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第二章 第三十話「唯一無二の力」

俺とサンライズさんは人目の付かない所に移動して、互いの武器を確認する。


「まずは私から-」


そうサンライズさんが言うと同時に、納められた鞘から赤い剣-ジェットソードを引き抜く。

不意に剣をこちらに差し出すので触れようとするが、バチンッ!と青い燐光を放ち手が弾かれる。


「痛ってぇ⋯⋯まるでバリアが張ってあるみたいだ」


それにサンライズさんはこくりと頷く。いや、そうなるなら教えて欲しい。痛いよ。


「これは王様から賜った、ヘパイド・エルミナ-マフィンの親父さんに造って貰った逸品だ。柄頭に印がしてあるだろ?これは”王誓剣(ガーディアス)”の証であり、俺のという証。俺以外は持てないし、もちろん俺以外のグラディウスでも触れない、俺専用の武器だ」


「なるほど。となると⋯⋯」


俺は隣に置いた物に目をやる。

これは俺が街アサガナを出る時に咄嗟に掴んだもう一つのジェットソードだ。

しかし今は柄の形も違えば造り途中のように刃すらない。

それでも俺が握れば、それはジェットソードへと形を変える。


ふとサンライズさんが置いてあるそれを手に取るも、変化は無い。


「ふむ⋯⋯触れてみて解ったけど、これは本当に只の魔力すら籠っていない鍛える前の武器だ」


そして俺に返してくれたので触れると、またそれはジェットソードへと姿を変える。その瞬間、バチンッ!と先ほどと同じように所有者じゃないサンライズさんを武器が拒む。


「武器になった瞬間、所有者じゃないと拒絶する所まで一緒とは⋯⋯」


サンライズさんは驚き嬉しいように口角を上げる。

そして次に俺をじっと見る。


「⋯⋯今、別段白のローブ等で魔力を抑えている訳でもないんだね?」


「はい。これは俺の服だし、それ以外は特に。あっ、ぶら下げてる武器はあるけど、これに効力はないですよね?」


「あぁ。それからも魔力は感じないな⋯⋯ちょっといいかな」


そう言って手を差し出して俺の手首を掴む。数秒して、またもサンライズさんは目を見開いた。


「驚いた。魔力が全くないだなんて⋯⋯初めてだ」


また魔力が無いって⋯⋯魔法が使えないのだろうか。

俺はグサッと心のどこかに刺さった矢を抜く。


「それって魔法が使えないってことです?」


俺は少し嘲笑気味に聞いたが、返ってくるのは「いや-」と新鮮な顔つきだった。


「この世界、魔力が一切無い人なんて初めての事例だ」


まぁこの世界の住民じゃないからな。


「誰しもが魔力を行使出来るわけじゃないが、それでも微弱な魔力は持ち合わせているもの⋯⋯まさか君は根っからの魔力が無いとは」


「ちょっ、何度も言わないでくれますか?一応、傷ついているんですけど!?ってか天は?天にも魔力は無いでしょ?」


「いや?ミカさんにも微弱ながら魔力はあったぞ?」


「はぁ!?」


まさか天涯孤独レベルで、魔力無いのは俺だけってことか!?


「うわぁ⋯⋯ショックだ」


ふにゃあと全身から力が抜けて岩に寄りかかる。

だって行く行くは天だって使えるかもなんだろ?俺だけ使えないなんて-。


「そう悲観することは無い。理屈は解らないが現状、其れは君の武器なんだ。魔力がなくても魔法が使える、この世界初の、極めて稀有な例な人だがね」


「うぅ、まぁそうなる⋯⋯のかな?」


確かに、ジェットソードと同じ性能を使えるわけだ。

それも魔力も無しに扱えるとなると、有り得ないと言われれば少し救われた気がする。いや、むしろオンリーワンなら喜ぶべきでは?


「君の手にしている”王誓剣(ガーディアス)”からも魔力を感じない⋯⋯魔力ではない、別の力が君に宿っているという訳だな」


「へへっ、そうっすか?」


やべぇ。この人素直に思った事を口にするので、褒める事も直接的で気持ちいい。

今、間違いなく調子に乗り始めた自分がいても、咎める人が誰もいないのでつけ上がってしまう。


「そうだ。良かったら一緒に王都に来ないか?」


突然の申し出に俺はピタリと思考を回す為に止まった。


「君の事をもっと知りたい。でも昨日みたいな探り方は止めるし、君の自由を最優先に尊重し、王都をぶらついてもらって構わない。勿論御客人として王都までと当面の費用を負担しよう」


おっと。これは願ってもない交渉条件だ。

ちらりと見やるサンライズさんからは、昨日のような様子は見られない。

さっきだって天とフウカの仲を取り持ってくれたりと、ただ真面目な人なのだろう。


「やっぱり生真面目って感じなんですね」


「うん?いやいや。もし君の力が新たな力であれば、いずれ魔の者を倒す時必要になるんじゃないかと思っただけさ。さっきの条件もただの先行投資だよ。強き者は傍に置いておきたい。そう思ってのね」


「ふーん⋯⋯」


強き者。

元グラディウスであり、あれだけの力を有した人から認められるのは嬉しい反面なんだかくすぐったい。


「どうだろうか?」


「⋯⋯分かりました!なら、俺達も一緒させてもらいます!」


俺は強く、優しく差し出されたサンライズさんの手を掴んで固い握手を交わした。




戻ると、いつの間にか椅子を寄せ合って笑っていたのは天とフウカだった。

もはや膝がくっつきそうな程に近く、どちらも離れた分を埋めるように仲睦まじい。その光景に俺は微笑ましいと感じて思わず頬が和らいだ。


「あっ、戻ってきた」


天の表情はまたスっと無表情に「どこ行ってたのよ」と毒っ気のある声を放つも、どこか温かさを感じる。


「ユートくんっ!またミカちゃんがね!メイド服着てくれるって!」


フウカからはもう前の明るさを取り戻しつつある。

その子供っぽい感じも、俺にはとても嬉しかった。


「ヴィスは何処に-」


と、サンライズさんが言いかけた所にガバッと後ろから何かが掴みかかった。ヴィランダさんだった。

ヴィランダさんは酔っ払っているのか「ばぁ!」と言っては、サンライズさんの頬にかぶりつく。


「お、おい!ヴィス⋯⋯」


しかし恥ずかしいがっているサンライズさんとは違い、「どーしたんだよぉ?こーしたかったんだろぉ?」と舌を伸ばしてサンライズさんの口へと-。


「あーッ!ダメだぁ!」


「「きゃーーー!」」


俺と天とフウカには刺激が強すぎたようだ。

俺たちは弾かれたように走り出して宿へと戻った。

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