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星を巡るソフィア  作者: 彩都 諭
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第1話 はじまり

 

 名前も知らない


 途方もなく遠く遠く離れた


 夜空にぽつんと浮かぶ星


 その星の中の


 小さな世界から始まる物語



 第1話 はじまり


「お姉ちゃーん、朝御飯出来たよ!起きて起きて!」


「はーい!はいはいはーい!」


 階下からの姉を朝食に呼ぶ声に、慌てた声が返ってくる。そして階段を、ドタドタと寝間着姿の少女が駆け下りてきた。

 彼女の名前はソフィア・ルー。今年で16歳になる。小柄に細身で、幼さが残る顔立ちだが、パッチリとした青い瞳、後ろに束ねた長い金髪、そして良く通る声が、はつらつとした印象を与えてくれている。


 ソフィアが下に降りると、赤毛に短髪の少女がおたまを片手に待ち構えていた。


「おはよう、ルーナ。ん〜、美味しそうないい匂い!」


「お姉ちゃん、着替えて顔くらい洗わないと…お母さんに見られたら、怒られちゃうよ?」


 呆れた顔で、ルーナはソフィアに呟く。

 ルーナ・ルーはソフィアの1歳違いの妹だが、ソフィアよりも身長が高く、小さい頃から家事もこなすしっかり者で、特に料理が大好きだ。仕事で留守がちな両親にかわって、家をしっかりと支えている。ソフィアもできる妹に、家事面ですっかり甘えていた。


「お姉ちゃん、今日もお花のおじいちゃんに会いに行くの?」

「んぐっ。うん!そうだよー。今日は東門の方まで行くつもり」

 食べかけのベーコンを飲み込み、ソフィアが答える。ソフィアは最近、街中の花壇を世話している、「お花のおじいちゃん」と呼ばれる老人の元へ通っている。老人は口数が少なく、いつも一人で花たちの世話をしてるので、その様子を眺めていたソフィアから、手伝いを申し出たそうだ。老人からの返事は無かったが、只々、手振りで花壇の作業を指示していた。

「ふーん。あの飽きっぽいお姉ちゃんが、意外と熱心だね。お花のおじいちゃんとは話せたの?お姉ちゃん、名前も教えてくれないし」

「名前かぁ。教えてくれないんだよね、おじいちゃん。挨拶くらいはしてくれるけど、あとは無口でさ」

 それを聞いたルーナは、小さく溜め息を漏らす。

「お姉ちゃん、あのおじいちゃんは悪い人ではないんだろうけど、少しは他人を警戒した方がいいんじゃない?そのうち悪い人にだまされちゃうよ?」

「だって…あんなにでっかい花壇を一人でお世話するの大変でしょ?それに…」

「それに?」

「おじいちゃん、なんというかさ、お花の世話をしている時、少し寂しそうな顔してたんだ」

 ソフィアがそう言うと、ルーナは軽く息を吐いた。

「お姉ちゃんはもう、お人好しなんだから。でも、迷惑かけちゃダメだからね。無理しないで、手伝いが必要な時は言うんだよ?」

 朝食の残りを食べ続けているソフィアは、ルーナに手振りで答える。

 ルーナはまた呆れた顔をしたが、しょうがないな、という諦めの笑顔で応えて、食器の片付けを始めた。


 ソフィアたちが暮らしているのは、アリアス王国の最北にある都市、メリダだ。この街は北の境であるエバ山脈の麓に位置している。エバ山脈は東西に長く聳え立ち、その標高の高さから山脈の北方は様子がわからなくなっている。山を越えた先に国があるのか、そもそも生き物が暮らしているかさえ、何もわからない。

 北の話だけではない。アリアス王国の東の境の先は荒野が続き、近年は砂漠化している。南の境の森林を越えた先も、同じように砂漠が迫っている。

 そしてーー西の境は海が広がっているが、大地に亀裂が走り、その裂け目は南北に深く刻まれ、北のエバ山脈にまで達している。海は裂け目にのみこまれ、その深さを見通すことは出来ない。

 そう、アリアス王国は孤立していた。

 いつの時代からこうなっていたのか、記録は一切ない。他の国があるのか、そもそも人がいるのか、何もわからない。


 ただ一つだけ、王家には変わった言葉が残されていた。


 世界はもう終わっている。あとは、新しい世界を始められるかだ


 始めたければ、船に乗るといい


 だが船に乗り、出帆すれば


 私たちは故郷を失うだろう



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