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・勢いで書きました。

・短編の予定でしたが分割します。

 ――薄暗い森の中、少女が一人倒れている。


「うぅ……身体が痛い……」


 胸を刺すような痛みで目が覚める。

 終電を逃したため、会社で椅子を並べて仮眠した。

 その後、仮眠から目が覚めると、始発で自宅へ帰ろうとして駅のホームまで行く……ところまで記憶に残っている。

 余りの痛みに涙だろうか、視界がぼやけている。


「痛い痛い痛い痛い痛い……」


 痛みが良くなるわけではないだろうが、痛みに耐え切れないため目を閉じ同じ言葉を繰り返す。

 額には脂汗が流れ、背中も汗でぐっしょりだ。

 そうしてどのくらい経っただろうか。痛みがずいぶん和らいできた。


「……気持ち悪い」


 痛みが無くなり目を開くと、森の中で寝ている状態で、辺り一面夕焼けで真っ赤なのだ。

 ゆっくりと立ち上がり身体を見下ろす。


「あああああ!?」


 ――森に少女の叫び声が響く。


 俺は余りの突然な状況に思わず叫んでしまったのだ。


 視線の先にはガリガリの手首が見える。

 血に染まった服とスカートが見える。

 そしてナイフと血の海が見えるのだった……。




 飛んでいた意識を取り戻し、俺は再度身体を確認する。

 肩甲骨くらいまである長い髪を顔の前まで持ってくると、焦げ茶色である事が分かった。

 薄茶色のスカートをめくると白色のパンツが見える。

 身体を触りまくり、2つ在るものと、1つ無いものを確認する。まぁ、胸はギリギリふくらみが在るかどうかという具合だが……。

 それらから導き引き出されるのは、たった一つの事実である。


「異世界かは知らないが、少女になっている」


 色々突然な出来事はあった。

 だが、一番の問題はこの血の海だろう。

 血の海から鉄のにおいがする。

 見たくないが、夕暮れで確認する時間も限られている。


「血は……まだ固まっていないな。この少女が倒れていた周りだけに血があるようだ」


 辺りには動物の死体は無いようだ。

 また、動物の泣き声も聞こえず、木々のざわめきばかりが聞こえてくる。

 ならば、この血はこの少女のものだろうか。

 服を良く見ると、腹のところにナイフと同じ大きさの穴が開いている。

 しかし、先程顔・腕・足・腹回りを確認したところ傷一つない綺麗なものだった。


「自殺でもしようとしたが、何かの影響で死ねなかった……のか?」


 分からないことが多すぎる。

 此処が何処で彼女が何者か。

 そもそも、何故自殺なんてしようと思ったのか。

 拾ったナイフは綺麗なもので、切れ味も鋭そうだった。


 もしも森を歩くならば目印が必要と考え、木に傷をつけ歩き出す。



*****



「――おーい!おーい!」


 日が暮れ、辺り一面真っ黒になった。

 何も知らない森の中を歩く気にはなれず、木の陰に座って寝ていたが人の声に目が覚める。

 声が日本語に聞こえたのは偶然か。


 遠くを見ると木々の隙間から松明らしき明かりが3つほど見える。

 この少女を探しているのだろう。


「……」


 どんな人物が探しているのか分からないため、無言で松明へ近寄る。

 盗賊が大声で探すことはないだろうが、念のためだ。




「ヒッ!」


「うわあああああぁぁぁ!!!」


「!?!?!?」


 彼らの格好が村人のようだったので目の前に出るとひどく驚かれた。

 暗い森に血染めの服を着てナイフを持つ少女が無言で立っている場面を想像する――。

 俺がもし逆の立場なら逃げ出すね。


 そして、彼ら捜索隊と共に森の中を移動することになる。

 捜索隊は10名ほど、剣や弓、革の胸当てを装備していることから、付近には獣でも出るのだろうか。

 移動中、彼らは全員無言であった。




 森を抜け、村へと到着した。

 村の家々からは明かりが漏れている。家の立地はばらけているようだ。

 彼らに村の村長の家へ連れて行かれる。


「村長!見つけました!」


 捜索隊の一人が村長らしき家の扉を叩く。

 家は木造の平屋であり、今まで見たどの家よりも大きい。


「おぉ、見つかったか!」


 扉が開き村長に出迎えられる。

 老人ではあるが体つきはガッチリとしており、短い髪も髭も白く表情は穏やかだが鋭い目をしている。

 そしてこの少女の姿を一瞥し、家の中へ通された。


「森の奥に居たと聞いたが?」


 部屋には木製のテーブルに木製の椅子がある。明かりには松脂を使っているのだろうか。

 立ったまま何があったのか聞かれるが、現状何も分からないのだから答えようが無いのだが。

 このままずっと黙っているわけにもいかないだろう。


「はい。目が覚めると以前のことを何も覚えていないのです……」


 悲しい表情を作り、顔を伏せる。

 言葉遣いは丁寧にしたつもりだが大丈夫だろうか。

 村長と警護の2人は黙っている。

 

