春に咲いたのは黒い花
※自殺の描写あり※
1ヶ月後の私は宙に浮いている。まるで最初から居なかったかのように、闇夜を背景にして溶けていく。
『死にたい』その哀れな気持ちを確かめるために毎晩日記をつける。ぐちゃどろに咲き乱れた花のように美しくて鈍いその字体で書かれた日記は、いつか散っていきそうな気がした。夜、ライトという淡い太陽が机を照らして日記に黒い花を咲かせる。花を育てるように優しく、でも乱れた日光で。しかし水をあげることは出来なかった。こんなにも苦しくて、毎日宙に浮くことばかり考えて水が出そうなのに。黒い花にあげる“水”と名付けた“涙”は1粒も降ってこない。
今日も貴方と顔を合わせる。でもそれは同時にではなく、私が一方的に瞳を向けているだけ。それでも私は貴方を噛み締めるように視つめる。
1ヶ月後にクラス替えがある。その週の金曜日が1番死ぬのに相応しくて儚い日だと考えた。理由はたった1つ。貴方の誕生日と似た数字だったのだから。貴方へ想いを閉じ込めたまま、私は散っていく。あの黒い花と共に。
梅色の景色が並ぶ季節。枝に張り付いた桜より、地面に張り付いた花弁の方が美しく思えた。踏み潰される度に血のようなピンク色が広がる。そんな花弁に見惚れてしまったんだ。いつか私もそのように成りたいと思っていた。まるで最初から居なかったかのように、恋をしていたという存在すらも。恋色が霞んだ桃色になって、踏み潰される。
その日は近づいてきた。なのに私は紐を購入していない。1粒も涙を流していない。四六時中、たった数分のことだけを考えているのに、胸が打たれる感覚がしない。それでも日記をつけて希死念慮の存在を確かめる。私なら宙に舞える、とその時だけ安心する。涙が零れない理由を探したら、一つだけ思い浮かんだ。
『未来が無いことを想定したら、全てを投げ出すことが出来る』
貴方への想いもすり減っている気がした。「どうせ死ぬから」と諦めることも日に日に増えていく。気づいたらスマホのデータ使用量も減っていた。全てを1粒も残さずに溶けて居なくなりたい。
◇
今まであった日々を再び見つめる。私には恋しか生きる理由が見つからなかった。どちらも私を救ってくれたのに、殺してきた。貴方は何もしていないのに、貴方という存在のせいで気持ちがとろけてしまったんだ。
7年と150kmの恋。
その離れた年数と距離を駆けて逢いたかった。貴方私を呼ぶ「@z1_xt9さん」はどれだけ優しかったものか。「▒▒」ってもう1度呼んで欲しかったな。貴方の心に私の本名が刻まれただけで嬉しく思える。貴方の眩しい輝のおかげで大嫌いな夏も好きになった。スマホからのブルーライトから避けたくて、貴方を諦めたくて。それでも貴方との共通点を探してしまう私が憎くて。新しいシーツに、想いを寄せた汚れを作ってしまったんだ。初めて腕に薔薇が咲いた。愛を謳えないこのどろりとした恋に、ついに句点を付けられる日が来た。
『ごめんなさいもう抜けます』
︰サーバーからの通知
__@z1_xt9さんが退出しました。
◇
隣という称号から始まった恋。
今まで私に心拍を加速させた人達は、いつまでも輝いていて太陽のような存在だった。でも貴方は違った。冷静に取り組み、慎重に物事を進めていくその姿は、時々目立って密かに私達を照らしてくれる月のような存在だった。鼻頭にのしかかるその四角いアクセサリーは、目と共に照らしていて一層美しく見えた。貴方のおかげでテストの点数は上昇するばかり。そして貴方への想いも共に上昇する。貴方は私の想いにすら気づかず、やがて自然と離れていくだろう。それを想像するだけで胸の底が溶けるように熱く燃える。あと一目だけでも網膜に捉えたかった。しかし今は恋色の桜が咲く連休。最後に貴方を視た桜の木はまだ蕾だった。
◇
気づいたら4月11日だった。気づいたら黒い花と共に宙に舞っていた。
私が指だこのある手でシャーペンを握って黒い花を咲かせる姿は月が見ていた。
私が命のない手で紐を握って黒い花を枯れさせる姿は太陽が見ていた。
「私」の重い想いの塊は『黒い花』です。
「私」が想いを告げなかった2つの恋は、やがて「私」を殺してきました。
「私」は春に死ぬことを儚いと捉えました。




