テオはソフィアに渡す護身用の短刀をどれにしようか、フラガたちと揉めていた。ソフィアはいよいよ、エメリア姫とリゴたちと共に出発する。東を目指すのだ。



「ソフィア、ちゃんと目を覚ましなさい。お母さんがいないからって、だらしない格好はダメよ?」


「ふぁーい。わかってるよ」


 ソフィアは眠そうに返事をする。そこにルーナが何やら怒鳴りながらソフィアの元にやってくる。


「お姉ちゃん!荷物は小さくまとめてって言ったじゃない!枕なんか持ってってどうすんの!お弁当入れるの大変だったんだからね!!」


「わわわ、ごめんごめん!」


 不機嫌なルーナの怒鳴り声を聞いて、ソフィアはさすがに慌てる。少し眠気が覚めてきた。


「ルーナの怒鳴り声を聴くのも、名残惜しくなっちゃった。初めてだよね?こんなに離れ離れになるの」


 そう言って寂しそうな顔をするソフィアに、ルーナが再び怒鳴る。


「お姉ちゃん!たった二日くらいでしょ?そんな顔しないで、シャキッとしなよ!!私もついてこうか!?」


「いやいやいや、ルーナはまだ怪我の具合もあるし、ダメだって!お姉ちゃん頑張るから。ね?」


「もう…お姉ちゃんったら」


 ソフィアは初めてメリダの外に出て旅をする。短い旅だが、ルーナと離れるのは初めてのことだった。無理を言ってリゴたちについて行くと決めたのだが、その時が近づくと少し心細くなる。


 そこにテオたちがやってきた。ソフィアに渡す護身用の短刀がやっと決まったようだ。


「さあ、ソフィア。これがお前を護ってくれる剣だ。小ぶりなダガーだが、私と優秀な部下たちのお墨付きだ。しっかり持ってるんだぞ?」


 テオがソフィアにダガーを手渡す。確かに小ぶりだが、質実剛健で無駄のないデザインだ。それに、ソフィアでも軽々と持てるほど軽い。ソフィアは初めて手に取った剣を、鞘からゆっくり抜く。


「わぁ…空の色が映ってる」


 ダガーの刃に、朝焼けの色が反射する。ソフィアはしばし、目を奪われた。


「本当は…お前に武器を持って欲しくはなかったがな。今でもお前にはお母さんたちといて欲しい」


 テオはカトラとルーナを見つめながら呟く。二人も心配そうな面持ちだ。本心から言えば、家族みんな揃っていたいと思っている。ソフィアもその気持ちと痛い程葛藤していた。だが、ソフィアは譲れない決意を固めていた。


「ごめんね…私、我儘を通してる。わかってるの。でも、ジッとしてるのは嫌なんだ。どうしても、リゴたちを助けたい。ほんの僅かでも力になりたいの」


 ダガーをしっかりと鞘に納め、ソフィアはテオの顔を、目を真っ直ぐ見る。


「だから、お父さん!私、行くよ!」


 テオの体を貫くような、ハッキリとした言葉だった。テオはスッと涙を流す。それは悲しい涙ではなく、娘の決意に心を激しく揺さぶられて自然に出た涙だった。不思議と体の奥底から力が湧くような熱いものが、テオに込み上がってくる。そしてテオは感情のままに、ソフィアを強く抱きしめた。


「行きなさい、ソフィア。お前の心のままに、行ってきなさい。私たちは待ってる」


「うん。行ってきます」


 ソフィアも気持ちが昂ぶり、涙する。カトラとルーナも駆け寄り、家族で抱き合った。



 そして、その時がやってくる。南門には二つの集団が西と東に向けて並んでいた。西へ避難する集団と、東へ出陣する集団だ。テオたちが避難する人々を導き、エメリア姫が巨躯の狼たちを率いていた。二つの集団はこれから互いに別の道を進む。だが、最後に交わる所は一緒だ。


 先にメリダを離れるのは、エメリアたちだった。エメリアとソフィアは、狼の姿になったリゴの背中に乗っている。

 そこにマルセラが馬に乗り、単騎でリゴたちに近づく。


「私はこれから南の避難状況を確認しに行きます。単騎なので、夜には王都に着くと思います。確認次第、脱出の最終段階に備える予定です。エメリア姫、リゴ、そしてソフィア。御武運を祈ります…」


「うむ…。マルセラ殿も道中は気をつけて。それから…」


 エメリアは少し口ごもる。昨夜からの不安が胸を締め付けていた。


「陛下に会えたら…その…」


 マルセラはエメリアの意を察すると、しっかりと頷いた。


「承知致しました、姫。それでは、行って参ります」


「ありがとう。お願いします」


 マルセラはエメリアの手を軽く握り、すぐに馬首を返し、背を向ける。


「マルセラ!頼んだぞ!」


「マルセラさん!気をつけて!」


 リゴとソフィア、エメリアに見送られ、マルセラは王都への道を疾風のように駆けていった。エメリアが迷いを振り切るように首を振り、両手で頰を叩く。そして剣を抜き、天に向かって高く掲げた。


「狼の戦士たちよ!!これより、東へ出陣するぞ!!」


 エメリアが叫ぶと、付き従う狼の一団の空気が変わる。一人一人が凄まじい気迫を放ち、大地に降ろしている脚に力を込める。ソフィアは張り詰めた空気に圧倒され、緊張で手足が震え始めていた。一緒に乗っているエメリアの声が背中越しに聞こえる。


「ソフィア、大丈夫だ。私とリゴがついている。前を真っ直ぐ見るんだ」


 エメリアがソフィアの肩に片手を乗せる。その手の温もりが肩に伝わり、ソフィアは幾らか安堵できた。


 エメリアはニッコリと笑い、一度頷く。それからすぐに将軍の顔に戻り、叫ぶ。


「この世界を永きに渡り護り続けてくれた諸君の力、もう一度貸してほしい!!未来へ道を繋げるために!!」


 周囲の狼たちと、リゴが応えるように叫び声を放つ。辺りは狼の遠吠えに包まれた。その声に負けじとエメリアが叫び返す。


「アリアスの守護者たちよ、我らは使命を果たすぞ!!進めーー!!!」


「おおおおーーーー!!!!」



 一斉に狼たちが疾走を始める。砂煙が立ち上り、大地は激しく揺さぶられた。エメリアたちは東へと一直線に出陣した。


 その出陣に合わせて、メリダの壁の上から角笛の重厚な音が鳴り響く。手持ちではない、城塞に備え付けられた角笛の音色だ。この合図で、今度は西の大集団が動き始める。


 テオたちは後ろを振り向くことなく、前進の指示を出した。


 西へ東へ、それぞれが未来に向けて動き出す。


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