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イリアの世界  作者: 一集
第一章
8/75

EX.神と精霊

イリアたちに他意はなかった。

起こした奇跡に反して、イリアたちはあまりにも無知だった。


ただ、知らなかっただけ。

つまり、彼女たちはあくまで貴族だったということの証拠なのだろう。


何の話かといえば、歴史と信仰の話だ。


貴族が信仰するのは須らく神である。


事実、幼い頃よりイリアたちは神話を語って聞かされた。

神殿での祈りも、もはや義務であり、それは彼らの生活に根差した文化となっていた。


だから、イリアも弟たちも気軽に『彼ら』を作り出したのだ。

神以外の信仰対象がいるなどと露とも思わずに。


かつての世界でのイリアの知識をもとに、空想の産物を形作った。


では精霊とはイリアの想像の産物なのか?

答えは否。


精霊信仰はある。

世界で最も古く、広く、多く、知られた『それ』。

民間信仰、あるいは自然崇拝とも言い換えられるかもしれない。


貴族が神と魔法を崇めるのなら、民は精霊と自然を崇めた。


国を作り、魔法を使い、自分たちを支えるものを与えてくれた神。

貴族は神以外の存在をいつしか忘れた。


しかし民は違う。

貴族が神を独占したこともあるだろう。


自然と共に生きる彼らが祈ったのはいつでも神ではなく、自然を司る超常的な何か、すなわち精霊だった。


そう、民の間で途切れることなく語り継がれる寝物語がある。


混沌より生まれいずる。

古の理。

原初の生命。


水と火。

そして土と風が生まれて、光と闇が満ちる。


それが全ての、世界の、始まり。

母なるは神ではなく、父なるは人ではなく。


精霊だと。


貴族が忘れた神話よりも遥か昔の物語を、民は今も語り継ぐ。


精霊はやがて神を生み出す。

世界に祝福と生命の祈りを込めて。


火と土の精霊から大地神。

水と闇の精霊から海神。

風と光の精霊で空神。

火と光の精霊から太陽神

風と闇の精霊から月神。


そうして若き神が世界を創る。


血によって命を繋ぐ生き物が世界を埋め。

太陽と月が入れ替わる時間を区切って時間の流れを作った。

人と、獣と、朝と夜。


往くべき道を示し、神は自らを崇めよと人々に説いた。

祈るものに加護を与えて、信仰とする。


それが世界の成り立ち。


貴族たちが忘れた神々以前の歴史は貴人以外の誰もが知る物語。

神は少しばかりやり方を間違えたのかもしれない。

あるいは強欲な人の性を甘く見たのか。


魔法という規格外の力を与えてくれる神という存在を、貴族は独占したがった。

当たり前の話だ。


貴族は恐れたのだ。

民が魔法を手に入れることを。

自らの力が絶対ではなくなることを。


故に、国教は制定されども、民が神に触れるのは、街中に建てられた神殿程度のものであり、神殿ですら彼らにとっては定時を知らせる鐘を鳴らすもの、あるいは少しの施しをくれるもの、その程度の認識でしかない。


それは信仰とは言わない。

彼らは神を信じてはいない。

今も昔も、そしてこれらかも。


多くの国がある。

多くの人がいる。

そのすべての民が、信仰とも思わず、ただ畏敬の念をもって頭を垂れるのはただ一つ。


精霊という名を借りた、人知に遠く及ばない『何か』。

万物に宿る、巡る運命。


イリアがそれらを正確に知ることができたなら、八百万神のようなものだと思ったかもしれない。

しかしイリアがそれを知ることはなったし、知ったところで何ができたわけでもない。


つまり、イリアと弟たちがそれと知らずに作り出したものは何か。


偶像だ。


形のない信仰に、一つの道筋。

人々が思い思いに縋る、形無きものに血肉を与えるその所業。


何が起きたか?

信仰が集約されたに過ぎない。


ただの祈りが、明確に、『何か』に捧げる祈りとなっただけ。

もとからあったものが、向かう先を見つけただけ。

誰もが、その姿を共有するようになっただけ。


些細なことだ。


だが、確かに世界に風が吹いた。

何かが、起った。


精霊と神の伝承が事実であったか、などはこうなってはどうでもいい話だ。

祈りは力であり、信仰であり、神であり、命である。


世界に何者かの産声が上がった。

それを知る者は誰か?


あらゆる魔術を使っても、人の身でしかないイリアは世界の変化になど気付くはずもなかった。


大切な弟たちと、自分を取り巻く世界。


それだけが、小さなイリア世界で。

その腕の中で守りたいものだったのだ。

説明。

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