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イリアの世界  作者: 一集
第二章

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36.捕食者とロガートの城郭

なん(・・)だと思う?」

「さて…」

「行動が素早い種であることは間違いなさそうだな」

「隠密性に優れてることもな」


魔物は気配を隠さない。

が、特性として持っているものはいる。


それは魔法耐性が高いことと同義語だ。

例えばその皮膚や毛皮が自身の魔力を漏らさないものだったり、『探索(サーチ)』自体を弾いたり、あるいはステルス性能を持っていたり、方向性は様々でも表れる結果は同じ。


探知しにくい。


「夜行性か?」

「いや、昼でも問題なく動けている。決めつけるのはやめておこう」

「武器は牙、かな?死因となったのは確かにこの噛み傷だろう」

「だがこの地面の跡は―」

「ああ、鋭い爪も持っている可能性が高いな」

「爬虫類種特有の尻尾を引き摺った後はナシ」

「そうは言うが、爪の跡はあっても足跡もない」

「うまく草の上を選んで動いている、それなりの知能犯だぞ」


互いに推論を乗せて、解答を合わせていく。


生徒たちは阿呆みたいに口を開けてそれを眺めていた。

何度思ったか知れない疑問がまた浮かぶ。

一体、彼らはどこのA級(一流)冒険者だろうか。


畳みかけるような会話にもちろん意図はあった。

彼らが恐怖に飲み込まれる前に思考を別の事で埋めるのだ。

少しは上手くいったらしいと目だけで意思を疎通する。


それとは別に、会話の中で魔物の厄介な特徴ばかりが浮かんできてリィンは演技ではなく顔を顰めた。


「ち、人型でないことを願うばかりだな」

「余計なフラグ立てないでくれよ、リィン」


頭を掻きながらニールがため息交じりに注意を促す。

「フラグ」などただの迷信やジンクスの類だとわかってはいるがどうしても言いたくなる。


リィンは偉そうに鼻を鳴らした。


「俺とお前が一緒に居る時点でフラグも何もないだろう」

「…現実でも適応されるのか、このアホみたいな称号」


歩くエンカウンターとは何を隠そう、ニールとリィンのこと。

ワールド・アトラス内でエンカウント率(敵との遭遇率)の高い者に贈られる称号なのだが、まったくもって嬉しくない。

もちろん、仲間内で二人以外は一度も得たことのない称号である。


まさかワールド・アトラスが現実を侵食しているわけではないだろうから、二人にとっては世間話程度のこと。

会話というのは不思議なもので、乱れたペースを適度に整えるのにとても有用だ。

もちろん、心を許した相手の限定条件だが。


「にしても、この状況では取れる手段がない」

「困ったことに同感だな」


普段であれば、定石通りに罠を張り待ち構える。

この手の魔物駆除の依頼は仮想世界でそれなりにこなしてきた。

しかし、今回は勝手が違う。


「罠を張る時間はない」

「相手の出方を窺う時間もない」


とにかく時間がないのだ。

後ろからは魔物の大群が迫り、飲み込まれれば終わりという状況。


対抗策のウィルの広域魔術は発動時間と場所を定められている。

元よりギリギリに設定されているそのリミットに間に合わなければこれまた終わり。


それがなくとも、もう食料等の切実な資源が底をつきかけている。

早い所ロガートの城郭に辿り着かなければならない。


一個体に構っていればあらゆる意味で時間切れゲームオーバーだ。


「振り切るしか、道はないか」


逃げる以外にない、そう言葉にするのは憚られて、ほんの少し柔らかな表現を使う。


