『あお』
お前は何色が好きか、と問われれば、俺は間違いなく「青」と即答する。
より正確に言うのなら、「青系統の色全般」だ。
青、ブルー、紺、藍、群青、縹、水色、空色、その他諸々。
およそどんな青でもいい。
では、なぜ青が好きなのか、と問われれば、しかし俺は恐らく、答えない。即答どころか、曖昧に濁すだろう。
なぜか。
それは別に、何かセンチメンタルな理由や、ロマンティックな過去があるというわけではない。
ただ、一枚の絵があるだけだ。
俺が卒業した中学校、そのとある階段の踊り場にかけられていた、一枚の大きな絵。
『永遠の青』。
そう題されたその絵が、俺の根底に存在している。
それがどんな絵なのかを、説明することは酷く難しい。その難しさゆえに、俺が青を好きな理由を説明することができない。
構図を述べるだけならば簡単だ。そこは恐らく空想の世界。どこまでも空と海とが広がり、最果ての境界にまで続く。そして、その最奥を臨んで、ひとりの少女が佇んでいる。
そんな絵だ。
けれど、俺の見た本質はそこではない。それだけでは、俺が青を好きな理由にはならない。
その絵には。
『永遠の青』には。
およそ思いつく限りの、ありとあらゆる『あお』が、封じ込められていた。
あの『あお』を忘れられない俺は、ただ『あお』を求めるようになり。
そして今でも、あの『永遠の青』の描き手を探している。