表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空色パレット、海色キャンバス  作者: FRIDAY
参 無色透明
23/33

キャンバスは色のないまま

 ずっと、ぼんやりしている。

 座った時には高いところにあった太陽も、気が付けばもうほとんど沈んでいた。

 斜陽が緩やかに、窓から差し込んでいる。西向きのこの部屋は、美術室と同じように西日が直に射しこむため、温度のない日差しは暑くはないけれど、途方もなく眩しい。


「…………」

 また、黙って座ったままに終わってしまった。

 正面に向かい合ったキャンバスは、ただの一筆も載せられることなく白いままだ。


 私は、ため息をついた。

 これで、もう何日目だろう。――私は、左手に持ったパレットを見下ろす。

 木製のそれは、私がいつも使っているものではなく、新しく購入したものだ。けれど、それにもまた、一色も載せられることなく、乾いたまま。

 筆の穂先も、色のないまま。

 私は、深く吐息した。


 描こうという意志は、ある。だから私は、こうしてキャンバスを前に座っている。

 けれど、何も描き出せない。

 何ひとつ、思い浮かばない。



 ――沢城先輩は、どうして青を使わないんですか。



 蘇るのは、滝崎くんの厳しい声と、表情だ。

 あれ以来、私は滝崎くんとは会っていない。



 ――青を、使ってください。



 滝崎くんの、まっすぐに私を見る目を思い出す。

 かつて一度も見たことのない、滝崎くんの剥き出しの感情。

 どうして、そんなことを言うの。

 私の過去を知った君は。



 ――俺は、先輩の描く青が見たい。



「…………」

 私はまた、深く細く吐息した。

 色のないままのキャンバスから視線を逸らし、斜陽で目を灼く。

 ……私は、怖いよ。滝崎くん。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