「やるしかないな。ただし、これより行動は三人一組にする」


焼け石に水かもしれないが、やらないよりはマシだ。


対処できる自信がある自分たち以外が背負った不安はいかほどだろう。

見えない影は恐ろしい。

いつどこから伸ばされるか分からない死神の手に怯えない者はきっといない。

今までとて迫る危機はあったけれども、明確に、目的をもって付け狙われるのとではやはりプレッシャーが違う。


守ってやる、とは二人とも言わなかった。

二対の目と二本の腕、目の届く範囲、手の届く範囲が狭いことを二人はよく知っている。


そして、人間にはどうしても休息という足を止めなければならない時間がある。

追う方としては楽だろう。


緊張状態を強いられての長時間行動は思った以上に体力を削るものだ。

いつもより小刻みな休憩がまた彼らを焦らせる。


「くそ、なんでおれは体力作りをサボったりしてたんだろうな」

「そりゃあ、未来なんて見えませんからね。こんな事態に巻き込まれることが分かってれば、誰だって死にもの狂いで努力したでしょうけど…」

「地道な努力をしてきた者が報われた、ということですわね、今回は」

「そうとも限らないわ、だってわたくしたちどれほど運に助けられてきまして?」

「まあなあ…、同じグループじゃなきゃとっくに死んでた自信があるよ、俺は」


当然ちらりと見るのは周囲の警戒に立っている二人の背。

もっとも休む時間が短い彼らは、それでも誰よりも速く強く、長く続く体力の持ち主だ。


地道な努力などという言葉で表すには突出し過ぎている。

彼らは最初から、自分たちとは違う特別な存在なのだろうとぼんやりと思った。


「少し休め、ニール。ここは俺が見ておく」


皆を休ませて見張りに立つことが多い二人が片割れに提案した。

そんなとき、生徒たちは少しだけほっとしてしまう。

やはり彼らも同じ人間だと。


だが、続く答えに思わず呻く。


「なら三分ほどもらおうか。時間が来たら起こしてくれ」


言うなり地面に座り込んで片膝に頭を預けて、一瞬のうちに意識を切り離したニールはきっちりと三分後にリィンに起こされた。


「どうだ?」

「ああ、よく眠れたよ」


伸びをしながらリフレッシュした雰囲気を覗かせるニールを、やはり自分たちと同列にしてはいけないのだなとネプターたちは思った。


その短時間ではとても休んだとは言えない。


もちろん、カラクリはある。

彼らはワールド・アトラスに潜っているのだ。

そこならば単純に時間は10倍。

寝食も十分にとれる。


ワールド・アトラスには現実の肉体に反映されるものは少なくとも、精神は大いに回復できるという利点があった。


寝た気、食べた気。

しかし心は事実休息している。

疲れたと思ったなら、ワールド・アトラスにはふんだんに用意してある回復薬(アイテム)を使えば、気のせいと分かっていつつも現実で目覚めた後は楽になっていた。

思い込みはなかなかの効力を発揮してくれている。


「で、先輩。この休憩でついに水が尽きましたが、魔法で補充した方がいいですか?」


魔物への対処がある今、魔力を消費する事態はなるべく避けたい。

あの広域魔術のリミットが現在設定されていないことから、ロガートの壁が近いことは皆わかっている。

遠回しに距離を問うネプターの言葉にレオナルドは首を振った。


「いや、必要はない。夜には城郭に着くと思う」


レオナルドから待望の言葉が出て、誰もが顔を輝かせた。

この一日、警戒心を高めているだけあって速度は落ちたが、誰も欠けていないせいもあるだろう。


見えない追跡者はその足音さえしない。

もしかして、本当に振り切れた?

