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第二章 第二十九話「間違いを正して」

総勢百人規模の夜のBBQが開かれ闇世を照らす。

がやがやとする中、二人きりのヴィランダとサンライズは想いを告げて、互いに空いた十年間を埋めるように唇を交わす。

「え?十年連絡無かったのに生真面目?」


俺-勇人の問いに「うーん⋯⋯」と首を傾げて空を見上げるマフィンさん。


「まぁ自分に責任があるって分かってるから、この街を襲ってくる魔物を海側から倒してくれてたんだよ」


「でも大きな魔物出たじゃないですか?」


先日出たカロックノリアとかいう馬鹿でかい魔物。

あんなのを見逃すのか?

俺はまだ、昨日サンライズさんから向けられた視線が良くないものだと思っている。疑り深い目-それはかえって”敵”じゃないかと漠然とした思いがあった。


「そりゃあ王ですから?このアクアシア大陸の長ですから、四六時中見守っているなんて事は不可能だろうし、忙しいと思うしで全部は無理だと思う」


そう言ってマフィンさんは海の方を指さす。


「向こうの方-本っ当に遠くからたまに小舟で見張ってたんだよ。だから魔力も感じ取れないしヴィラちゃんにも気付かれなかった」


「てかなんでそんなこと知っているんですか?」


「私が見張り番してるからね」


「じゃあ生きてるって事も知ってたんですか!?」


俺は先日、天からヴィランダさんの事を聞かされていた。それは怒り狂って攻撃したあの時とは正反対に、サンライズさんが生きていたことを一人の女の子のように泣いて喜んでいたと。


