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伝説の盗賊団のボスは娘に大好きと言わせたい  作者: zeroスター


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2

俺は全速力で大地を蹴った。


 常人なら急いでも丸二日はかかる道のりだ。だが、今の俺はパニック状態の父親。火事場の馬鹿力も相まって、わずか二時間で目的地へたどり着いた。


 ドンドンドンッ!!


 息も絶え絶え、死にかけの状態でドアを叩く。


「誰だ……?」

 警戒心を露わにして出てきたのは、神経質そうな眼鏡の男。


 かつて俺が率いた盗賊団『鷹の爪』のNo.2、レンだ。


 その知能指数は世界の上位1%に入ると言われる天才軍師であり、あらゆる戦況を読み切り、我々を勝利へ導いてきた男である。


「ボ、ボス……? どうしたんですか!?」

 玄関先でぜぇぜぇと泡を吹く俺を見て、レンが目を見開く。


「き、聞いてくれ……娘が……レナが……」


 「レナちゃんがどうした!? まさか……プレゼントを喜ばなかったのか? いや、その慌てようはもっと緊急事態だ……まさか……」


そう、この男も俺の娘、レナを溺愛していた。


 というか、『鷹の爪』の幹部10人は全員、俺の娘の狂信的なファンだ。


 中でもこのレンは重症だった。


 普段は冷徹な策士であり、勝率100%を誇る知の巨人だが、レナのこととなると知能指数が急降下する。娘に害なす可能性のある事象に対し、思考放棄して「排除」の一択しか選ばなくなる思考停止ロボットと化すのだ。