希望が見えた気がした。


「今日は城郭に着くまで走ろう」


安全圏に出来る限り早く辿り着きたい一心。

空を見れば夕刻までもう二時間もないだろう。

最後と思えば、三時間くらい走り続けられる体力はありそうだ。


彼らの心を慮ってニールとリィンも頷く。

泥と血に塗れ、着の身着のまますでに四日。

さすがにまともな休息が必要に見えた。


「よし、最後の一頑張りだ」

「ええ!」

「おお!」


皆の顔に明るさが戻り、この数日で手慣れた魔物の襲撃を危なげなく捌く。


やがて夕闇が迫り、赤い太陽が最後の一瞬輝きに身を焦がす時間帯にそれは見えた。


「見ろ!あれだ」

「人は居るか!」

「わからな、いや、光だ!明かりがある、人がいる!」


指を差し、自分たちの存在を主張するように大きく手を振る。


「おーい!見えるかー!?入れてくれ!学園の生徒だ!頼む!!」

「助けて!わたしたち魔物に追われているの!」


わっと隊列が崩れて、我先にと呼吸を乱して走り出す。


ネプターは仲間たちの感情の揺れを自分の探知範囲に直に感じて少し顔を顰めた。

ちょうど背後からの魔物に対処していたレオナルドも、いつもならすぐに入るフォロー要員が仕事を放棄したことで少しの変更を余儀なくされる。


一人で出来ないことはないから怒ることではない、それでも二人はふと不安になったのだ。


それはこの数日で培った勘か、経験則か。

ゴールを目の前に、それでも隙を見せることが出来ない。

それが明暗を分けた。


「あ、おい、気をつけろ!」

「そうですよ、探知がしにくくなるからあまり、」

「何を気をつけろって言うんだ、もうあそこ、が―」


それが彼の最後の言葉。

レオナルドとネプターの前で首がなくなった彼の体がその慣性で二歩三歩と走って崩れ落ちた。


「な、」

「敵襲―――――!!!!!!」


自分の声とは思えない声でネプターは叫んだ。


「うそでしょう!?こんなところで、死―」

「いやあああ――――!」

「待っ!」


それはもう、無作為な暴虐。

背を見せた生徒たちはレオナルドが見てもひどく無防備だ。


簡単に手足が空を舞い、体が飛ばされる。


城郭側で騒ぎに気付いた兵が動き出す。

遅い、とレオナルドは思った。

俺ならもっと―。

そう苦々しく弓を構え始める兵を視界に留めながらレオナルドは不吉な音を聞いた。


ひゅっと空気を切るような。


何かが見えた訳ではない。

けれど瞬間思った。


あ、俺死んだ。


「下がれ!」


けれど、次に見えたものは知らない死後の光景ではなく、ひたすらに眺め続け、追い続けた見慣れた背中。


瞬間知る。

俺は、死なない。


レオナルドには何が起きているのか視認すら出来ない。

けれど耳が捉える、重い打撃音と衝撃に食いしばる歯から漏れるニールの呻き声。


威嚇と警告に鳴らす城郭からの鐘と太鼓の音が喧しく響き渡る。

矢がとすとすっと足元に刺さり、続いて降ってくる無数の凶器をレオナルドは「ああ、避けなくては」そんなことを思った。


魔物をここで屠れるならば、この命はとても軽い。

ならば自分を生かすのは自分でしかない。


疲れた体を叱咤して、手に馴染んだ重い剣を掲げ、後ろに居たネプターと自分の射線上にある、味方であるはずの城郭から放たれた矢を薙ぎ払う。

剣をすり抜けた矢は避けてみせた。


飛んでくる矢を自力で避ける。

そんなことが出来る人間がいたらそいつはもう化け物級の超人だと思っていたことを、自ら再現する不思議。

レオナルドはこんな時であるにも関わらず思わず可笑しくなって、自然口元が笑みを作った。


城郭の門が開いて、兵たちが駆け出て来る。

その時には、死神の姿はもうなかった。

城郭の戦力に恐れをなして逃げたのか。


ネプターに目を向け、頷く合図を以って肩の力を抜く。


剣を下して見渡した平原。

城郭までの最後の50mを抜けられた者はいない。


自分たちのように駆け出さなかった者だけが呆然と、ほんの数分に満たないはずの嵐の跡を見ていた。


細切れになった、つい先ほどまで隣に居た仲間。

こんな状況は幾度目か。


「エンドレシア、いやニール、助かったよ。ありがとう」


