走れ、間に合え
走る。
全力で、誰もいない廊下を疾走する。
目指す場所は定まっていない。ただ、視線は忙しくそこら中に走らせる。
俺が美術室を空けて自分の教室に行っていた時間は、精々五分程度のはずだ。少なくとも、十分はかかっていない。その間に、あの絵はあそこに置かれたはずだ。
タイミングだ。根拠はないが、このすれ違いはきっと偶然によるものだろう。初めからあの絵はあそこに置いて、置くだけで目的を果たして、立ち去った。俺が一旦美術室を出るのを待っていたのではなく、偶然俺が出ていった直後にやって来ただけだ。
すれ違いだ。
だから、まだそう遠くまでは行っていないはず。
間に合うか。
間に合え。
このまま俺が美術部を退部するにしても、すれ違ったまま終わってたまるか。後味の悪いことこの上ないじゃないか。
走って、探して、考える。
闇雲に走ってもダメだ。ただでさえ迷いやすいこの校内で適当に走っていたのでは、まず追いつけないだろう。まさかあれを置いてダッシュで走って帰った、ということもないはずだから、歩きの速度で――
というか、まずどこへ向かったのかを考えるべきか。
どこだ?
考えろ。
教室か。
職員室か。
いや、違う。
絵を置きに来ただけなら――
全力でブレーキを掛ける。あまりにも急だったために思いきり足首をひねりそうになったが、とにかく止まった。
場所は二階、渡り廊下。
開いていた窓から勢いよく身を乗り出す。
そこは奇しくもちょうど、生徒玄関から校門までが一望できる位置だった。
見る。
既に下校の時間は過ぎていて、下校しようとしている生徒はいない。もう帰ったか、部活動に参加しているか、だ。だから、そこにある人影が答え。
「…………!」
沢城先輩――!




