恋心
それからどれくらいの時間がたったんだろう。
ここはどこだ。
あたりは真っ暗だ。
「ちがうよ。リト。そっちじゃないよ。こっち。こっち。」
誰の声?
でもとても心地良い。
その方向に手をのばした瞬間リトは目覚めた。
いつもの病室。
そして目の前で父親と抱き合い涙をながす母親。
あぁ。
俺、生きてんだ。
またさゆに会えるんだ。
そう思うと俺の目からも自然に涙がこぼれた。
手術が終わってから3日がたった。
リトはやっと屋上に来ることが出来た。
でも、そこにさゆの姿はない。
「いないかぁ。検査かなぁ…」
なんて考えていると後ろから声がする。
「うーん。今日はいい天気。あっ先客?珍しいなぁ。屋上に誰かいるなんて。私はさゆよろしくね」
いつもとかわらぬさゆの様子にリトはすごく安心した。
「俺はリト。まぁでもあと一週間で退院するけど…」
「そうなんだ。おめでとう。いいな〜。私も外を歩き回りたいな〜。なんてね。」
さゆはふざけた顔をつくって笑う。
言わないほうがよかったかな。
でも心のなかで見送りに来てくれる事を祈ってる自分がいる。
「じゃあ私検査だからいくね。退院するまで仲良くしてね。」
さゆがリトに笑顔を向ける。
でもその笑顔はまたつくり笑いだった。
「はぁ〜。またつくり笑いかぁ。最近よく笑ってくれてたのになぁ」
さゆはリトと別れるとすぐに病室にもどった。
「あら、さゆ。どうしたの?帰ってくるのはやいわねぇ。今日は検査も何もないわよ。」
さゆは下を向きながら答える。
「わかってる。リトね。あと一週間で退院なんだって」
「今日出来たお友達?」
「うん。そう。私ねリトが退院ってきいておめでとうって思うけど、それと同時にいかないでって思うんだ。私、ワガママかなぁ。」
「そんな事ないわ。そんな物なのよ。」
「そうかなぁ。でもそうだといいね」
さゆの心の中に芽生えた恋のカケラ。
たとえ記憶がなくても毎日さゆはリトに恋をする。
いっしょにいたい。
これからも。
ただそれだけだけど…