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第二章 第三十五話「開戦」

ところ変わってサンライズとヴィランダ。

サンライズはなにか違和感に気付く。


刹那、現れたのはリリアルというエルフの姿をした魔族だった。

「やはりか」


私はそう淡々と告げるも、内心は焦っていた。

どうして魔族だと言うのに極端に魔力が小さい?


「疑問に思うのも無理ないわよねぇ?」


そして魔族-リリアルは卑猥な手つきで自身の胸を揉み出した。


「気になるのよねぇ?私が」


そう言って彼女は心臓をトントンと指で鳴らす。


「私の魔力-辺りにばら撒いているの♪」


魔力をばら撒く?あの強大な魔力を持って他を圧倒するのが常の魔族が?


「随分と簡単に教えてくれるんだな」


「えぇ。理由はとーっても簡単だよ?」


私の中でじんわりと嫌なものが胸から広がっていくのを感じる。

心臓は違和感に早く脈打ち、異様に喉が渇く。


「そもそも私を殺せないしぃ~⋯⋯」


彼女は隣りに立っているヴィスの背後へと立つ。


「何をする気だ」


「えぇ?ちょっとだけ-」


その問いに不気味な笑みを浮かべたかと思うと、ヴィスの身体を弄り始めた。


「はぁ~、こーんな大っきいものぶら下げて⋯⋯肩凝らないのかしら?それとも今はこれがトレンド?」


彼女はヴィスの胸を揉み腰を触り、あろう事か下部へと手を伸ばそうとする。


「-やめろッ!」


私の声にビクッとしてリリアルは止まる。

だがそれは決して私の声に怖気付いてではない。


「⋯⋯あんた、もしかして私よりこの女の方が好きなの?」


「はぁ?何を意味の分からない事を-」


「-ムカつく」


わなわなと震えていた彼女から、突如妬み嫉妬に近い何かを感じたかと思えばヴィスの胸を強引に引っ張る。


「こんっの贅肉がッ!この世界でいっちばんモテるのはエルフだって聞いてたからこの身体にしたのにッ!なんで私じゃないわけっ!?」


彼女はあろう事か胸を乱暴に扱い、力いっぱい引っ張るせいで胸からぶちぶちと嫌な壊音が聴こえる。


-もう我慢の限界だった。


私は”王誓剣(ガーディアス)”を引き抜いて、即座にジェットソードを展開する。


「はわっ?もしかしてあんた元グラディ-」


言い終わる前に、私はもう彼女の背後をとっていた。


「死ね」


振り返る彼女の表情は驚きに満ちていた。

そのまま地獄へ墜ちろ-ッ!


冷徹な殺意に満ちた剣は彼女の首を刎ねる-と思っていた。


ギャインッ!と金属同士が交わる甲高い音が火花を散らして夜の海辺を明るく散らす。


「なッ!?」


私は驚きに声を上げてしまった。


私の剣はリリアルに届くまでに阻まれる。

それを実行したのは-ヴィス。


「あら?やっぱりあんたモテるのね⋯⋯うっざ」


交差する”王誓剣(ガーディアス)”。

その向こうで余裕そうに話すリリアルは大きくため息をついて鼻歌を鳴らす。


「どうしてだッ⋯⋯奴を倒さないとッ!」


しかし私の問い掛けにヴィスは反応しない。

目は虚ろ。心ここに在らずといったように見える。

そして魔力からはドス黒い何かがヴィスの魔力を喰らって肥大化している。


「無駄だよ。もう私のモ、ノ♪」


リリアルは厭らしく口周りをペロりと舌を這わせて、そのままヴィスの首筋を舐める。


「お前-ッ!」


だがどれだけ力を入れようと、刃はヴィスにより抑え込まれてしまう、


ヴィスが構えるのは”竜虎相搏(りゅうこそうはく)”。

私のと同じく、王を護る為の剣として造られた彼女専用の鍵爪。おそらく本気だ。


刹那、背中に鋭い痛みが走り力が抜ける。


「ガハっ⋯⋯ッ!」


突き刺さったままの爪が驚異的に肉を絶とうとしていた。

見ればヴィスは空いたもう一方の鍵爪に魔力を込めてグッと握っていた。


その一瞬が命取りだった。


拮抗していた刃は押し返されて明後日の方向へ。その隙を見逃すほどヴィランダ・カーストという女性は甘くない。


掌打の如き鍵爪の一撃が容易に私の懐を侵略する。

咄嗟に剣を間に入れるも、その一撃は絶望的な威力で私の腹を捉えると、まるでダイナマイトが爆ぜたように辺りを轟かせて私を吹っ飛ばす。


何とか身体をひねるも威力は殺しきれず。いくつかの建物を崩壊させてようやく私の身体は地面に落ちることを許された。


「がッ⋯⋯ハッ!」


私は痛む身体のまま無理やり背中に付いた爪を払って上から見下ろすリリアルを睨みつける。


「キャハハハハハハハハハハッ!何今の何今の!?おっもしろぉ~い♡ねぇ、もっかいやって!」


リリアルは無邪気な子供のようにヴィスに抱きつく。くそっ⋯⋯リリアルの魔力は精神系か。


私の頬をツーっと一つの汗が伝う。

頭が使える奴は上位魔族には存在したが、まさか魔族程度でも小賢しく思考が出来るようになったとはな。


「全く、厄介な話だ」


「あんたはいっちばんいびってあげないとだから♡モテすぎなのよ!」


そうイライラとぶつける彼女は、後ろから何かを引っ張り出してこちらに放る。

それはボロボロとなったマフィーの姿だった。


「マフィーッ!」


私は地面に落ちる前にマフィーの身柄を捉える。

見やると服は無理やり引き裂かれ、身体には生々しい傷跡が幾つも見受けられた。


「その子ゆーいつ私の存在に気付いていてさ?私の魔力にも耐えやがるの。でも残念ねぇ。私の魔力が小さいからって勝てると思ったみたいだけど、只のドワーフが適う相手じゃないっての!」


「お前-⋯⋯ッ!」


私は怒りに視界が赤く滲んで見えた。


「その表情-良いわぁ!ようやく私に夢中になってくれた感じぃ?やった♡やっぱリリアルがいちばんじゃないとね♡」


キャピキャピとはしゃぐ彼女は「ねぇ、私の事好き?」とヴィスに問い掛けて遊び始めた。


「分かったぞ⋯⋯お前の魔力」


「ん?ワタシノマリョク?」


とぼける彼女に「そうだ」と続ける。


「人の心情に入り込みつけ込む。あろう事かそれを反転させる力と言った所か」


「おぉ!当ったぁり~♪そっ、辺りの連中もだけど、どーして私じゃなくて違う人とイチャイチャするのかなぁ?ありえなくないっ!?いちばんかわいいの私なのにッ!だったら好きな人同士殺しあっちゃえ!」


なんとも人の心を踏みにじる悪魔の所業。

こいつは本気でそう思っているのだろう。


「つくづく魔族とは醜いものだ。お前の首を刎ねる」


「届くかなぁ~⋯⋯あんたが♪」


掛け声に反応して、ヴィスが護るようにリリアルの前へと勇み出る。


「だって~⋯⋯あんたここで死ぬから♡」


刹那、バッと構えられた鍵爪が前へと差し出されたかと思えば、無数の礫となりてこちらに降りそそぐ。


「ぐ-ッ!」


私はマフィーを抱えて物陰を縫うように走り退避する。


「さっ、今日をもってシークリフは終わりだよ♪」


リリアルはそう告げた。

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