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空色パレット、海色キャンバス  作者: FRIDAY
弐 混色交錯
21/33

自問する

 それからの文化祭において、俺は見事に何もしていなかったに等しい数日を過ごした。

 勿論、当初の予定通り、そして宣言通りに店番をやり通したのだが、統也や園田先輩との絡みも、戸木沢先輩や古谷先輩との会話も、沢城先輩とのやり取りにおいてさえ、終始一貫して上の空になってしまっていた。


 ずっと、考えていたのだ。

 大宮さんの話。

 沢城先輩の過去。

 そして――俺の動機。


 俺なら、沢城先輩に再び青を使わせることができるかもしれないと、大宮さんは言った。

 だが、理由がない。俺が沢城先輩に、青を使うよう働きかける理由が。

 俺は『永遠の青』の作者が知りたい。

 沢城先輩がかつて描き出した青は、『永遠の青』によく似ている。

 俺は――沢城先輩の青が、見たいか?

 どうなんだ。

 自問する。自問する。自問する。

 俺は――


「――滝崎くん?」

 気が付くと、沢城先輩が俺の顔を下から覗き込んでいた。

「……あ、はい、何でしょう」

「何でしょうって言うか……滝崎くん、ここ何日かずっとぼんやりしてて、何かあったの?」

「何か……いえ」俺は視線を逸らした。「特には、何も」

「そう?」


 沢城先輩は、あからさまに不審そうだ。だから俺は、何でもないことを主張するべく口を開き、しかし何も思い浮かばず、

「あっれー、タッキー、またぼんやりして、楽しまなきゃ損だよー?」

「そうだよー、盛り上がってないのもうザキくんだけだよー!」

 部外者がうるさい。

「あんたら美術部関係ないだろうが。何でいる」

「いいじゃないかー、ねえ?」

「そうだよー、ねえ?」

「いいんだよー」

 応じたのは、戸木沢先輩だ。俺は深くため息をついた。


 文化祭が終わっての、東高と西高の美術部による打ち上げ、である。東高の美術室でジュースパーティ、的な。若干名部外者も混ざっているが。

「俺はもともと、盛り上がりに欠ける人間だから」

「タッキー、何をネガティブなことを……」

「というか統也、園田先輩も、自分たちの部活の方での打ち上げは」

「この後行くー」

 ねー、と統也と園田先輩。

 阿保ふたりが、仲良くなりやがって。鬱陶しい。


「でも実際さ、タッキー。沢城先輩の言う通り、このところ随分ぼけっとしてるよ」

 確かに、と園田先輩も統也と並んで俺の顔を覗き込む。ふむ、ほほう、と園田先輩が頷いて、

「……ボケた?」

「…………」

「痛っ、あ痛っ、ちょ、ザキくん、一応は先輩の頭をチョップでなんて!」

 はあ、と俺は大きくため息をついた。しっし、と阿保ふたりを追い払い――少し考えて、統也だけ手招きして戻す。


「ん、なに」

「ああ――なあ、統也」

 迷いながらも、俺は問う。

「『青』の話なんだが……あれから、何かわかったことはないか」

「ん? ああ、そうだね。そういえば――」

 ああ、と顔を明るくして統也は何かを言おうと大きく口を開き、つい、と視線を反らして、閉じた。

「――いや、まだ何もわかってないかな」

「……ほんとか? 今、何か」

「まだだよ。全然。そりゃまあ、ちょっとずつ情報を集めてはいるけれど、まだまとまってないしタッキーに報告するほどじゃないよ」

「そう、か」

 統也が新しく何かを掴んでいれば、それが判断材料にもなるかと思ったんだが……何もないのなら、仕方がない。俺は俺で考えるしかない、か。


 ふう、と吐息していると、また沢城先輩が心配そうな顔で近寄ってきた。

「本当に、大丈夫なの? 滝崎くん。悩みとかあったら、言える範囲でもいいから、相談してくれたら、乗るよ? 人に話すだけでも楽になるって言うし」

「あ、沢城先輩……いえ」

 俺は、首を振った。

「本当に、何でもないんです。大丈夫ですから」

「……そう?」

「ええ。――ええ、本当に」

 何度も頷いて、俺は、まじまじと沢城先輩を見下ろした。うん? と沢城先輩は小首を傾げる。けれど俺は、やはり何も言わない。


 大宮さんに、話を聞いたことも。

 沢城先輩の、青についても。


「――沢城先輩、そういえばあの後、大宮さんには会えたんですか?」

 ずっとぼんやりしていたので訊いていなかった。大宮さんは、会いに行くとは言っていたが。

 沢城先輩は、にこっと笑った。


「あ、うん。会えたよ。はるかちゃん、大学生になってから忙しいって、なかなか会う機会がなかったから、嬉しかった」

 そうですか、と俺は頷いて、沢城先輩を見る。

 青を使うことのできない、沢城先輩。

 俺は――


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