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 大通りに出ると、街の明かりが眩しかった。


 振り返ると薄暗い路地裏に人間だった肉塊が3つ、うずくまって呻いている男が1人居る。

 血が地面や壁面に飛び散っている。俺の腹も血まみれだ。


 騒ぎを聞きつけたのか、その後直ぐに警備兵が3名来る。

 レオ爺を見た警備兵は敬礼をしてレオ爺に状況を聞いているようだ。

 呻いている1名を騎士団へ連れてくるようにレオ爺が警備兵へ話しているのが聞こえ、警備兵が男を縄で縛り上げた。

 男の拘束を確認したレオ爺は、俺にゆっくりでもいいので騎士団へ来るよう伝えて騎士団に向かって走り出す。


 俺は警備兵に体を隠す布を貰い、路地裏で胸の傷を回復させる。

 そして、布を被って妖精ちゃんを頭に乗せ、警備兵1名と共に騎士団へゆっくりと歩き出したのだった。




「入ります」


 俺がミレーの部屋に入ると、既にミレーとレオ爺が待ち構えていた。

 ミレーはレオ爺から状況を聞いたのか、涼しい顔で話を切り出してくる。


「リーナ。君の事は騎士団内でも少しは話題になっているようだ。口外しないように注意はしているが――」


「騎士団から教会へ漏れていると言いたいのか。もしくは騎士団内に教会の者がいると?」


「俺は知らないな。だが、教会の伝手で襲われた可能性はある。教会へは話をしてみよう」


(ううぅ~~~!)


「……」


 問いかけるレオ爺の表情は硬く、妖精ちゃんは狸野郎……ミレーを睨んでいる。俺は怒りを通り越して呆れ果てているが。

 そして翌日の昼過ぎ、この部屋にくる様にミレーに言われる。

 思うにこの職場、ちょっとブラック過ぎじゃありませんかね?

 結局、この日は明日の予定を持って解散したのだった。




「尋問したが、教会の痕跡は見当たらなかったそうだ」


「やはりな。それなりに手練れた奴らだったが下っ端だろう」


 翌日のミレーが書類を掲げながら報告する。

 レオ爺は結果が分かっていたのか、それ以上話が進むことも無かった。

 議題は次に移る。先日の外回りは続行するとのことだ。

 俺はミレーへ質問する。


「護衛を増やして欲しいのですが」


「ふむ……。1名増やすのは問題ないが、護衛はリーナで決めて欲しい。俺は上へ話を通す」


 元々予定していた護衛1名分の手当ては、ミレーに確認するとそのまま貰えるらしい。

 さらに外回りの行き先の詳細も話される。

 出発は1週間後。国内だけでなく友好国である南の国へも行くことになるため、約4ヵ月の日程との事。

 せっかく護衛を選べるので、ドルドへ話をするためレオ爺とオンボロ宿へ向かうことにする。




「がはははは。面白そうじゃねぇか!いいぜ!!」


(騒がしいのです……)


 ドルドに確認すると同行してもいいとのことだ。妖精ちゃんはテンション駄々落ちである。

 念のため嫁は大丈夫か聞くと……。


「あ?今から町に戻って話す!大丈夫だ!」


 どう見ても死亡フラグです。ドルドさん……。

 そしてドルドと別れ、レオ爺に防具屋へ連れて行かれる。


「お金は払いますよ」


「別にいいさ。年寄りの自己満足に付き合ったと思ってくれ」


(リーナ!格好いいです!)


 俺は革の胸当てと頭巾、金属のヒジ当てとヒザ当てを付けている。

 俺見るレオ爺の視線は柔らかい。金を払おうとすると手で制され、レオ爺に買ってもらったのだ。

 あれか、孫に色々買ってあげるお爺ちゃんですか。


 


