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日が沈み辺りは暗くなってきた。
バックも刺されたようで中に入ってた衣服も切られている。
血が染み込んでいる服よりはマシだが……。
少し肌寒くなってきたため、俺はバックからボロの大き目な布取り出し被る。
これは家から持ってきたもので、寝る際に下敷きにしたり被っているのだ。
俺は教会へ向かう道の途中で止まり考える。
教会は男たち……誘拐犯が見張っているかもしれない、または帰り道で襲われる可能性もある。
最悪は教会に被害が出ることであり、教会へ戻るのは下作だろう。
――ならばどうするか?
警備兵へ会いに行くか?
以前襲われたときに警備兵に聞いたが、詰め所は役場兼冒険者教会の裏側らしい。
しかし、身体に大きな傷が残っている。
この状態で詰め所に行き、精霊付であることを知られると面倒なことになるのではないか?
今は誘拐を邪魔されて恨まれているようだが、次はこの身体を狙われてしまうだろう。
やはり、ここはドルドに会いドルド経由で誘拐犯たちについて警備兵へ話してもらうのがいいだろう。
俺は酒場の方向へ歩き出した。
*****
「ヒック……おい、邪魔だガキんちょ!」
「ぐっ……」
路地裏で酒にひった男に突き飛ばされ、俺は地面に転がる。
男は俺を振り返ることなく、どこかへ行ったようだ。
うむ。ますます俺の薄汚さが上がったな。
何処から見ても、立派な浮浪児だろう……。
路地裏から見える町の大通りの店は明るく、多くの人が歩いている。
そんな光景を背に、俺は酒場へと重い身体を動かし続ける。
「酒はまだか?おせーぞ」
「ちょっと待ちな!」
「ギャハハハハハハ!!!」
「そんでよぉ……」
明かりの漏れる店先からは男たちの声がする。
こんな身なりで酒場に入るほど俺は冒険心に溢れてはいないのだ。
酒場の近くの路地にうずくまりドルドが来るのを待つ。
疲れて眠くなってきたのか、聞こえてくる声が段々遠くなっていく――。
(リーナ!起きて!起きて!)
どのくらい寝ていたのだろうか、妖精ちゃんの声で目を覚ます。
人の気配はせず、あたりは真っ暗だ。
「ん……起きたよ。眠っていたのか」
(かなりぐっすりとね~~何度も呼んだんだよ?)
「ごめん。で誘拐犯たちの居場所が分かったのか?」
(……うん)
悩み顔の妖精ちゃんに話を聞くと、誘拐犯たちは空き家の2階にいるとのこと。
1人は見張りで起きており、もう1人は寝ているようだ
――奇襲するか?
と一瞬考えてしまったが、今度こそ死んでしまうかもしれない。
俺は無力な小娘であることは言うに及ばず。
路地裏の戦いから、妖精ちゃんの攻撃も誘拐犯たちにはあまり効果がなさそうだ。
ならば詰め所に行って、警備兵へ状況を伝えるか?
深夜に詰め所に来るボロボロの服を着た少女の言葉に説得力は無いだろう。
しかし、今がチャンスなのだから。
「しかたない。詰め所まで行くか」
(はーい!)
俺はそう考え歩き出す。妖精ちゃんもほっとしているようだ。
休んでいた為が本調子ではないにしろ、ずいぶんと身体が軽くなった。
身体の傷も綺麗に消えているが、ボロボロになった髪はそのままのようだ……。
*****
警備兵の詰め所の前にやってきた。
大きな3階建ての建物は石でできており頑丈そうだ。
「たのもー!」
(たのも~?)
フードを被ったまま、俺は少し大声で詰め所の扉を開ける。
第一印象を良くするためには、やっぱり挨拶は大事だと思うのだ。
格好は浮浪児だが……。
「おう。ん~~お前さんは、この前呼び止めたやつだな?」
「えーと。どなたでしょうか……」
「おいおい!そりゃひでぇよ!」
入り口のロビーに待機している、おっさんの警備兵に話しかけられる。
話を聞くと、どうやら町に入る時に声をかけられた門番らしい。
頭に着けていた金属のヘルメットは外しているので、分からなかったのだ。うむ。
門番は俺の格好を見て口を開いた。
「それにしては、ずいぶんとボロボロだな……」
「まあ色々とありまして。それについてお話したいと思っています」
「わかった。こっちへ来てくれ」
門番に連れられ、木の椅子に座る。
さて、どんな話をするべきか。
「なるほど。分かった」
俺はこれまであったことを掻い摘んで説明した。
まあ、"襲撃にあっている少年を路地裏で見て、誘拐犯2人が逃げるのを目撃した"こと。
"誘拐犯の後を追うとある家で隠れているようである"ことだ。
門番は色々と聞いてきたが、当たり障りの無い回答でお茶を濁す。
もちろん、妖精ちゃんのことは皆には内緒だよ?
