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第二章 第三十六話「目を覚まして」

サンライズは目の前の魔族と対峙する。

やつ自身の魔力は少ないが、他を操れる能力でヴィランダを操り攻撃を仕掛ける。

サンライズはマフィーを為、一旦安全圏へと逃げ出した。

「なんだァ!?」


俺-勇人は宿が揺れる感覚にハッとする。

揺れと共に舞い込んだ爆音に嫌な感情が呼び覚ます。

覆いかぶさる天から離れてベットから飛び起きると、原因となる外へと窓を開けて辺りを確認する。


街の下-さっきまで居た港の方から幾つもの煙の柱を上げていた。

下から聴こえるのは悲鳴や怒号が入り交じり、騒がしく鳴り止まない地鳴りの如き建物の崩壊音。これがこの宿を揺らした正体だと気付く。


「どうしたの?」


ふと背後から掛けられる声に振り返ると、天が上体を起こして不思議そうにこちらを見ていた。

さすがに先ほどの揺れには酔いも覚めるか。


「続きしようよ」


天はチラりと服の裾をたくし上げ、上目遣いにそう言ったのだ。


「さっきの音聞こえなかったのか?」


なんなら今も鳴り響く音は、アサガナを襲撃された時を思い出す。

もはや街全体を揺らす程の轟音。

しかし天はなぜ来ないのかと、俺の方がおかしいと言わんばかりに首を傾げる。


「逃げるぞ!」


天の反応はない。

まだ酔っているのかと寄ると、俺の手を掴んでグイッとベットに誘い込んでくる。


「バカっ、今はそんなことしてる場合じゃ-」


そこで俺はようやく違和感に気がついた。

天の目は蕩けて酔っているだけと思っていた。


「なんだ⋯⋯その目」


彼女の両目に浮かんでいたのはハートの印。まるで催眠状態に掛かっているみたいだ。


「天っ!しっかりしろ!天ッ!」


だが俺の声が届くことはなく、天は左右に揺れて愉しそうに微笑んだ。


「もう-⋯⋯ほらぁ」


天は強引に俺の頭を掴むと胸の中にしまいこもうとする。

もふっとした、何とも形容しがたい柔らかな感触が顔を捉える。

ヴィランダさんよりも控えめだが、それがまた胸と意識してしまい男としては辛い。


「ミ、カ⋯⋯」


なんとか呼吸できる所を作るも、すぐに胸へと押し込まれる。


ぐふっ⋯⋯また息ができない⋯⋯。


だがその天国のような世界はその気すら落としてしまう。

永遠とも取れる心地良さに俺は身を委ねたい-ところだが。


「それはまたシラフの時で頼むッ!」


俺は天の腕を掻い潜りどうにかして逃げおおせる。

危なかった⋯⋯正直もうちょっと居たかった。

俺は脈打つ心臓を抑えながら苦渋の涙を飲みこんだ。


「ウウウウウウウッ⋯⋯」


まるで獣の様な唸り声が天から発せられる。


「天?」


そう呼びかけたと同時、俺の声に弾かれる様に天はベットから飛び降りてこちらに迫る。

それはまるで地面を這うように、獣の如き圧を感じて思わず身体を仰け反り回避する。


「痛えッ⋯⋯」


繰り出された彼女の一撃。引っ掻きに来た爪は俺の頬を薄く裂いていた。


「ウウウウウーッ!」


彼女は突進した勢いのまま壁に激突-ボロい部屋を貫通して部屋から飛び出してしまう。


「いきなりどうしたってんだよ!?」


そう言うも俺の身体は咄嗟に身構えていた。

間違いなく何かがおかしい-。


天はぬるりと身体を揺らして立つと、特に痛がる様子もなく方向転換して俺を睨みつける。

その顔はまるで怨敵でも見つけたかのような鬼の形相が宿っていた。


「-愛とは憎しみ。表裏一体ですわ♡」


何処からか、この爆音に混じってそんな馬鹿げた言葉が耳を刺す。


「何言ってんだよ⋯⋯」


俺はそのどこから聞こえたかも分からない声に反発して彼女を見やる。

