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第二章 第三十七話「-君は強い」

さっきとうってかわり攻撃的となった天。

戻ってくれという一心でキスを重ねると、何とか元に戻ってくれた。


外へ飛び出ると、街は下から上がる幾つもの炎の柱によって真っ赤に染まっていた。

見やると、海辺から港にかけて地獄と化していた。


浜辺ではさっきまでお祭り騒ぎだったのが嘘のように殺し合いが始まっていた。

きっと天と同じく催眠に近い何かに掛かっているに違いない。


魔物は一匹足りとて存在しない。

それでもこの景色はなんなんだ?


遠くの方では黒い何かが海を巻き込んで渦巻き、更なる災いを呼んでいるように思えた。

魔力を感じ取れない自分でも分かる。それがこの街に多大なる被害を加える何かと言う事は。


絶え間なく揺れる地面が突如として爆ぜて割れる。

崖から落ちそうになる俺は天と手を取り合い、身体が転げて頭が崖から飛び出るも何とか踏み留まる。

そのため下の港へと視界が強制的に向けられた。


「なっ⋯⋯んだよ」


港はそれらを超える惨状が繰り広げられていた。


殆ど修復されていたはずの港街は、もはやその形を残さず、見るも無残な半壊状態となっていた。

それをやった元凶は、建物の屋上から何かを狙うように追尾してうち放っていた。

煌々に輝き舞う炎すら圧倒してしまう荒い赤髪をたなびかせる女性。見間違うことが無かった。


「ヴィランダさんっ!」


叫ぶも届いていないのか振り返ることはなく、一心不乱に攻撃を続けている。


自分の街を-どうして?


その背後、一回り背の低いピンク髪の少女が立っているのが見える。

フウカかと思ったが、よく見ると頭の両端から何か黒いものを生やしている。

そしてフウカとは似つかわしくない汚らしい笑みを浮かべていた。


「あれ、フウカちゃん⋯⋯?」


隣の天もそう声を漏らすが、その違和感に気が付いて口を閉ざす。

その時、フウカ似の少女がこちらに振り返る。


その顔は悪意に満ちたように醜悪に歪んでいた。


「「-ッ!?」」


堪らず俺たち二人は同時に顔を引っ込めて、彼女から存在を消そうと必死に身を屈めた。


なんだよ⋯⋯さっきの奴は。


見た目こそエルフの容姿をしていたが、内包しているものが別物だ。


禍々しい瘴気-。

それがサンライズさんの言う”ドス黒い”という物なのだろうか。


確認する為に俺は勇気を振り絞って顔を覗かせる。

ヴィランダさんの後ろにいる少女は、もうこちらを見る事もなく忙しなく動いては騒いでいる。


ヴィランダさんは相変わらず手を前へと差し出して攻撃を続けている。

ヴィランダさんの狙う先-崩壊した建物を縫うように走る影が一つ視界に捉える。

あまりに早いが火花を散らして猛スピードで疾走。角を曲がる度に止まる一瞬でサンライズさんだと分かる。


ヴィランダさんとサンライズさんが戦ってる?どうして?