 一週間後、騎士団前でドルドと待ち合わせると、奴の頬がパンパンに赤く腫れていた……何をやっているんだか。

 俺は緑青のコートを着て、衣類や水袋と共に先日雑貨屋で買ったシャベルを背負っている。

 ミレーには国外に出入りするための準団員の金属製カード渡された。冒険者のカードより手続きが楽になるとの話だ。


 騎士団前で暫く待っていると馬車がやって来た。

 これは各地方の騎士団・警備兵間の連絡兼運搬用の馬車であり、普通は相乗りすることができないのだ。

 近頃は日差しは強くなり気温が少しずつ高くなってきた。


 ――夏の気配がする中、俺達は馬車に乗り込むのだった。



*****



 酒場で冒険者の男達が話している――。


 最近持ちきりになっている、ある一団の有名な話だ。

 どんな困難な闘いでも、彼らは傷一つ無いのだと。



 ――白い建物の立つ港町。


 王都と通じる平和な港町の街道に数多くの魔物や獣が現れる。

 通りがかった2人の男達は話を聞くと、直ぐに討伐するため走り出す。

 敵の数は多く、いくら倒しても数は減らないため、大柄な冒険者が群れに飛び込んだのだ。

 冒険者は敵の攻撃を食らっても倒れることは無く、巨大なロングソードで敵を薙ぎ払い倒していく――。

 そして、敵を倒した2人は町から去っていく。


「あんな港町に住んでみたかった……。そういえば、焼き魚を久しぶりに食べた気がする」



 ――山奥にひっそりとある村


 そこに男が2人やってきた。

 村の周囲は獣が多く、さらに山奥には大型の魔物が居る。

 村人は話す。村に魔物が襲い掛かることがあり、その度に多くの血が流れ人が住むには限界だ……と。

 2人の男達は魔物を倒すことを決意する。魔物との戦闘は三日三晩続く。

 剣は折れ、体力は無い中、老兵が決死の覚悟で魔物に飛び込む――。

 暴れる魔物の最後の一撃を避けた老兵は、ついに大型の魔中を倒す。

 村に居た剣士を目指す少女は、その老兵を姿を見て師と仰ぎ同行するのだった。


「怪我した人や部位欠損の患者を治療したが多すぎだったなぁ。治療ついでに堪能できたアルマちゃんの太ももは……マシュマロみたいに柔らかかった……太もも成分が足りないのか、手が震えてきたぜ」



 ――灼熱の広大な大地


 乾燥した空気の荒れた地で、魔物に襲われていた少年を少女が発見する。

 少年は瀕死だったが、彼ら3人の力で一命を取り留める。

 少年に話を聞き街へ向かうと、魔物の大群に襲われていた街が見えてくる。

 彼ら3人は魔物を蹴散らし街中へ入る。そして、街の住民と協力し戦うのだ。

 敵の猛攻も彼らの前では無力であり、最後に敵は殲滅される――。

 助けられた少年は、街を守れるくらいに強くなろうと決意する。

 街から出る彼らは4人になっているのだった。


「カミル君マジボロボロだったわ。あの地域、皆熱がっていたけど妖精ちゃんと俺だけ熱くなかったんだよなー」



 ――雲を突き抜ける大山脈


 病に倒れたお姫様を救うため、彼らは4人は東の大山脈へ貴重な薬草採取に向かうことになる。

 天気は悪く、薬草は何処にも見当たらない。時間が掛かる程お姫様の様態が悪くなる。

 もう駄目かと思われたとき、ついに少年が薬草を見つけたのだ。

 しかし薬草は断崖絶壁にある。少年は病床のお姫様の姿を思い出し崖下に下りるのだった――。

 お姫様の様態が悪くなり、もう駄目かと思われたとき、少年が薬草を持って戻ってくる。

 そして、元気になったお姫様と少年はまた逢おうと約束をする。

 少年は後ろを振り向くことなく旅に出るのだ……と


「あの時は妖精ちゃんが薬草を見つけなければやばかった……。遠くからチラ見したお姫様は可愛かったぜ。俺だけ近寄れなかったけどさ……」



 酒場の男たちは語る。


 大柄な歴戦の冒険者の勇猛さを。

 老兵の沈着冷静な戦いを。

 可愛い少女の活躍を。

 幼い少年の冒険を。


 それら有名人の端に1人の薄汚いボロボロのフードを被った人物がいるらしい。

 その人物の名を冒険者達は誰も知らないのだった。

 どうせ荷物もちだろうと皆が言う――。



 酒場でのそんな話に耳を傾けつつ、男達から今座っているテーブルに視線を戻す。

 アルマちゃんとカミル君は大盛りの皿に載った料理を食べまくっている。

 二人の容姿だが、アルマちゃんは赤みのある茶髪で短めのポニーテールに白肌だが、カミル君は黒髪の褐色肌だ。

 また、二人とも冒険者の格好をしているが、旅の手当てを使って装備を整えたのだ。

 ドルドは相変わらず酒を飲んで騒いでいるので放置だ。嫁には定期的に手紙を出しているらしい。

 レオ爺はさっさと食べて何処かに行った。また1人で訓練だろうか。


「はいはい。所詮、俺は村娘ですからね」


(む~~)