出てきた兵たちに生き残った仲間が次々保護されていく中、レオナルドはニールを呼び止めた。


「出来ることをしたまでだ、礼には及ばない」


さらりと躱されたが、レオナルドは目だけで強く問う。

なぜ自分を選んだのか。


彼の手の届く範囲に居たのは自分だけではない、けれど、確かにニールは迷わずこの身の前に立った。


「…たぶん、惜しかったからかな?」


命を選んだことに自覚はあったらしい。

ニールは少し含んだ笑いをレオナルドに向けて、ここで死ぬのは惜しいと思ったと嘯いた。


続いた言葉に目を見開く。


「いい加減自覚するといい。君は、強いよ。強くなった。きっともっと強くなる」


ニールは言う事は言ったと、レオナルドの感情を置き去りにさっさと踵を返して城郭に向かってしまった。

その横からニールの首に手を回して引き寄せるのは高位貴族と名高いリィン。


「…強いって?俺が?いや、ねーだろ」


ニールの隣になど、並べる気がしない。


「先輩、ちょっと思ったんですが、僕ら比較対象が間違ってやしませんか?」

「そうなのかもしれないけどさあ!だって目の前にいるんだぜ、あいつら!比べるなとか、無理だろ!?」

「…図に乗れないってのも悲しいものですねぇ。嬉しいなら嬉しいって素直に言った方がいいですよ。そのニヤケ顔、見てる方はけっこう恥ずかしいですから」

「いやなこと言うな、お前!わかってるから指摘すんなよ!」

「さ、ともかく凱旋です、門を閉ざされないうちに行きましょう」

「ってか、凱旋か?これ」

「生き残ったんですから凱旋でいいんですよ」

「言えてるわ」


二人はニールとリィンのあとを足元の障害物を避けながら続いた。


「ニール、見えたか?」

「ああ、一瞬だったけど。猿に見えた」

「人型に最も近いとされる魔物の一つ、か。猿の大型(グロー)種。しかも色付きだったな」

白色変異(ヴィス)種だ」

「…通りで探知がし難いはずだな」


白色変異(ヴィス)種の特徴がそれだ。

彼らの色は魔力の集束を阻む。


「諦めたと思うか?」

「猿型の魔物は執念深い」

「…言いたくないが、同じ意見だ」


その日、幾日ぶりかに満足な休息の場を得た。


「三班、いえこの人数ですから二班でいいですかね。食事、湯浴み、消耗品の補充を上手く回しましょう」


目減りした人数に気落ちしながらネプターが提案すれば、速やかに二手に分かれて、それぞれで時間配分を決めていく。

いつの間にか育った自主性は素晴らしい。


「ネプター、レオナルド、そっちは任せたぞ。俺とニールは上に状況の報告をしておく」

「了解」


急ぎ足で汚れを落とし、身を整え、食事にがっつく生徒たちを城郭の兵士たちは呆れと苦笑を混ぜて落ち着けと諭す。


平民出身が多い兵は、貴族のいけ好かない子供たちが城郭に入ることに戸惑いを見せていたが、保護した生徒たちに貴族特有の驕りは見えない。

むしろ欠食児童のような有様に哀れみすら覚えた。


聞くところによると魔物の大量発生が起きて、ここまで逃げてきたらしい。

さきほど、この城郭に辿り着く直前の悲劇は確かに目を覆う惨状で、彼らを守り切れなかった学園の安全対策には怒りを覚えたほどだ。


「急がなくてもこの城郭は安全だ」

「哨戒の兵も増やしているし、確かに魔物は多いが俺たちで何とかなる程度のものだよ」

「だから気にせずに疲れを癒すといい」


それでも、生徒たちの忙しない動きは止まることはなかった。

食事の合間にも口々に疑問がついて出る。


「この城郭の基本防衛はどうなっているんですか?門は二枚のようでしたが、素材は?どれくらいの衝撃に耐えられます?」

「兵の人数も出来れば知りたいわ。それと、救援を願った場合、どこからどれほどの人数が、どれくらいで駆けつけてくるの?」

「武器の数と量はどの程度でしょう?魔法を使える方は幾人おられるのですか?」

「備蓄は十分ですか?消耗品はどれほど分けていただけますか?」


これには食事の面倒を見ていた方がたじたじになった。


「おいおい、君たちまさかここが落ちるとでも思ってるのか?魔物の大量発生程度で?」


生徒たちは互いの顔を見合わせた。

魔物の大量発生程度?

