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 朝、目が早く覚めたのでこれからのことを考える。

 異世界とくれば大冒険……は面倒なので観光地巡りぐらいはしたいものだ。

 なお、レナちゃんの寝相は悪いようで、派手に寝巻きがまくれていたのは此処だけの話としよう。


 パンと卵の簡単かつおいしい朝食を頂く。

 妖精ちゃんも食べたそうにしていたので、机の下で渡すとおいしそうに食べていた。




「確かに確認しました。こちらが証明書となります」


 そして、レナちゃんの父親と冒険者協会に行き、冒険者のカードをゲットする。

 カードは金属製で番号と名前が載っている簡単なものだ。

 無くすとお金がかかると受付の女性に注意される。


 この登録作業の際、文字の読み書きができないことが判明した。

 何かのタイミングで勉強する必要があるだろう。




「目的の場所はここですか?」


「そう。ここだよ」


 その後、冒険者教会から移動して見上げた先は酒場のようだ。ここに護衛が?

 怪訝な顔をしつつ酒場の扉を開け中に入る。

 妖精ちゃんはいつもの通り、カバンの中で寝ている。


 酒場の奥に居る厳ついおっさんに向かって、レナちゃんの父親は歩いていく。

 お前もおっさんだろうって?それはそれ、これはこれだ。



*****

 


 酒場の扉の開く音が聞こえるが、そんなのは日常の風景だ。

 俺は酒の入ったグラスをカウンターへ置く。

 酒場の親父が相変わらず呆れた目で俺を見てくる。

 昼間から飲酒だって?いいじゃねーか。金と時間はあるんだ。


「久しぶりだな。ドルド」


「おう。雑貨屋じゃねーか」


「相変わらずだな」


「まぁな……で、どうした?珍しいな」


 雑貨屋にはよく魔物の素材を売り、回復薬を買うため出入りしていたが、話すのは久しぶりだろう。

 雑談をしつつ時間が流れていく。


「あれから傷は直ったかい?」


「んや。まだだな」

 

 話の中で雑貨屋に傷のことを聞かれ思い返す。


 こんなだらけた俺だが、1年前までは冒険者をやっていた。

 18歳で冒険者を始めて、もう15年近くになる。中堅と熟練の間くらいか。

 だが、1年前の戦闘時に片手・片足を負傷し静養しているわけだ。

 あの戦闘で他の冒険者達は怪我をしなかった。

 他の冒険者達は抜けるといった俺を引きとめようとしたが、足手まといになると断ったのだ。


 魔物の傷は深く、片手に力は入らず片足は少し引きずっている。

 首都の神殿に行けば、回復魔法を掛けてくれるらしいが馬鹿高いのだ。

 また、回復魔法の予約も常にいっぱいであり、予約を取れても直ぐには治療してくれないと聞く。


「直るのに時間はかかるとしても、いつまでもこのままじゃ駄目だ」


「……まあな」


 痛いところを突いてくる奴だ。

 俺も元は冒険者であり片手剣も扱えるため、冒険者協会や剣の訓練所から教官として誘われている。

 そろそろ身の振り方を考える時だろう。


「ところで……」


 雑貨屋が小声になる。


「何だ?これからが本題か」


「そうだ。また冒険者になる気はないかい?」


 雑貨屋の視線の先には、フードを深く被った小汚い少年……いや、少女が立っていた。



*****



「こいつがか?」


「そうだ」


 酒場から雑貨屋の中へ移動し、山ぞ……厳ついおっさんの前に座らせられる。

 おっさんは笑顔のつもりだろうが、口角が上がって悪役みたいだ。

 酒場でのおっさんの話を聞くと、かなり腕の立つ冒険者であり、信用度も高いようだが……。


「ははははは。おもしれぇ、この傷が治ったら護衛してやるよ。ただし行き先は俺が決めるがな」


(この男、キライです)