 困り顔の妖精ちゃんが俺の頭にくっ付いてくる。

 苦笑いしつつフードを深く被り直し、俺は席を立つのだった。



*****



 ――そして王都を旅立ち5ヵ月後、懐かしの幽霊屋敷の前に立っている。


「私は帰ってきた!」


(かえってきた~!)


 笑顔の妖精ちゃんと共に、青空に両手を上げる。

 幽霊屋敷前の青々とした雑草は枯れてきているようだ。

 ボロ屋敷の中は相変わらず荒れ果てている。


 その足で騎士団へ向かい、レオ爺と共にミレーに旅の過程を報告する。

 細々したことで、結局一ヶ月遅れてしまったが、特にお咎めは無かった。

 そして、10日の休みがあるという。


 理由を聞くと、北の国ノルデーラへ行って欲しいとのことだ。

 ノルデーラ国では近年魔物が多くなってきており、被害が増加している事、そのため友好関係にあるこの国から支援という形で視察をするそうだ。

 また、実際に戦闘に参加して治療することで犠牲が減れば、一層国家間の関係が強くなるとも。


 なぜ騎士団本隊ではなくこの部隊なのか重ねて聞くと、飄々としているミレーにしては珍しく渋い顔で説明してきた。

 近頃、俺の活動……騎士団が治療する事が教会にとっては気に入らないため、教会から圧力が掛かっているらしい。

 その為、国外へ行くことで圧力をかわすそうだ。


「……そうですか」


 俺はこの任務の期間について聞くとうな垂れた。期間は無期限との回答が来たのだ……。

 つまり、この休みは"色々な意味で"たっぷり楽しんで来いというわけか。

 また、任務の期間について話す中、レオ爺は後半年で定年との話が出た。レオ爺に確認すると、この任務も参加するのだとも。


「この任務に参加するのは、君らだけではないぞ」


 ミレーの説明では、騎士団本隊からも有志を募って20名参加するそうだ。

 その後は一ヶ月に10名毎に交代する計画らしい。


「わかりました」


「悪いが頼むよ」


 肩を落としてミレーに返事をしつつ、この休みを利用してファーンに行き、雑貨屋の皆やドルドの嫁に会う事を考える。

 アルマちゃんとカミル君はドルドと一緒に動いているとのことだ。羨ましい、俺も冒険者になりたかった。

 帰り道にはファーン北の村にも立ち寄るか。



*****



「それでは失礼します」


 今後の予定と休暇について話すと、彼女は俺の執務室から出て行った。

 レオ爺さんは俺の前に未だ立ったままだ。


「彼女の働きはどうだい?」


「嗚呼、十分に働いているよ。ミレー、彼女への給金をもっと増やすべきではないかね?働きに見合っていないだろうに」


 レオ爺さんが俺に言葉を返す。確かにその通りだ。

 彼女、リーナがやってきて早半年が経ったが、彼女の働きは素晴らしいものだった。


「だが、そうもいかないさ。下手に増やすと反発があるだろう」


「……では第2班の"他の人員"は何処に居る」


「知っていたのか」


 レオ爺さんの視線がきつくなる。

 俺は苦笑いを返して説明する。


「つまり。空請求だというのか」


「そんなに睨まないでくれよ」


 俺は第1班に存在する団員を記載し、第2班に存在しない名前を複数記載したのだ。

 人事の権限も持っているため可能な裏技だ。本当の話に嘘を混ぜるのが重要となる。

 実は第1班の人員も別のところに配属しているため、部隊には2人しか居ないのだが。

 もちろん発覚すると最悪は投獄だろうが、基本的に成果を出していれば、ばれていようとお咎めなしなのだ、この世界は。


「その金は何に使っている?」


「そうだな……。レオ爺さんには話しても問題ないか――」


 俺はレオ爺さんに今後の計画を説明する。


 ――夜が深まる中、静かな騎士団の一室では会話が止む事は無かったのだった。


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