その問いは間違いなくヴィランダさんの後ろにいる少女のせいだと確信する。


ヴィランダさんはあの少女に操られているんだ。


だが俺がどうこう出来る位置じゃない。それどころか少女の盾となっているヴィランダさんに瞬殺される。


押し留まっていると、下の港街はもう殆どの建物がヴィランダさんのいる所を残して残骸と化す。

逃げ場の無くなったサンライズさんは必死に避けるも時間の問題だった。

一発、また一発と、サンライズさんの軌道が逸れて攻撃が着弾してるのが分かる。

何発目かの攻撃でサンライズさんは痛みに声を漏らして壁に激突する。


「サンライズさんッ!」


「!?ユウト君か!」


サンライズさんは声に反応すると、あっという間にその場から跳躍-数秒もしないうちに俺の隣に現れた。


「まさか君がまだ残ってるなんて。逃げていると思ったよ。凄いな」


サンライズさんは息も絶え絶えにこちらに微笑んだ。


「まぁ、こんな状況、逃げてもねぇ」


俺の不安をぶつけた視線の先をサンライズさんも見やる。

サンライズさんの目はより一層引き締められた。


「⋯⋯あれは不味いな」


呟くと、「すまないが任せたい」と何かを下ろす。それはマフィンさんだった。

しかし身体はぼろぼろで呼吸が浅い。


「マフィンさんッ!」


天は駆け寄り身体を揺するもビクともしない。


「あぁ。あの少女にやられたみたいだ。意識が無いだけだから安心していい」


天はその言葉に安心してギュッとマフィンさんを抱きしめる。

サンライズさんは笑みをこぼすと、静かに腰を上げて武器を構える。


「あの少女-ヴィスは俺に任せていい」


「あの二人相手に一人で戦うんですか?」


その言葉に静かに頷いて武器-ジェットソードから火花を散らす。

ヴィランダさんの力も相当だが、それを操っている少女も相当に強いのだろう。


「あれは魔族リリアルって言うらしくてな。まるで全ての恋路は私に向けられて当然と思っている下衆な奴だ」


「ヴィランダさんも⋯⋯さっきまで天もそうだったんです!」


「!ミカさんもか!」


俺の声に後ろの天もこくりと頷く。


「えっとその時は-⋯⋯キス。キスしたら直りました!かなり深めなやつです!」


言っていて恥ずかしい。

自分の頬が赤くなっていくのを感じる。それは後ろの天もそうだったけど。


「そうか、ありがとう。良い情報だ」


サンライズさんは暫く黙りこくっていると、こちらに真っ直ぐな目を向けて話す。


「私はあの二人と、海からやってくるモノも相手する。その代わり-⋯⋯君にあそこを頼みたい」


指さす先は浜辺。今もなお地獄の坩堝と化す世界。


「本来なら民兵隊、私たちの問題だ。君に頼むのは筋違いだと思う」


さっきまで友情を育んだ仲間、愛を語らっていた恋人同士が殺し合っている場所だ。


「だけど今-フウカともジェラとも、ライドとも連絡が取れない。君しか頼れないんだ」


そう言うと肩にポンッと手が置かれる。


「君のその力-まだ不明点は多いが僕と同じ武器が扱える唯一の力だ。誇っていい」


「だけど俺じゃあッ-」


-まだ勝てない。


フウカには手加減され、ライドはまだ余力を残してた。

そして元グラディウスのヴィランダさんの力に圧倒された。

辿り着けないと。

その位には君はほど遠いと。


「-君は強い!現に私に疑いの目を向けられても立ち向かっていけた力がある!」


だから?それがどうだって言うのだ。


「あの人達の事を-頼んだ」


刹那、サンライズさんはその場から爆ぜる勢いで降下してヴィランダさんに急接近、忙しなく火花を散らして再び港街は戦場となる。

俺は暫くその姿を眺めていた。


「俺が⋯⋯」


あの無茶苦茶な浜辺をどうにかしろと?無理だ。

天すら守れた事の無い俺が何が出来るというのか。

後ろからはギュッと服の裾を掴んで見つめる天の姿。


そうだ。わざわざどうにかしなくてもいい。

そもそもここに来たのだって街から逃げてきただけ。

今だって街から逃げ出しても文句言われない。


「-あれ?」


いつからこんな弱虫になったんだ?俺?


目に入るのは天に抱かれたマフィンさん。

マフィンさんは天にも俺にも優しく接してくれた。

それはマフィンさんだけじゃない。この街全員がそうやって温かく私たちを迎え入れてくれた。

おかげで天もここまで回復したんじゃないのか。



-そうだ。俺は、俺たちはこの街に助けられたんだ



するとボーッとしていた手を叩かれる。


「いつの間にそんな弱くなったのよ」


下を向いていた顔を上げると、ニッと笑って天は続ける。


「あんた今、助けたいって顔してる」


「⋯⋯は?俺が?」


「うん」と天は言うと、小首を傾げて言い放つ。


「私の時だって、そうだったじゃん」


俺が⋯⋯そんな奴だったか?


「⋯⋯分からねぇ」


「後悔したくないなら行ってきたら?私、マフィンさんと待ってるから」


そう言って天は俺の手に自分の手を重ねる。


「あんたのそういうところ⋯⋯好きだよ」


「⋯⋯⋯⋯あぁ」


俺はぬるりと立ち上がり、宿から出た時から手にしていたそれを振り払い-展開。

赤い竜が翼を広げるような柄をした剣-ジェットソード。


「天。頼むから安全な所で身を隠していてくれ!」


天がこくりと頷くと同時、俺は勢いのままジェットソードから火花を散らして空へと飛び出した。

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