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空色パレット、海色キャンバス  作者: FRIDAY
弐 混色交錯
8/33

今年は東高で開催します

 東西合同文化祭、というらしい。その意味するところを説明すると、こうだ。

「昔からこの東高と、隣――というほど近くもないけど――の西高は仲が良くってね。それぞれの部活間でもそうなんだけど、ことによっては学校の行事も一緒に催したりするんだよ。文化祭もそのひとつ。開催校は一年ごとに交代で行っていて、今年はこっち、東高で開催するんだよね」

 いつものように描き終えた林檎を剥きながら、沢城先輩はそう言った。そんなに仲がいいんですか、と俺は返した。具体的には、誰と誰の仲がいいのやら。


「まあ平たく言ってしまうと、ホスト側の学校が出し物なんかを提供して、招かれる側はそれを楽しむ、というのが実情なんだけれど、部活や、生徒会主催のイベントなんかは両方の高校が勢いよく参加しているね」

 沢城先輩は剥き終えた林檎を俺に手渡した。この日は珍しく統也も園田先輩もいなかったから、俺と沢城先輩で林檎は二等分だった。


 行事を二校が協同で行う、というのは結構なことだが、それにこの美術部はどのようにかかわるのか、俺にとって直接重要なのはそこだ。どのみち俺は文化祭や体育祭で白熱できるタイプではないので、俺は俺の必要なことをするまで――だから沢城先輩にそこのところを訊いてみた。

 うん、と沢城先輩はひとつ頷いて、自分の分の林檎を半分ほど食べ、

「例年、うちの美術部も、西高の美術部と一緒に参加しているよ――とはいっても、そんなにハイテンションに盛り上がっていくわけじゃないから心配しないで。共同制作をいくつかして、あとは校内の装飾のデザインを、これは生徒会も一緒になってやってるかな。西高の方は例年通りだとその場で似顔絵描きやってるね。うちは、この」

 沢城先輩がキャンバスを、つまりは林檎が描かれたそれを示す。

「私が描いた大量の林檎の絵を売ったりしてる」

 売っていたのか。どれぐらい売れるものなのかと訊いたら、去年はほとんど売れたということだった。――ということは、実際のところ沢城先輩の林檎の絵は今見える数の倍以上はあったということか。


 文化祭に美術部がどういった形で参加しているのかはわかった。そこで次に気になるのは俺の立ち位置だ。俺は美術部員でありながら絵を描かない幽霊的存在ではあるけれども、出来る範囲で手伝うことはやぶさかではない。

 というようなことを、口には出さなかったが顔には出ていたのか、沢城先輩は軽く笑った。

「今年はね、折角だから生徒会のイベントにも参加しようかなって思ってる。君に手伝ってもらえるなら……なんだけど。イベントにまで出てほしいとは言わないよ。ただ、私がそれに出ている間に、ここの店番をしていてほしいんだ」

 勿論お手伝いします、と俺は答えた。むしろずっと店番やっててもいいくらいです。

 名実ともに部活動への参加ができるのなら、クラス活動に参加しない大義名分ができるわけだし。

 有り難う、と先輩は笑った。


 もっとも、店番だけなのならやはり俺が夏休みにわざわざ登校するわけにはならない。だから、ここまでは依然として、俺が夏休みにも拘らず家で惰眠を貪ることなく学校にやって来ている理由の前振りにしかならない――もったいぶることはない、簡潔に言ってしまおう。

 西高の美術部との顔合わせ、である。

 代表、つまりは部長、副部長どうしの顔合わせ、それと打ち合わせだ。開催校が東高だから、今年は西高の美術部が東高に来ることになっている。それと俺に何の関係があるのかというと、東高の部長は沢城先輩だが、それ以外の部員がいなかったため副部長がいなかった。

 そこに俺が入ったということは、自動的に俺が副部長の座にはまる、ということだ。


 ちなみにそこに、俺は入ってしばらくしてから気づいた――とは言っても、実質それで俺の何かが変わるようなことはなかった。だからこそ気付くのが遅れたとも言える。

 何せ、部活動としての仕事はほぼ全て沢城先輩が処理していたからだ。


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