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三歩下がれと言われたので三千里離れた国へ逃げました  作者: 秋月 もみじ
第2章

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第9話 宮廷の断罪


御前会議の間は、張り詰めた空気に満ちていた。


重臣たちが左右に並び、正面には玉座。グレイシアが腰を下ろし、冷たい目で会議の間を見渡している。その隣には、帝国の紋章を掲げた旗が揺れていた。


私は原告側の席に座っていた。隣にはエルザ、そしてカロリーネ。彼女は緊張した面持ちで、それでも背筋を伸ばしていた。


向かい側には、被告席。


オットー・フォン・レーヴェンシュタイン伯爵と、ヘルガ・フォン・シュタインベルク公爵夫人。二人とも、顔色が悪かった。昨夜、突然の召喚状を受け取ったのだろう。何が起きているか、薄々は察しているはずだ。


「御前会議を開廷する」


グレイシアの声が響いた。


「本日の議題は、オットー・フォン・レーヴェンシュタイン伯爵およびヘルガ・フォン・シュタインベルク公爵夫人に対する、外国との内通および国家反逆の嫌疑について。——告発人、前へ」


私は立ち上がり、会議の間の中央に進み出た。


「陛下、重臣の皆様。本日、私はオットー伯爵およびヘルガ夫人が、ローゼリア王国と内通し、帝国の利益を損なう陰謀を企てていた証拠を提示いたします」


どよめきが広がった。オットー伯爵の顔が強張る。ヘルガ夫人は扇子を握りしめ、こちらを睨んでいた。


「まず、こちらをご覧ください」


カロリーネから受け取った手紙を、書記官に渡す。書記官が内容を読み上げた。


「『ヴィルヘルム閣下へ。計画は順調に進んでおります。評議会において、シュタールの娘を誘拐被害者として認定させる準備は整いました。帝国宮廷内の協力者と共に、確実に排除いたします』——署名、オットー・フォン・レーヴェンシュタイン」


会議の間が静まり返った。


オットー伯爵が立ち上がった。


「でっち上げだ! その手紙は偽造されたものに違いない!」


「偽造ではありません」


私は冷静に答えた。


「この手紙は、シュタインベルク公爵夫人の書斎から発見されました。筆跡鑑定を行えば、伯爵ご本人のものと一致するはずです。——鑑定を、ご希望ですか?」


オットー伯爵が黙った。筆跡鑑定を受ければ、言い逃れはできない。彼自身がそれを分かっている。


「さらに」


私は続けた。


「伯爵が五年前、ローゼリア駐在大使として署名した通商条約について。この条約は、後に改竄が発覚した二十三件の一つです。伯爵は立会人として署名しておきながら、改竄の事実を知りつつ黙認していた可能性があります」


「それは——」


「否定されますか? であれば、なぜ第三国の検証結果が出た後も、一切の説明をされなかったのですか?」


沈黙。オットー伯爵は何も言えなかった。


次に、私はヘルガ夫人に向き直った。


「シュタインベルク公爵夫人。あなたの書斎から発見された通信文の下書きには、私を排除する計画が詳細に記されていました。オットー伯爵との共謀、ローゼリアとの連絡、評議会での工作——全てが、あなたの指示の下で行われていました」


