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空色パレット、海色キャンバス  作者: FRIDAY
弐 混色交錯
13/33

学祭の進行予定

 東高の文化祭、というよりは、東西合同文化祭は例年平日の三日間開催される。平日とはいえ、一般客や他校生も数多くやって来る。この時期はどこも学祭シーズンだからだ。そこで来校した別の高校に通う同期と旧交を温めたりするのだろう。そんなもん、俺には皆無だが。基本的には出店と、生徒会主催の中庭企画で構成されている。もっとも、どちらも結局は学生の自己満足的な側面が強いもので完成度は目も当てられないものばかりだ。けれどもきっと、数年後に振りかえったときには都合よく大切な思い出か何かに昇華しているのだろう。下らない記憶として大半を消化してしまうであろう俺にはわからない感覚だ。まあ、この時期は平常授業がほぼなくなるから、それだけが俺にとっての安らぎだ。


 とにかく、文化祭である。開祭宣言前の早朝、登校したときには既に浮ついた雰囲気が学校中に蔓延していた。――温度の低い俺にはかったるいこと仕方がない。

 部活動の関係で、出店用のテントを組んでいる横を抜け、一度自分の教室に向かう。顔を出すだけだ。結局のところ、完全にクラス側にノータッチだった俺は、もはや完全に輪の外側だった。


 一応挨拶をして、過去最短のHRを終え、最終調整に鬨の声を上げるクラスメートの隙間をそっと抜けて、俺は美術室へ向かった。聞けば、クラスは某アイドルグループのパロディステージを教室でやるのだそうだ。悪いが、もう徹頭徹尾付き合ってられん。


 喧騒を抜け、美術室のところまで来るとさすがに静かになる。この辺りには、血圧の上げようのない書道部などしか並んでいないからだ。

 行く必要性をまるで感じていないながらも習慣として職員室を確認してからやって来た俺は、一切溜めなく美術室の戸を引いた。――当然の如く、抵抗なく戸は開いた。


「――あ、来たね。おはよう滝崎くん」

「おはようございます。先に失礼しています」

「どうもー」

 沢城先輩と、古谷先輩、戸木沢先輩も既にいた。それぞれに会釈を返して、俺は適当なところに鞄を置く。


「この後、西高の人たちもおいおい来るよ」

「何人くらいでしたっけ」

「私たちを含めて十三人です」

 古谷先輩の答えに、俺はちょっと考えて鞄を取り、もっと隅へ置き直した――多いんだよな、そういえば。


「私の方からは、この林檎の絵を売って、西高の方は似顔絵描き、ね。西高側は、二、三人が常駐してるんだよね?」

「ええ。ローテーションも決まってます」

「で、受付とかは」

「俺ですね。任せてください」

 俺は無駄に胸を張って応じる。椅子に座ってぼんやりしているだけなら楽なものだ。しかも、それを名目にクラスのダンスステージに登る必要もないのだから、これはもう天職である。けれども沢城先輩は、ちょっと申し訳なさそうな顔になる。


「この間は、滝崎くんがほぼ一日中店番することで決まったけど……私だって別に忙しいわけじゃないんだから、遊びに行ってもいいんだよ?」

「そんな! 俺がこの三日間働かなかったら、俺は本当にただの置物ですよ!」働く内容だって置物に相違はないのだが。「むしろ働かせてください。沢城先輩こそ目一杯遊んでくださいよ」

 ……何より、俺は祭りとか苦手だし。

 本音は胸の内に仕舞っておくとして、ややオーバー過ぎるくらいの言い方だったが、そう? と沢城先輩は一応は頷いてくれた。


「生徒会の企画が中庭で、学祭外部解放の十時からあります。私たち美術部がエントリーしているのは十二時からの部活動対抗企画で、三つ。予定時間はおよそ二時間となっていますね」

 学祭のチラシを見ながら、古谷先輩が言う。


「そういえば、その部活動対抗企画って、内容は何をやるんですか?」

「ああ、それはね、公平を規すためってことで詳細は伏せられてたよ。まあ、今日は文化部の対抗戦なわけだし、それに準じたものじゃないかな。ちなみに景品は、部員の人数分の、出店のタダ券だって」

「成程」


 もとより出店になど行く気のない俺にとっては別に欲しいものでもないが……どのみち、俺はそっちには出ないし。

「頑張ってください」

「有り難う。頑張るよ」

 そう言って、沢城先輩は笑った。その後ろでは戸木沢先輩がおもむろに、夏服で半袖なのにありもしない腕まくりなどしていて、古谷先輩は品よく微笑んでいた。

 楽しそうで何よりだ。


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