第13話 千鶴、中央に戻る
部屋で荷物をまとめていると、それを見ていた浅見がポツリとつぶやいた。
「だから言ったのに」
「……そうだな」
浅見は繰り返し深入りするなと言っていた。
でも、思い留まることはできなかった。
すぐそこにいるのに、話もしない。会えない。その距離に、俺はきっと耐えられない。
「浅見には悪いと思っている。心配してくれたのに」
「……」
「でも、カエはきっと、脱走計画なんかに参加していない。疑いが晴れれば……」
きっとここに戻れる。
そう言おうとしたのを、浅見に遮られた。
「関係ないよ」
振り返ると、浅見は顔をゆがめていた。
「あの子がどうかなんて関係ない。ちづは、中の吸血鬼と仲良くなった。吸血鬼が、脱走しようとしている。それだけだ。ここにいれば、間違いなくちづは疑われる。もうここへは戻れないよ」
「……」
思っていたより、ずっと事態は深刻らしい。
「ちづ。向こうに知り合いはいる?両親はもういないんだろ?」
「あ、あぁ…異動先は決まってるから、たぶん軍の寮に入れると思う」
「住むところがあればなんとかなるか。何か困ったことがあったら、連絡するんだよ。俺も、隊長も、ほかのヤツらも、みんな心配してるから」
同室になっただけなのに、ずっと心配してくれている浅見に、不覚にも泣きそうになる。
「俺のせいでこうなっているのに……」
涙をぐっとこらえていると、浅見は俺をまっすぐに見据えた。
「お前は悪いことはしてない。ルールは破ったけど、裏切ってない。そうだよな?」
「当たり前だ!!」
カエが困っていたとしても、仲間を売るようなことはしない。
「なら、関係ない。俺たちは仲間だ。こんな山奥で、何年一緒に暮らしたんだよ」
「……3年」
「だろ。ここのやつらは親の顔も知らないやつも多い。家族よりも長く一緒にいる」
浅見は俺の肩を叩く。
「いつでも遊びに来い。隊長は、立場上言えねぇから、伝えろって。皆待ってる。困ったら絶対連絡するんだ、いいな?」
「ありがとう……」
こんなにも暖かい場所を離れなければならないなんて。最後にカエにも会いたかったけど、これ以上迷惑はかけられない。
翌朝、すぐに俺は隔離地区を後にした。