 カバンに隠れている妖精ちゃんは、おっさんのことが苦手なようだ。

 顔は熊のようだし体格もごつく口調も荒いが雰囲気は柔らかい。


「じゃあ。やってみてくれや」


 俺はフードを被ったまま無言で頷き、袖をまくったおっさんの傷に手を載せる。

 治るかは分からないが、この力が何処まで通用するか検証にはなるだろう。




「すげぇ!すげぇぞ雑貨屋!!腕や足が元通りだ!」


「苦しい……離せ……」


 おっさんの名前はドルドというらしい。

 時間を掛けてドルドの腕と足の傷を治療すると、抱き閉められたのだ。

 抱きしめられるなら、レナちゃんが良かったな。


 そしてフードを外し赤目を見せると、何やら勝手に納得してくれたようだ。

 一体どんなストーリが出来上がっているのやら。

 念のため、治療や俺のことは伏せて置くように約束させる。


 そんな訳で、おっさんは冒険者に戻り護衛をしてくれることになった。

 もちろん、いつまでもという訳ではなく、まずは勘を取り戻すまでの半年程ということになった。

 ドルドの準備もあるため、出発は3日後の朝、集合場所は北門で決定だ。


 レナちゃんの両親にお礼を言い、レナちゃんにまた逢う約束をする。


 ――夕焼けの町を背に、教会の軒下へ向かうのだった。



*****



 2日目後の昼過ぎ、教会でのんびりしていると少年が1人やってきたとシスターより話が合った。

 フードを被り彼に会う。彼が言うにはドルドに急用ができたため、ドルドが"今すぐに北門近くの食堂で話がある"との伝言を受けてやってきたらしい。

 本人が来れないのは、今仕事が入っているらしいとのことだ。


 彼の姿は始めてみるが、剣や防具を装備していることから冒険者仲間だろうと判断する。

 彼には準備することを伝え教会に戻り、シスターに食堂の場所を聞くと実際にあるようだ。

 しかし、これが罠である可能性も残っている。


「妖精ちゃん。悪いけど空を飛んで後ろから付いてきて欲しい」


(了解~~)


「妖精ちゃんはどんな魔法が使えるのかな?」


(風魔法だよ。例えばね――)


 妖精ちゃんに風魔法について色々聞き、どれがこの状況にふさわしいか考える。

 攻撃?防御?自身が痛みを感じないことや再生できることから攻撃魔法がいいだろう。


「じゃあ。俺が危険になったら"風の刃"で攻撃して欲しい。俺への被害は考えなくていいよ」


(……はいです)


 渋る妖精ちゃんを何度も説得し、やっと了解を取り付ける。

 彼は依頼ということで教会前で待っているようだ。


「お待たせしました」


「じゃあ行こうか」


 少年が先導して道を歩く。

 彼の歩みによどみは無く、シスターに教えられたとおりの道順のようだ。


「ここは人が多いから、少し避けるよ」


 北門付近は込み合うとのことで、少し回り道をすると彼が言う。

 食堂まではあと少しであったため、油断していたのだ。


 そして路地裏に入り角を曲がった瞬間に吹き飛ばされてしまった。




 ――L字路の角で少女と少女が転がっている。2方向共に男が立っており逃げ場は無い。


「どうして……」


 連れてきた少年が腹部から血を流しながら問いかける。

 彼は曲がった瞬間に刺されてしまったようだ。


「ははっ。本当にきやがった!」


「へへ……」


 2人の男はこの前レナちゃんを誘拐しようとした奴らだ。

 俺の転がっている姿を見てニヤニヤしている。


「このっ!!」


 連れてきた少年はダガー抜き男に切りかかるが、避けられ蹴り飛ばされ壁に頭を打ち付けた。

 少年は道の隅に転がり起き上がってこない。

 そして、男2人同時にダガーを構えて接近してくる。


 罠を想定していたとはいえ、冷や汗で背中が濡れている。

 どうやっても少女一人の力では逃げ切れないだろう。

 俺は空を見上げ、妖精ちゃんの位置を確認する。


 妖精ちゃんがこちらを向くのを確認し、大通りに近い男の1人に向けて手を下ろす。

 "風の刃"で攻撃してもらい突破口を開くのだ。


("風の刃"!)


