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第二章 第三十八話「戦塵の夜」

外は地獄と化していた。

辺りは真っ赤に染まり、人々の嘆きの声が聴こえる。


どうする?逃げるか?

今度は天も近くにいる。


-それでいいのかと自分で問う。


二人に背中押され、この街の人々への恩返しの為にも、俺は戦わなくちゃ行けない。


俺は武器を展開-真っ赤に染まる戦場へと飛び出す。



刹那、強制的に引っ張られる力に離すまいと精一杯の力を込めて握りしめる。

数十メートルもの高さを飛ぶ身体はぷらんとしており、下を見てしまえば恐怖に身体は萎縮する。


「ぐぅッ⋯⋯離さねぇええええっ!」


前も思ってたけど一瞬でも気を抜けば落ちてしまう。俺の筋力だけが頼りだ。

ジェットソードはそんな俺とは対照的に、無慈悲にも突き進んでいく。まるで付いてこいと言わんばかりに火花を散らし、噴射の勢いを利用して空を舞う。


ふと下を見れば、ヴィランダさんとサンライズさんが戦っている姿が目に入った。

互いに刃が重なり合って無数の火花を散らす。

その手数は目では追えず、もはや竜巻の如きものとなる。


下は駄目だ。上から行くぞ!


「あっらぁ⋯⋯?どうして普通の子が居るのかしら?」


ジェットソードは推進力と引き換えに凄まじい轟音を鳴らして突き進む。そのせいで周りの音は聴こえない。

だが確かにそう言って、エルフ似の少女はこちらに振り向いたのだ。


「そうか⋯⋯あいつが」


睡眠状態の天を何とかしようとしていた時に聞こえた声。

他人を全て把握しているような口ぶりに、愛を語るそれは奔走する俺を馬鹿にしたように耳にまとわりついて気持ち悪い。

あいつが放った言葉なら納得だ。


「ならもう一度」


聴こえない筈なのに、彼女は確かにそう言った。

次の瞬間、掌をこちらに伸ばすと何かを呟いた。


-何かされるッ!


「おらぁああああああああッ!」


俺は強引に身体を捻り、彼女の制空権から逃れようと躍起になる。

しかし彼女は変わらず、また下卑た笑みを浮かべていた。

それでも構わずに無茶苦茶に身体を上下左右に振り続け、躱すように蛇行運転。

腕が悲鳴を上げて、とうとう両手で掴むともはや剣に引き摺られる形となる。


もはやジェットソードに身を任すようになった俺は、ふと彼女へと視線を移す。

彼女は掌をこちらに向けたまま無表情になっていた。


-もしかして躱し切った?


「なんにせよ今が好機だろッ!」


俺はジェットソードを更に強く握りしめて、港町を通過すると浜辺へと向かう。



待っててくれ皆。どうにかしてみせるッ!


この熱くなった正義感を肚に秘めて-。




「⋯⋯あら?おかしいわね」


いくら放っても魔力が身体に入ることが無かった。

どうしてかあの子には魔力が効かない。どうして?


「私の魔力、使い過ぎたかしら?」


バレないようにする為、魔力を極力辺りにばら撒いてこの街ほとんどの住民に回したはず。

おかげで元グラディウスの二人には見つからなかったんだけど⋯⋯。


「まっ、バレても余裕かも♡」


たまたまバレちゃったドワーフの子。すーっごい意志の強い子だった。

今、戦っている目の前の男の子の為に。健気~♡


でも弱い。闘いにおいて彼女は非力だった。

残った魔力ですらどうにかなっちゃった♡


「おかげで今の私がここに居れるって事♪」


フフッ、と笑うと同時に上から影が落ちる。

ハッとして見上げると、女を突破してグラディウスの男が振りかぶっていた。


「くらぇええええッ!」


「はやぁん-ッ♡」


反射的に身を捩り躱すも、髪が裂かれてばらばらと宙を舞う。


「はっ?」


女は?

次の瞬間、遅れて男のサイドに現れると爪を振り回して応戦する。


刹那歪む男の顔。手数は私じゃあ見えない。

でも顔からして男の方が劣勢かしら?


数秒もしないうちに男は戦線から弾かれて吹っ飛ばされる。


「遅いッ!」


バシンッ、と頬を叩くとみるみるうちに赤く染める。


「お前が遅いせいで私の綺麗な綺麗な髪が切られただろうがッ!」


クソッ、クソッ!この肉ッ!


「や~っぱり無駄肉のせいかしらぁ⋯⋯?」


この無駄に大きくなってる脂肪の塊。

何これ?Hカップくらいあるんじゃない?

美の基準は私でしょお⋯⋯おかしいじゃない。


「あんたじゃなくて、私が一番じゃないと⋯⋯」


私はこの胸を切除するべく手を伸ばす。


「止めろぉぉおおおッ!」


声と共に飛び込んでくるグラディウスの男。

また無策に突っ込んでくる。


その間を割って入るのは無駄肉の女。

この女は強いし、それでいてこの男が恋した女でもあり、そしてこの女自体もこの男が好きみたい。


はぁ⋯⋯うざい。


でもおかげで反転が効いてくれる。

この男を相手取るには素晴らしい盾となり、この男に対して一番の障害でしょう。

それにこの男では女を突破できない♡


「良い夜ねぇ⋯⋯もーっと楽しみましょ?」


夜はまだ長い。

ゆーっくりじーっくり痛めつけて、処理していけばいい。

泣いて懇願して助けて-なんて言ってきたら、なんて美味しい表情ッ⋯⋯。


はぁ-⋯⋯早く食べたい♡


そして絶対に勝てないと絶望に歪んだ表情のまま、殺してしまいましょう。


その後に女も処理してしまえば完璧。

この街を堕とすのも時間の問題だわぁ♡



エルフ似の少女は厭らしく笑って空を見上げた。

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