キャンバスは色のないまま
ずっと、ぼんやりしている。
座った時には高いところにあった太陽も、気が付けばもうほとんど沈んでいた。
斜陽が緩やかに、窓から差し込んでいる。西向きのこの部屋は、美術室と同じように西日が直に射しこむため、温度のない日差しは暑くはないけれど、途方もなく眩しい。
「…………」
また、黙って座ったままに終わってしまった。
正面に向かい合ったキャンバスは、ただの一筆も載せられることなく白いままだ。
私は、ため息をついた。
これで、もう何日目だろう。――私は、左手に持ったパレットを見下ろす。
木製のそれは、私がいつも使っているものではなく、新しく購入したものだ。けれど、それにもまた、一色も載せられることなく、乾いたまま。
筆の穂先も、色のないまま。
私は、深く吐息した。
描こうという意志は、ある。だから私は、こうしてキャンバスを前に座っている。
けれど、何も描き出せない。
何ひとつ、思い浮かばない。
――沢城先輩は、どうして青を使わないんですか。
蘇るのは、滝崎くんの厳しい声と、表情だ。
あれ以来、私は滝崎くんとは会っていない。
――青を、使ってください。
滝崎くんの、まっすぐに私を見る目を思い出す。
かつて一度も見たことのない、滝崎くんの剥き出しの感情。
どうして、そんなことを言うの。
私の過去を知った君は。
――俺は、先輩の描く青が見たい。
「…………」
私はまた、深く細く吐息した。
色のないままのキャンバスから視線を逸らし、斜陽で目を灼く。
……私は、怖いよ。滝崎くん。