自分たちが死ぬような目にあったあの悲劇は、目の前の兵士たちにとってはあの程度で済まされるようなものなのだろうか。

少し性急だった自分たちを恥じた。


「いえ、そうではないのですが。この数日ずっと危険に身が晒されていたので、そういう習慣が身についてしまっただけです。万が一のための準備をする習慣が」

「まあ、それは結構なことだがな。時には何も考えずに休むことも大切だぞ」

「今隊長が君らのリーダーに事情を聴いているところだ。多分、ここに迎えを寄越してもらえるように取り計らわれるだろう」

「え?」

「ここで、待つのですか?」

「不満か?」

「あ、いえ。でも、それなら自分たちの足で向かいますよ」

「そんな疲れた体で?」

「少し休めば回復します」

「当然、貴族の特権であなた方の消耗品を拝借させていただきますがね」

「こりゃ参った、なかなか強かな坊ちゃんたちだな」


笑い声を上げながら、生徒たちは互いに目配せを交わす。

どうしても不安になる。

それを共有したかった。


与えられた部屋で一夜を過ごすことになった彼らは今にも泥濘に沈みそうになる体を叱咤して、ニールたちの帰還を待った。


「来た」


足音でそれを察して、予め決めておいた部屋に音もなく集まる。


「どうだった?」

「状況は伝えた。伝えたが、伝わってない。」


頭痛を耐えるようにニールがため息を吐いた。


「どういう事?」

「ことの大きさが伝わらない。彼らからすれば、魔物の大量発生「程度」のことらしい」


暖簾に腕押しとはこのことかと感心するほどまったく言葉が通じなかった。


「ああ、それ、俺たちも同じこと言われた」

「規模が違うと言っても取り合ってはもらえなかった」

「例の広域魔術で足の速い魔物は殲滅されてるのが裏目に出たな。予測できないものが、目に見えていないならなおさら信じるわけがない」

「実習参加者はほぼ壊滅、教師たちの行方も知れないと訴えたんだがな。どこかでやり過ごしてるだろう、他の生徒たちは教師や冒険者たちに森で保護されているはずだと。宥められる始末だ、この俺が」


リィンが忌々しそうに舌打ちした。


生徒のみならず教師や冒険者までもが全滅の憂き目にあう。

そんなことがあり得るはずがない。

ならばきっと、勘違い。

彼らはまだ子供で、状況の判断も甘く、恐慌に陥ってがむしゃらに逃げて来たに違いない。

そんな事実がないにも関わらず、そう思い込んだのだろう。


隊長の目はそう言っていた。


「幸いにも城郭前の惨状を見ているから魔物の大量発生は信じてもらえたが」

「王都へ早馬を走らせるようには取り計らった。ただ全土への緊急事態勧告は却下された」

「そんな心構えでこの城郭は、ロガートの壁は持つの?」

「……わからん、だがいつでも動ける準備はしておけ」


ぴりっと緊張が走った。


「…狭いけど、全員同じ部屋で休もうか」

「そうね、今までだって身を寄せ合って過ごしてきたんだもの今更よ」

「荷物の点検をしてから寝よう」

「すぐに行動できるように荷物には手を掛けておけよ」

「わかってるって」


汚れた服は捨てて、今着ているのは支給された軍服だ。

ラフな就寝用の服も与えられていたが、誰一人として腕を通していない。


忍び寄る眠気に一人が笑う。


「この状況でも寝れるって、わたしたち凄いわね」

「だって、寝れなきゃ死ぬだけだもの」

「違いないな」

「明日は良いことがありますように!」

「誰に祈ってるの?」

「…神さま?」

「はあ、無駄なことおよしなさいな」

「―そうね、本当に。無駄なことだわね」


城郭を異変が襲ったのは明け方の事。


生徒たちは久々に十分な睡眠を取れたことに感謝すらした。


城郭そのものが揺れるような感覚。

あの、始まりの日の地響きと魔物の歓声よりはマシだな、と思った。






ダラダラ書いてたら全然北組編が終わらないー。

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