 レンの顔色が真っ青になり、眼鏡がカチャリとズレる。


「に、妊娠……したのか?」

「ちげぇよ!!」

「じゃあなんだ!?」

「娘が……冒険者になるって言い出したんだよ!!」


 俺が叫ぶと、レンは一瞬キョトンとし、次の瞬間、スッと真顔に戻った。殺し屋の目だった。


「よしボス、わかった。この世界の冒険者ギルドを全て潰そう」


「馬鹿野郎! それじゃレナが悲しむだろうが! それに嫁に殺される!」


「しかしボス、冒険者なんて野蛮な職業だ。男とパーティーを組むこともあるし、野宿もする……間違いなんか起きたらどうするんですか」


「あいつは……あいつはなぁ、『冒険者になって人を助けるんだ』って言ったんだよぉぉ!」


 俺が泣き崩れると、レンは口元を手で覆い、膝からガクリと崩れ落ちた。


「な……なんてイイ子なんだ……ッ!」


「そうだろぉぉぉ!?」


 眼鏡の奥から大粒の涙を流して感動する元No.2と、鼻水を垂らして号泣する元ボス。


 世界を震撼させた伝説の男たちは今、ただの親バカとして玄関先で泣きじゃくっていた。


しばらく玄関で男泣きした後、俺はリビングに通された。


 部屋は、中央に無機質な机と椅子が置かれているだけで、他には何もない。


 レンという男は、興味がないものに対しては徹底して無頓着だ。生活感の欠片もないこの部屋が、彼が「異常者(天才)」であることを物語っている。


「それで、どうしたらいいと思う?」


 俺は机に肘をつき、顔の前で両手を組んで問うた。


 レンも眼鏡の位置を直しながら、真面目な顔で答える。


「レナちゃんの夢を叶えるのも、俺たち親の役目だよボス。なんとかしてあげよう」


「お前は親じゃない」


「わかってるよ。俺たちはそれくらいレナちゃんを愛しているという比喩だ」


 俺の即答を、レンは涼しい顔で受け流す。


「要は、レナちゃんに『人助け』をさせてあげればいいんだ。散歩にでも誘って、困っている人を助けさせるというのはどうだ?」


「どこにそんな都合よく困ってる奴がいるんだ?」


 俺は今まで、こいつの策を疑ったことはない。


 だが、ことレナに関することとなれば話は別だ。この天才は時折、とんでもない計算違い(暴走)をする。


「俺たちが解散して15年……『伝説の盗賊団』の不在により、世の中には小悪党が蔓延っていると聞く。そのエリアに連れて行き、人攫いでもしている連中を叩かせればいい」


 レンは淡々と情勢を語りだした。


「そうした悪党の討伐依頼が増えたことで、15年前には鼻で笑われていた『冒険者』という職業が、今や脚光を浴びている。」


「……ほう」


「街へ買い物に行った時にでも、祝福されている冒険者をレナちゃんがみて、憧れたのかもしれない。」


「そんな世間の事情はどうでもいい! それでレナは満足するのか?」


 俺は頭を抱えた。


 どうすればいい? 冒険者になった娘について行くか? いや、確実に嫌われる。

 変装してパーティーに入るか? いや、娘に言い寄る男がいたら、その場で消し炭にしてしまう自信がある。


 思考が堂々巡りを繰り返し、終わらない。


「ボス……諦めよう」


 唐突に、レンが言った。

 俺は弾かれたように顔を上げる。


「……あ?」


「純粋なあの子が言い出した事だ。ボスに言うのにも相当な勇気を振り絞ったんだろう。だから、笑顔で送り出してやるんだ」


「お前は……レナが危険な目に遭ってもいいと言っているのか?」


 俺の身体から、どす黒い殺気が噴き出した。

 空気がビリビリと震え、部屋の窓ガラスにピキリとヒビが入る。あたり一帯の重力が変わったかのような重圧。


「お、落ち着いてくれボス! 話は最後まで聞いてくれ!」


 レンが慌てて両手を振る。


「俺だってレナちゃんに傷ひとつ付けたくない! だからこそ、『気づかれないように手助けする』んだ」


「……どういうことだ?」


 俺が殺気を収めると、レンは冷や汗を拭いながら眼鏡を光らせた。


「例えば、レナちゃんが『薬草採取』のクエストを受けるとする。そこで俺たちは先回りをし、そのルートに現れるはずのモンスターや、害を及ぼしそうな人間をすべて排除しておくんだ」


「なるほど……」


「そうすれば、レナちゃんに危険が及ぶこともない。それでいて『クエスト達成』という成功体験も味わえる」


 レンはニヤリと笑った。


「名付けて、『完全介護型フルサポート冒険者プラン』だ」


「その手があったか……!」


 俺は思わず膝を打った。

 先回りして障害を排除する。それなら娘のプライドも傷つけず、安全も確保できる。完璧な作戦だ。


「ですがボス、これには限界があります」

 喜びも束の間、レンが冷水を浴びせるように言った。


「今は薬草採取のような簡単な依頼で済むでしょう。ですが、将来的に彼女がランクを上げ、『討伐依頼』を受けるようになったら? 対象が群れを成す魔物や、広範囲に及ぶ討伐戦だったら?」


「む……確かにそうだ」


 難易度が上がれば、こちらのサポート難易度も跳ね上がる。


 討伐系の依頼ならば、娘はどうしても敵と戦わなければならない。


 その場合、俺たちが先に殺してしまっては依頼失敗だ。かといって放置すれば娘が危ない。


(……どうする? 敵を死なない程度にボコボコにして、あと一撃で倒せる状態(ミリ残し)にしておくか? いや、偶然を装って変装した俺が助太刀するか? いや、変装がバレたら……)


 俺の脳内でシミュレーションが高速回転する。


「う、ううぅぅぅ……」


 考えすぎて、俺の頭からプシューと煙が出始めた。

 オーバーヒート寸前の俺を見て、レンが静かに告げた。


「ボス、提案があります」


「……なんだ?」


「どんな状況でも対処できるようにしてしまえばいんですよ」


 レンは真剣な眼差しで、とんでもないことを口にした。


「『鷹の爪』を、再結成しましょう」


「はあぁ!? お前、正気か!?」


 俺は椅子を蹴倒す勢いで立ち上がった。


 『鷹の爪』。かつて俺たちが率いた、10人の幹部からなる伝説の盗賊団。


 国ひとつを相手に戦争を仕掛け、勝利したことさえある最凶の集団だ。15年前、俺が娘の誕生を機に解散を宣言して以来、奴らは世界中に散らばっているはずだ。


「正気ですよ。むしろ、これ以外にレナちゃんを完璧に守る方法がありますか?」


「ぐっ……それは……」


「それに、あいつらも今のボスと同じ気持ちのはずです」


 レンはニヤリと不敵に笑った。


「あいつら全員、レナちゃんが産まれた時、この子は天使だと涙を一緒に流した仲だ。『レナちゃんが冒険者になる』なんて聞いたら、地の果てからでも飛んできますよ」


 想像してみる。


 あの一騎当千の荒くれ者たちが、娘のために結集する姿を。


 ……悪くない。いや、それこそが最強の布陣だ。


「……よし、わかった」


 俺は腹を括った。娘のためなら、俺は再び悪(?)にでもなってやる。


「レン、招集をかけろ! 『鷹の爪』を再結成する! 目的は国家転覆でも金銀財宝でもない……!」

 俺は拳を突き上げ、高らかに宣言した。

「レナを守る‼︎ただそれだけだ」

次回

次の日、俺は家に帰った。軽く走って、大体朝方には家に着いた。

俺の愛する嫁、メルはすでに台所に立ち朝ごはんを作っていた。その背中に向かい、俺は恐る恐る声をかける。

「た、ただいまー」

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