ヘルガ夫人が立ち上がった。


「証拠などいくらでも捏造できます! それに、その手紙を持ち出したのは誰ですか? 私の姪でしょう!」


「カロリーネ様は、自らの意志で証拠を提供されました」


「裏切り者!」


夫人がカロリーネを睨みつけた。だが、カロリーネは怯まなかった。


「叔母様」


カロリーネが立ち上がった。その声は、震えていたが、しっかりと響いた。


「私はずっと、叔母様の言う通りにしてきました。でも、もう道具でいるのはやめます。私は——自分で選びます」


「この恩知らずが!」


「恩知らずと言われても構いません。でも、外国と内通して帝国を売ることが『恩』だとは思いません」


ヘルガ夫人の顔が歪んだ。反論の言葉が出てこない。


私は重臣たちに向き直った。


「以上が、告発の内容と証拠です。判断は、陛下と重臣の皆様に委ねます」


沈黙の中、グレイシアが立ち上がった。


「被告人、最後に申し開きはあるか」


オットー伯爵は俯いたまま、何も言わなかった。全ての証拠が揃っている。言い逃れは不可能だと悟ったのだろう。


ヘルガ夫人だけが、最後の抵抗を試みた。


「陛下! 私は、伝統を守ろうとしただけです! 外国人の皇妃など、帝国の伝統に反します! 私は、帝国のために——」


「黙れ」


グレイシアの声が、会議の間を切り裂いた。


「伝統を守る、だと?」


彼が一歩、前に出た。玉座を降り、ヘルガ夫人の前に立つ。


「伝統とは、帝国を守るためにある。帝国の民を守り、帝国の名誉を守り、帝国の未来を守るために、先人たちが築いてきたものだ」


その目が、冷たく光った。


「帝国を売る者の言い訳にはならん」


ヘルガ夫人が後ずさった。その顔から、血の気が引いていく。


「お前たちは、外国と通じ、帝国の皇妃候補を陥れようとした。それは伝統を守る行為ではない。帝国への裏切りだ」


グレイシアが玉座に戻った。


「裁定を下す。オットー・フォン・レーヴェンシュタイン伯爵、ヘルガ・フォン・シュタインベルク公爵夫人。両名を、外国との内通および国家反逆の罪により有罪とする」


どよめきが広がった。


「爵位を剥奪し、宮廷から永久追放とする。領地は没収、財産の半分は国庫に納めよ。——連行しろ」


衛兵が二人を囲んだ。オットー伯爵は力なく俯き、ヘルガ夫人は最後まで私を睨みつけていた。だが、もう何も言えなかった。


扉が閉まり、二人の姿が消えた。


御前会議が閉会した後、私は廊下に出た。


窓から差し込む光が、眩しかった。終わった。宮廷内の陰謀との戦いが、ようやく終わった。


「フェリシア様」


振り返ると、カロリーネが立っていた。


「ありがとうございました。あなたのおかげで、私は——」


「私こそ、ありがとうございます。あなたの勇気がなければ、証拠は手に入りませんでした」


カロリーネが小さく笑った。


「これからは、自分で選んで生きていきます。叔母様のいない場所で、一からやり直します」


「応援しています」


「……ええ。あなたも、お幸せに」


彼女は頭を下げ、去っていった。その背中は、以前より少し軽やかに見えた。


「フェリシア様」


エルザの声に振り返る。


「陛下が、お呼びです」


「……はい」


胸が高鳴った。裁定後、グレイシアは私を見て微かに頷いた。「よくやった」という、無言のメッセージ。そして、昨夜言いかけていた言葉。


「行ってきます」


エルザが珍しく微笑んだ。


「行ってらっしゃいませ」


廊下を歩きながら、私は考えていた。


全てが終わった。祖国との決着、宮廷内の陰謀、保守派との戦い。長かった戦いが、ようやく終わった。


残るは——婚約の、その先。


皇帝の執務室が見えてきた。扉の前で、私は深呼吸をした。


三ヶ月前、グレイシアは言った。「迎えに行く」と。


今日、その約束が果たされる。


扉を叩いた。

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― 新着の感想 ―
「評議会での工作」って何かありましたか? 何の工作もなしで、前に一度使った書類の再提出だけで解決する案件でしたよね 工作も何もないですよね 主人公を賢く見せるために周りの人間を幼稚園レベルの頭脳にして…
国家反逆罪の内容が適当すぎで笑える 現代日本ですら該当する外患誘致罪は死刑なのに 罪軽すぎるのは無知で調べる気も無いですと言ってる様な物 罪軽くしたければ国家反逆にしないで何か言い訳説明書いたら?
え、他国から来た平民に対するなんたらかんたら...での処罰ならともかく、他国と内通して国家反逆した罪が追放で終わり? 余裕の処刑案件では...
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