「ただ――」


「ただ?どうかしたかね」


「はい。私のそばに血の付いたナイフが落ちていました」


「確かに。普段の君とは雰囲気も言葉遣いも別人だ」




 そして村長は言葉を続けた。


 少女……彼女の名前は"リーナ"、14歳であること。

 彼女の両親が亡くなっていること。

 両親の残したお金も尽き、彼女は日々食べる物に苦労していたようだ。

 また、身体が弱く中々出歩けなかったが明るい性格だったとも。

 そして村長は告げてきたのだ。


「君は元々目は茶色だった。しかし今は赤色だ」


 赤色の目は精霊付と呼ばれ特別な力を持っている人を指すこと。

 普通は先天的なもので、後天的なものは聞いたことが無いと――。


 村長にはそんなにも追い詰められていたのかと謝られるが、実感が無い。

 身体に不調がない事を伝えると、彼女の家で静養するよう案内される。

 食事は村長宅まで来れば分けて頂けるとまで言われてしまった。


 村長の家を出て、捜索隊の一人に彼女の家まで案内される。

 彼女の家は村はずれの小さな木造の一軒屋のようだ。

 彼女は周囲を見回し空を見上げる。


 ――異世界の夜は真っ暗であった。



*****



「……はぁ」


 細い腕を見ながらこれからのことを考える。

 今は村の井戸から水を汲み身体を洗っているのだ。

 あの森の出来事から、既に1週間経っている。

 

 1週間彼女のボロボロの家で過ごすと"飢餓耐性"と"再生"という能力が分かったのだ。

 水や食事を取らずに寝ていても空腹にならないことから、"飢餓耐性"と名付けた。

 また、村長宅からもらった果物をナイフで切ろうとした際、指をざっくり切ったのだが直ぐに傷が消えたことから、"再生"と名付けた。

 この時にかなり出血したが、切った感触はあるのに痛みが無かったのだ。


 "彼女"が苦しみながら死んでこんな能力を獲得するなんて、もしも神様が居るならブラックすぎるプレゼントだろう。

 この"再生"だが、4目に風邪気味になった場合は効かない様なのだ。

 風邪の原因は井戸水が冷たいせいで、身体を壊したのだろう。今は慣れたのか頭から被っても冷たくは無いが。

 "再生"は物理的な傷に限るのかもしれない。


 そして、この村に住んでいて分かったのは、村人達はこの少女の噂をずっとしているようなのだ。

 噂は"赤目持ち"、"ゾンビ少女"、"動く死体"や"自殺娘"といった碌でもないものばかりで、戻ってきたことを喜ぶ声は聞こえない。

 何も食べなくとも、ガリガリだった体が少しやせている程度の身体になってきているため、化け物呼ばわりされるのも納得だが。


 なお、最初に来ていた血染めの服は捨て彼女の家に残っていた服を着ている。

 今は茶色の長袖に茶色のズボン、外に出る時は茶色のフードを被っている。


 ここまで言われて、村にいるほど俺の心は強くない。

 とは言え、何も知らない異世界を旅するのも厳しいだろう。

 やはり、情報・装備を整えるのだ。


「せっかく生き延びたんだ、できる限りのことはやってみるさ。なあ"リーナ"」


 そして村を出る決意をする。




「村から出るのかね?」


「はい。ここまでお世話になり申し訳ありませんが、私には耐えられそうに無いのです」


 夕食の後、村長に声をかけて村から出る相談をする。

 目の前に申し訳なさそうに座っている村長の顔にますますしわが増えるのは心苦しいが。


 2日後、俺はフードを被り革の袋に衣類と食料を詰め、日が昇る直前に村の外に出る。

 食料はこれまで頂いたものを貯めていた麦パンと干し肉だ。腰にはナイフを1本装備している。


 村から出て山道へ入る。木々は生い茂り、足場も良くはない。

 村から少し離れた場所で後ろを振り向くと、朝日が村を照らしているのが見えた。

 そして再び前を向き歩き出す。


 ――彼女の足取りは軽やかだった。


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