いきなり
「私が今ここで君に『永遠の青』について教えることは簡単だ。そしてそれで君は満足して、君の物語は終わる。解決する。けれど私は、思ったわけだ。どうせなら、そのついででいい、小春のことも助けてほしい――」大宮さんは、首を横に振った。「――違うな。助けて、なんて言葉はおこがましい。小春はそんなこと思ってなんかいないだろうし。だからこれは、私の勝手な願いだ。小春を、変えてほしい」
「……変える?」
俺は訊き返す。
「それは、沢城先輩に青を使うようになってほしいということですか」
「そう。そういうこと。私にはできなくて、でも君にならできるかもしれないこと」
「……わけがわかりません」
俺は吐息する。
「大宮さんが俺に何を見たのかわかりませんけど、俺は誰かを変えられるような人間じゃないです」
「いやいや、そんなことはないよ。人は人の中で変わっていくもの。誰かは誰かを変えていってしまうものさ。望むと望まざるとに関わらずね。そして君は、小春を私の望む方向へ変えてくれる人材とみた」
「何を根拠に」
「女の勘かな」
さらっと言うが、それは無根拠と同義だろう。よく聞く表現ではあるが。
「でも、よく当たる直感だ」
「…………」
「まあ、聞くだけ聞いてよ。それが『永遠の青』と関係があろうとなかろうと、悪いようにはならないし――それに、何となくだけど、ここで私が教えなくても『永遠の青』についてはもうすぐ明らかになるんだろうし」
「それも、女の勘ですか」
「うん、そう」
俺は深くため息をついた。わざわざここまで、恥を忍んでメイド喫茶に入ってまで、収穫はなし、か。わざわざ沢城先輩に店番を頼んでまで、とんだ無駄足。
いや……でも、どうなんだろう。
正面でにこにこと笑んでいる大宮さんを見る。
本当に、全く関係のない話、なんだろうか。
俺が『永遠の青』について調べているという話を聞いて、その上であえて沢城先輩の話をする、という。その関係の有無について大宮さんは肯定も否定もしていない、が。
……関係が、あるのか?
だが、やはり迷いもする。
ことは沢城先輩の話だ。
それを、当人のいないところでするというのは――
「それじゃあ、話そう」
「え、ちょっと待って下さい」
「小春が青を使わなくなった話だ」
俺の制止を全く聞かず、にこにこと大宮さんは話を始めてしまう。
「大きな原因は、小春の母親が亡くなったことにある」
「……え」
いきなり、重かった。