 妖精ちゃんから、風魔法が男の顔に当たり血が出たようだ。

 俺は男に向かって走り出す。


「くそ!魔法かよ!ぶざけやがって!!」


 男の勢いは弱まったが、それでもこちらへ突っ込んでくる。

 俺は男に当たる直前に右へジャンプするが、男もこちらに身体を向けてきた。


(……"風の刃"!……"風の刃"!)


 妖精ちゃんの攻撃で男の体勢が崩れる。

 

「いけるか!?」 


 背中からの衝撃でバランスを崩してしまう。

 そして視界が反転する。


「死ねよ……」


 1人はダガーを逆手に持ち腹と胸に何度も突き刺してきた。

 俺はとっさに顔と頭を腕で包み、身体を丸めて地面へ伏せる

 背中、腕、足、腹、胸、首……体の至る所がダガーで刺され穴だらけだ。

 刺されるたびに肉をえぐるダガーの感触や流れる血、飛び散る肉片の感触が良くわかる……。


「ぎゃあああああぁぁぁ!!!助けてええええ!!!」


「この屑が!!!死ね!死ね!」


 もう1人は足で何度も腹や頭を蹴飛ばし、踏みつけボコボコにしてきた。


「あああがががああああぁぁ!!!」


「もっと泣き喚けよ!」


 2人とも叫び声を聞くと興奮するのか、激しさは増すばかりだ。

 本当は痛くないが弱弱しい声になるよう演技しつつ、俺はフードをめくられないように頭を隠す。


「ぐううううっっっ……」


(リーナ!!)


 妖精ちゃんは俺と男が接近しているためか攻撃できないようだ。

 後は犯されないことを祈るのみだが……。


「うげえええぇ……」


 ハラワタを刺しまくられ痛みは無いが気分は最悪だ。

 思わず吐いてしまうと、胃液と共に吐血してしまった。


「――……!!!」


 どうやら叫び声が聞こえたのか遠くから声がする。


「おい!」


「ああ……」

 

 男たちは走り去ったようだ。

 妖精ちゃんに逃げる男たちを追跡してもらい、フラフラと立ち上がる。

 辺りを見ると、薄暗い路地には血の海ができ、肉片が散らばっている。

 全身は刺し傷で真っ赤になっており、身体の腕や足の肉は一部削れているようだ。


 道の端には血を流している少年が倒れている。

 まだ息はあるようだが弱々しい。


「全ての元凶はこいつのせいだが……しょうがない」


 俺はだるい身体を引きずり、彼の前まで行く。彼の顔色は悪く息も荒い。

 彼の防具をずらし服をめくると腹に1箇所、大きく深い傷があるようだ。


 バックから革の水袋を出し、彼の傷に水をぶっ掛ける。

 血や汚れをある程度流し、傷に手を触れ傷が治るように強く念じて再生していく。

 再生するごとに顔色も安定し、呼吸も元に戻ってきたみたいなので逃げる準備をする。




「大丈夫か君!」


 少年を放置し建物の陰に隠れる。

 どうやら警備兵が来たようだ。


 警備兵を確認して、さらに建物を移動する。

 身体は穴だらけだが血は出ていないことから、残った水で血を流し、バックから衣服を取り出す。

 あの家から持ってきた上着4着のうち2着が血まみれか。

 レナちゃんを助けた時にボロボロになった服は彼女の家で捨ててしまった。

 この衣服も燃やすなりして処分が必要だろう。


 裏通りを歩きながら、傷を回復させる。

 本当は表通りを歩きたいが、この傷では目立ってしまう。


 しかし、血を流しすぎたのか、力の使いすぎか身体が少し重いようだ。

 まずは教会に帰って寝てから考えよう。


 ――夕焼け空は血に染まったように赤かった。


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