いつの間にか目からハートが抜け落ち、唸る様は飛び掛かって来そうな勢いだ。


「あれ?何やってんだよ」


ふと拍子抜けした声にハッと気が付くと、天の後ろから「よっ!」と顔を出すのはライドだった。


「ライド!ナイスタイミングだ!天を何とか縛ってくれ!」


とりあえず解決法がない今、そうするしかない。


「え、縛っていいって⋯⋯何してもいいって事!?」


「違うわッ!」


ライドはニチャニチャと笑いながら手をワキワキと動かしていた。


「なーんか欲情?してる?ミカちゃん」


「その獣の様に唸っている状態がそんなわけ有るかっ!とにかく今攻撃的なんだ!お前こう-なんか縛る技とかないのかよ!?」


「無いわけじゃないけど⋯⋯うーん、あれは幼少期の頃-」


「長くなりそうッ!?」


明らかに普通と違う様子の天をライドは見つめる。


「へっ、やーだよ!俺を夫婦喧嘩に巻き込むんじゃへぇ!」


「べー」とライドは舌を引っ張り出すと、「んじゃ、俺はフウカに用があるから」と歩き去っていく。


「お前に友情ってのは無いのかよッ!?」


絶望的な状況に、あろう事か天は我慢の限界を迎えて、壊した壁を乗り越えまた迫ってくる。


「くそ-ッ!」


怪我はさせたくない。

持っている武器はなく、ただ素手での攻撃のみ。

ただ爪長いわっ!これだから陽キャは!


俺は迫る天の手を一つ掴んで流すと、そのままの勢いを利用してベットへと押さえつける。

警察がやっていた犯人を押さえつける要領を、見よう見まねだが何とかできた。


「ウウウウウッ!」


じたばたと暴れる天だが、身体の膂力を使っても解けることはない。さすがは我らが日本だ。


「本当はこんな事したくないんだけど」


目のハートの印。多分洗脳か何かだろう。

こういうのを解く方法は一つ。


押さえつけている天が顔をこちらに振り向かせた瞬間、俺は顔を近付けてその唇を重ねる。


「ウウウッ!?」


天はいきなりのことで混乱して逃れようとする。

おかげで暴れる、暴れる。

それでも俺は離さまいと必死に唇をあてがい、舌を強引に入れて絡ませる。


本当はこんな形ではしたくなかったな。

それでも元に戻って欲しい一心でやった。



何分間やったのだろうか。

天はぴくりとも動かなくなり、いつの間にか抵抗は止んでいた。


「⋯⋯どうだ?」


俺はようやく天から舌を抜いて、天から離れた。

俺と天の口からは厭らしく涎が糸を引いていた。まるでそれが運命の赤い糸のように感じて、自身のしていた恥ずかしい事に気がつく。


「なんなのよ⋯⋯もう」


下には頬を真っ赤に染めて、今にも爆発しそうな顔をした天がいた。

彼女は息を荒くさせて、火照った身体と頬が妙に艶っぽく、乱れた髪は何かを彷彿とさせてしまう。


「よ、よぉ⋯⋯目、覚めた」


カタコトになった俺の声に天は無言のままコクリとだけ頷く。

身を捩り、上体を起こす彼女の服装はあらぬ所が見えていて、釘付けになりそうな目をとっさに伏せた。


「どうせまた、私の為に何かしたんでしょ?」


天は服を整えて、ボタンを閉める。火照った身体と頬は熱を逃がそうと手うちわで仰いで平静を保つよう努力していた。


「あぁ⋯⋯強引だったけどな」


「そう」


隣を見やると、彼女はふーんと何処か夢心地にまた頬を赤らめている気がした。


「なんにせよ、それならありがとう。あとで殺すから」


ニコッと笑う彼女。その屈託のない笑顔が不気味で先を想像したくない。

それと同時にまた揺れる宿。もう崩れそうな勢いだ。


「状況は俺もよく分かってないが、多分敵だ。とにかく逃げるぞ」

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