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元々短編の予定でしたが、多くの方に読んで頂けている様ですので構成の見直しを行っています。
――あれから、町を出て4日経った。
俺は宿屋2階の硬いベットの上で寝転がりながら、直近4日間のことを思い出す。
宿代はドルドが出してくれたのだ。怪我を治すことに比べれば全然安いらしい。
妖精ちゃんはベットの端の布の中で寝ている。
俺とドルド2人は"色々あった"あの町を出発して北上した。
ドルドに話を聞くと、ヴァーナ国のファーンという名前らしい。
これからの事についてドルドと会話したが――。
「お前さんはこれからどうするんだ?」
「冒険者は厳しそうだと思う。どこかで働ければいいけども」
「そうだな。俺が言うのも何だが、冒険者は正直お勧めできないぜ」
やはり生きていくためには金は必要だ。
ドルドから聞く魔物や獣との戦闘の激しさや負傷者の多さを聞くと、この身体が何処まで耐えてくれるかはわからないが、いきなり実戦ならば即死級だろう。
そう思い、ファーン北の村に向かう途中にウサギを相手にしたが、ぶつかってきたウサギを抱き抑え手持ちのナイフで刺すことで何とか倒せたのだった。
「冒険者どころか町の外に出るのも危ないぞ。大人しく町中に住んどけ」
「……」
「精霊付なら国へ保護を求めればいい。もしかすると良い仕事があるかも知れんぞ」
というわけで、目指すはヴァーナ国の王都シルエとなった。
まずは途中のファーン北の村に寄るのだ。
ついでに聞いたのだが、俺が最初に居た村は"ファーンの南の村"で通じるらしい……。
王都までは大人の足で片道2日半程、途中の村までは片道1日半程。
すると王都まで行くのに、この遅い足だと5日程かかるわけだ。
また、ドルドも嫁から冒険者へ復帰するにあたり色々と制限を付けられたと愚痴っていた。
具体的には最初は5日後、ファーンに戻り報告すること。
次からは10日毎に戻って報告することだそうだ。
ついでに嫁の実家が商人だとか話していたが、金も無いので聞き流した。
そして、3日掛けてファーン北の村に到着し、俺を宿に置いて一旦ファーンまで戻ったのだ。
ドルド一人の足ならば、明日にはファーンに到着するだろう。
ドルドはファーンで1日過ごした後、ファーン北の村までやってくる計画だが――。
「今朝から天気が悪い……雨が降りそうだ」
宿屋の木窓を開けて空を見ると、雲がどんどん増えている。
雨になれば移動も遅くなるだろう。
せっかくなので、ここまでドルドと会話した内容を思い出しながら、これからのことを考える。
*****
まず、この世界にはエルフは居るみたいだが、獣人は居ないとの事。
歩きながらドルドに似たような種族が居ないかと聞いたところ、"おとぎ話の中にならいるぜ"と笑われたのだ。
この話を聞き、ファンタジー成分がかなり失われガックリしたが……もうこの話はいいだろう。
エルフは耳長族と呼ばれているらしいく、ドルドは昔見かけたことがあると言っていた。
耳長族は魔力が高く、昔狙われたことがあるため隠れて暮らしていると。
次に精霊や妖精について聞くと面白い話が聞けた。
元々は精霊や妖精は同じ存在だったが、いつからか2つに分かれたのだと民話で言われているとのこと。
人間に直接力を与える存在を精霊、間接的に力を与える存在を妖精と区別しているらしい。
なので赤目のような力を持っている人物を、"精霊付"と呼んでいるのだとも。
因みに精霊や妖精の存在についてはドルドは懐疑的だとのこと。
ぼんやりと"それ"っぽいのは見える人は居るらしいが、はっきり見える人は居ないらしいのだ。
噂ではお姫様とかが見れるらしいが……妖精ちゃんの話だと、もっと見える人は多そうだったが。
(ZZZzzz……)
妖精ちゃんに目を向けると、爆睡継続中のようだ。
最後に国と貨幣価値、冒険者組合だ。
ヴァーナ国は大陸西部に位置し、東部は山脈があり、西部には海があるとの事。
他国との関係について、北・南側の国とは有効的だが、山脈の問題もあり東部とは関係が希薄との事。
過去には各国間で大きな戦争はあったようだが、今は小競り合いをしている程度との話だ。
とはいえ、巻き込まれる可能性がるので安心はできないが。
通貨は銅貨・銀貨・金貨・白金貨の順に価値が高く、銅貨50枚で銀貨となり、銀貨20毎で金貨となる。
会話の内容から銅貨が約100円の価値くらいだろうか。
白金貨?ははは。そんなものを見ることは無いから覚えてないぜ。