この話の中で精霊付の話が出たが、どうやら国へ報告義務があるとのことだ。
不服な表情をしていたのか、精霊付の情報は公にはされないと加えて言ってきた。
「そこまで俺ら警備兵を連れて行けるか?」
「大丈夫です。家の場所、誘拐犯たちの顔も覚えています」
「よし、直ぐに準備する。少し待ってろ」
そう言ってお腹が空いているだろうと、パンと水をサラリと渡してきた。
向こうにとってはいつものことかも知れないが、こういう心遣いが評価を上げると思うのだ。
「おい!酒場にドルドが居るだろう。呼んで来い」
「わかりました!」
門番が若い警備兵に声をかけている。
ドルドの知り合いであることを話すと、人手が足りないため護衛として呼ぶとのことだ。
ドルドを見かけなかったのは、もしかしてまだ酒を飲んでいた為か……。
アル中じゃあないだろうな。
*****
「おう!呼ばれてきたぜ!ガハハハハ!!」
そうしているうちにドルドが来る。
顔は赤いが足取りはしっかりしている。
何故詰め所に居るか聞かれ警備兵へ話した内容と同じ話をすると、ドルドに頭を軽くはたかれる。
「痛いんだが?」
「おめーの体格や体力じゃあ一瞬で負けるだろ。そうなりゃ、どうなるかはお前さんがよく解るだろう」
笑い顔から一転、神妙は顔をされる。
この空気、既にボコボコにされてますが……とは言えないな。
「よし。行こう」
俺を先頭に、門番含む警備兵6名とドルドの計8名で誘拐犯の居る家へ歩き出したのだった。
「ここでいいのか?」
「妖精ちゃん、まだ家の2階に2人居るのかな?」
(うん。まだ2人居るよ)
家の裏で立ち止まると門番が問いかけてる。
俺はうなずき返して家の2階に向けて指を刺す。
「わかった。ここで待ってろ」
そういって門番は2階へ行く。
ドルドは俺の護衛のようだ。
警備兵6名が部屋の中へと突入する。
直ぐに剣で戦う音が聞こえるが、やがて静かになる。
警備兵へ1名が戻って来たので話を聞くと、抵抗した誘拐犯2人は斬られて死亡し、現在袋に詰めている所だと。
また、警備兵への被害は無かったとのことだ。
誘拐犯には懸賞金が出ていたため、報奨金が出るそうだ。
警備兵1名とドルドに詰め所に連れて行かれたので、金を受け取りロビー隅を借りて寝る。
この帰り道、ドルドに遅くまで酒を飲んでいるが家に戻らないのかと聞くと。
「あぁ……。家に戻ると嫁が……な」
嫁がいる……だと?
遠い目をして語ってるが、自業自得だろ!
俺は前世の独り身のマンション生活を思い出し、その夜は声を殺して泣いたのだった
ドルド?ドルドなら悲壮な顔をして家へ戻っていったよ。
ははははは。
*****
翌朝北門へ向かうとドルドが居た。
人は多いが、でかい図体と大きなバックとロングソードはよく目立つ。
「おはよう。ところで顔が……」
「それは……聞くな……」
ドルドの顔が腫れており、どこか憔悴した雰囲気なのは気のせいではないだろう。
思うに昨晩の壮絶な戦いの証跡なのだろう。
この話は続けるべきではないと判断し、別の話を切り出す。
「悪いが雑貨屋に行きたいのだけど」
「あぁ、いいさ。昨晩の誘拐犯のことなんだろ?」
ドルドはレナの父親から誘拐犯が出たこと、捕まえて欲しいとの依頼を受けていたと話してきた。
「リーナちゃん!ありがとう!」
「いえいえ」
(えっへん!)
雑貨屋に誘拐犯2人が捕まったことをレナちゃんへ伝えると、レナちゃんが抱きしめてきた。
妖精ちゃんも機嫌がよさそうだ。
横目で見るとレナちゃんの両親へはドルドが説明しているようだ。
俺はレナちゃんの身体をしっかり抱きとめる。
ぐへへへへ。やっぱりレナちゃんは最高だぜ……。
「でもこんな無茶なしないでね?」
「わかったよ」
小首をかしげるレナちゃん!いいよいいよ~。
そしてお礼にと予備の服と厚手のローブを靴らしい靴をもらう。
今まで履いていたのは、足に布を巻いていたのと同等の格好だったのだ。
「気をつけてね!また逢いに来てね!」
「レナちゃん……必ず戻るよ!」
(またね~!)
そして、レナちゃんに手を振られ町を出る。
俺と妖精ちゃんはレナちゃんに手を振り返して前を向く。
――日が高くなってきたが、まだまだ今日は始まったばかりなのだ。