関係と期待
裁縫部の部室は知っていた。そこが喫茶店を開いていることは大宮さんから聞いていた。
けれど、まさかそれがメイド喫茶だとは。
何だか非常に入りにくい。
裁縫部がどうしてメイド喫茶なのかというのは、店員の衣装が裁縫部の手製、だということだ。成程よくできている。けれど入りにくいことに変わりはない。
だが入りにくくとも入らないわけにはいかない。まして、中のテーブルのひとつに既に大宮さんがついているのを見かけたのだから、絶対に入れないということは幸か不幸かなかったため、そういえば持っていた生徒会企画の景品であるタダ券を使用して入った。
「――お、来たね滝崎くん」
俺を見つけて、大宮さんはにっと笑った。まあ座って、と促され、俺は大宮さんに向かい合う席につく。注文は、コーヒーはよくわからないので適当なものを頼んだ。
「さて、この時間を指定した私が言うのもなんだけど、あんまり余裕があるわけでもないから、さっさと本題に入っちゃおうか」
そう言って、大宮さんは両肘をテーブルにつき重ねた両手の上に顎を置いて笑った。俺は、頷く。
「『永遠の青』について、知っている範囲でいいんです。教えてください」
「御免ね。それについては答えられないんだ」
即答だった。
「……はい?」
俺は、自分の耳を疑って思わず訊き返した。
何だって?
「いや、でも大宮さん」先輩、という敬称はやはりしっくりこない「それについて、教えてくれるって」
「うん、だから御免。考えてみたんだけれど、私が教えてあげるわけには、いかない」
どうして。俺は唖然として、すぐに腹の底に黒いものが渦巻くのを感じた。目の前に答えを持っている人がいるのに、教えてくれない?
なぜだ。
だが、怒りに任せて俺が口を開く寸前で、大宮さんはするっと言葉を挟んできた。
「だから、私は君に、『境界の青』について教える」
「――はい?」
話の展開についていけず、俺の怒りは行き場を見失って立ち消えてしまった。
「沢城先輩の?」
「そう。小春の青について」
穏やかな微笑のまま、大宮さんは頷く。だけど、俺には何が何だかわけがわからない。
「『永遠の青』と、沢城先輩の青に、何か関係があるんですか」
辛うじて声を押し殺して訊くが、大宮さんは小首を傾げて笑むだけだ。
わけがわからない。
「どうして」
「君なら、小春にまた青を使わせることができるかもしれない――」
俺の言葉を遮って、大宮さんは言った。は、とますますわけのわからない顔をする俺に対し、大宮さんは笑みを深める。
「――と、思って」