1人で生活するならば、月1枚金貨があればよいとのこと。
各国の硬貨は程同じ造りだが、製造年や国家の体制によってレートが変わってくるとの事。
手元には誘拐犯退治の金が残っているが、ドルドに使うなと言われてしまった……。
そして此処からが本題だ。
そう、冒険者についてである。
――ドルドから聞いた冒険者の話はこうだ。
「やはり冒険者といえば魔物退治とか」
「いや、この地域じゃ獣は出るが魔物は滅多に出ない。金を稼ぐなら普通に商売をしたほうがいいな」
「それなら冒険者の仕事は何が中心に?」
「そうだな……魔物退治・護衛・盗賊退治・傭兵が一般的だな。一言で言うのならば便利屋だ!」
もちろん強力な魔物や獣だと報酬は高額になる。
地方だと強い冒険者が居ないため、冒険者の多くは王都近くの洞窟に行っているようだ。
倒した魔物の種類など、どうやって判別しているのか聞くと――。
「魔物を倒すと黒い粉になる。これが地面に溶けるまでにビンや特別な袋に詰める。この粉をギルドに持って行き量るのさ」
通称黒粉は強い魔物は少ない量でも重い粉になるらしい。弱い魔物は軽い粉になるとも。
粉同士、混ざらない様注意する必要があるとのこと。
また、魔物を倒すと黒い石を落とすが、これは魔石と呼ばれ剣や道具の材料にすると強度が上がるらしい。
弱い魔物の魔石は小さく買取は安い。強い魔物の魔石は大きく高額であり、この魔石を数えることで討伐数としているが、弱い魔物を倒しても小銭しか手に入れないと。
黒粉と魔石はセットであり、黒粉と魔石のセットで報酬が発生し、片方1つだけでは報酬が出ない。
魔石だけは買いとり可能であり、黒い粉は報酬確認時に回収されるため手元には残らない。
……がドルドに戦闘は絶望的と言われたため、この空いた時間で新たな金策を考えなければならないのだ。
*****
「うーむ……何をどうするか」
やはり、戦闘は回避しつつ薬草集めなどで安定小銭を稼ぎ、"傷を治す"ことでそれなりに報酬を手に入れて生活するのが良いだろう。
ドルドが戻ってきたら相談してみるか。
そんなことを考えつつ、気づけば夕方になりかけている。
俺は毛布を被り眠りにつこうとする。
部屋は食事抜き1人部屋で借りている。
王都までの飯は持ってきているとドルドへは話している。実際は何も食べていないが。
――ドタドタドタ!!
おや、階段を駆け上がる音がする。
――コンコンコンコン
「リーナさん、すみません!お話がありまして」
「少し待っててください」
(う~~ん……?)
どうやら宿屋の娘のソニアちゃんがノックしているらしい。
スカート姿のソニアちゃんは栗色ショートの髪の12歳の少女だ。
俺は脱ぎ捨てているフードを被ってドアを開けた。
「お待たせしました」
「はい!それでは1階まで来ていただけますか?」
「わかりました」
妖精ちゃんはさっきの声とノックで目覚めたようだ。
目をこすりながら欠伸をする様に癒されるが、ソニアちゃんの様子から気を引き締め直し1階へ下りる。
宿屋の1階には部屋の他に小さな食堂も併設されている。
1階へ下りると、会話している男たちがこちらに振り向いた。
肩越しに様子見していた妖精ちゃんは、首を引っ込めている。
「呼び出して悪い。ドルドは居るか?」
「いえ。ドルドはファーンへ戻っている最中です」
「そうか……」
1人のおっさんが話しかけてきたので、ドルドのことを伝える。
男たちの顔に影が差す。状況は良くなさそうだ。
「ドルドに用事でしょうか。4日後には戻ってくる予定ですが」
「いや……ありがとう。お前ら!捜索の準備をするぞ!」
リーダ格のおっさんが他の男に声をかけ、宿の外に出るよう促している。
ソニアちゃんに聞いてみると、今日の昼に森へ少し入ったところで村人2人が熊に襲われたそうだ。
うち1人は走って逃げ出せたが、もう1人が見つかっていないと。
ソニアちゃんは今にも泣き出しそうだ。
つまり"捜索"と言ってはいるが、死体回収なのだろう……。
もしかすると、運がよければ生きているかもしれないが。
「おい!ドルドと一緒に居るなら何かできるんだろ!?」
「止めとけって!」
「何か言ったらどうなんだよ!」
「……」
他の男が俺に大声をかける。
ドルドが必要な状況ということは、まだ熊は付近を徘徊しているかもしれないのだ。
他の数人の男も俺の返事を待っているのか、宿の入り口で立ち止まっている。
ここで断れば、ドルドの今後の仕事にも影響があるかもしれない。
――こんな俺に何ができるのだろうか。