「もちろん知ってたさ。⋯⋯でも、私だって許せないんだよ」


そう言ったマフィンさんの額には、一瞬だけ筋が浮かんだ気がした。


「あっ、ほら、帰って来た」


BBQを行っている中心、その間を抜けるように歩いてくるヴィランダさんとサンライズさんの二人。

天は白いローブを上から被り直して見えないようにしていた。

俺は少し身構えるも、「大丈夫。そんなんじゃないから」とマフィンさんは優しく諭す。

歩いてくる二人は、どちらも昨日のような仏頂面はなく、何処か幸せそうに顔には緩やかな笑みを浮かべていた。


「いやぁ~⋯⋯⋯⋯遅くなりましたっ!」


ヴィランダさんはご機嫌のように手を振ってくるも、マフィンさんを見た途端に表情が戻る。

それは隣のサンライズさんも同じで、先程と違い申し訳なさそうに目を伏せる。

そんな中、立ち上がるのはマフィンさん。

見やると、マフィンさんの優しく微笑んでくれた顔はどこにもなく、無表情になっていた。


「⋯⋯久しぶり、サンライズ君」


気のせいか、マフィンさんの表情に怒りが見えた。


「あぁ⋯⋯久しぶり」


サンライズさんの声はそこはかとなく小さい。

そんな事も関係ないようにズイッと前に身体を寄せるマフィンさん。


「久しぶりなんだからさ、顔、上げてよ」


マフィンさんの声は低く、やはり怒りが混じっているようにどこか高圧的だ。

状況を察したヴィランダさんはその場から距離をとる。

サンライズさんは目を伏せたまま動かないが、それでも意を決して顔を持ち上げてマフィンさんを見やる。

刹那、バシンッ!とマフィンさんがサンライズさんの頬を引っぱたいた。


「お父さんの仇。一撃だけど⋯⋯許して」


それはどちらに言ったのか、マフィンさんの両目には涙が溜まり今にも落ちそうだった。


「⋯⋯すまない」


サンライズさんの言葉にマフィンさんは「うん。これで終わり」と言い放つと、涙をぐいっと拭いて「さぁっ、まーた呑んでこよーっと!」とBBQの中へと歩きだす。


「マフィー!」


ヴィランダさんの声にマフィンさんは振り返る。


「ん?どしたー?」


もう先ほどまでの泣いていたマフィンさんは居らず、呑んだくれの表情へと戻っていた。


「⋯⋯⋯⋯ごめんな」


その言葉にマフィンさんはニッと笑うと、BBQのがやがや騒がしい連中の中へと消えていった。


「せっかくなんだ。ほら、サシャ」


「あれ?ヴィランダさん、サンライズさんの呼び方-ぐげげっ!」


腹を刺される痛みに隣を見やると、天が人差し指を俺にねじ込んでやがった。


「雰囲気で察しなよ。ばーか」


「べっ」と天がローブの隙間から見せると、ハッと何かに気づいてまたローブで顔を覆う。

天の様子に俺は前を見やると、こちらに歩いてくるのはフウカとジェラ。


「ほらほらー!お前らもそんなシケたツラしてないで飲め飲め~!」


ヴィランダさんが二人の席を用意すると、飲み物を取りにその場を離れていく。


「ほら。君たちも仲良くやろう」


サンライズさんに押されて二人が俺達の前に出てくる。

ジェラは「どうして僕が⋯⋯」とこぼしていて、フウカに至っては顔がずっと曇りっぱなしだ。それに関しては仕方ないし、俺の方も許す気はない。


「幾らローブで魔力の出力を抑えようと、ドス黒い魔力は浮き出てくるものだ。今近くで見たが彼女は魔の者ではない。そう断言出来る」


昨日とは違い肯定的なサンライズさんの意見に面食らう。


「昨日とは違って、随分と甘い評価なんですね」


昨日の事もあり、少し煽るような言い草となる。

しかしサンライズの反応は違った。


「今も別に甘くは無いさ。見てそう思えた。昨日は見てもいないのに疑ってすまない」


そう頭を下げたのだ。


「王子!貴方がそこまでする必要は無いのでは?それに私達が見ています!嘘はついておりません!」


ジェラは空気も読めずに大きく声を荒げる。

「間違いなく魔の者だッ!」と天を指さして喚き散らすその姿に俺はイラっときた。


「あぁ?てめぇ、いい加減にしろよ」


こいつはなんだ?前も思ったが随分と自分勝手な野郎だ。


ゆるりと立ち上がる俺に、ジェラが睨みつけてくる。

静かに不可視の火花を散らす中、サンライズさんはパッと間に入ってくれた。


「十年前の事を思い出してくれ。あの時も魔の者と思われていた者が違った⋯⋯それにより引き起こされた惨劇を」


「しかし!疑わしきは罰する事で未然に防ぐ事も出来るのではないのでしょうか?」


「それじゃあダメなんだよッ!」


一際大きく叫んだサンライズさんの声に、一瞬辺りは静かになる。


「他を犠牲にし得られるものは少ない⋯⋯それは肝に念じておかねばならない。絶対に。そしてその後の後悔もついて回る事を⋯⋯覚えておいてくれ」


サンライズさんがキツく睨みつけると、ジェラは観念したように目を伏せてふてぶてしく椅子に座る。


「ミカちゃん⋯⋯」


ジェラとは違い、天を真っ直ぐに見やるのはフウカだ。

その目は申し訳なさそうに大きく緩み、そしてからだは一定の距離を保ったまま動けないでいた。

天はゆっくりとローブを脱いでフウカへと目を向ける。その目は裏切られたように酷く荒んでおり、何も映さない。


「何」


と一言。

天の表情は曇っているよりも、無表情に近い。

無機質なロボットのような顔をフウカに見せる。

それでも負けじと、フウカは意を決したように前へと足を勇み出す。

フウカは天の目の前まで来ると、頭を下げた。


「疑ってごめんなさい!許してとは言わないから、また仲良くしようと努力することを許可して下さいッ!」


フウカは堰を切ったように一気に話すと、ぼろぼろと涙を零した。


「自分だって疑われて嫌な事があったのに⋯⋯同じことしてごめんなさい」


フウカにも溜まっていたものがあるのだろう。もう涙で顔はぐちゅぐちゅだ。

見ただけでわかる。彼女も彼女なりに考え込んでおり、そして今ここに至るのだろうと言う事が。

俺ならすぐにとはいかなくても、少しずつ、また関係を取り戻そうとするかもしれない。

ただ今回それを判断するのは天だ。俺の出る幕じゃない。


チラりと隣を見やると、天は顔の表情が一切変わらずフウカを眺めていた。しかし-


「⋯⋯あっそ、わかった」


天はプイッと顔を逸らして、そう冷たく言い放った。

フウカは涙を拭くことも忘れて、パッと眩しいくらいの満面の笑みを浮かべた。


「ありがとう⋯⋯っ」


フウカはそう言い残して、何処かへと走り出して行った。


「あぁ、副団長ッ!」


その後をジェラが慌てて追いかけて行く。


「ありがとう。許してやってくれて」


その声に天はコクリとだけ頷くと、また深くローブを被ってしまう。

フウカだって思うところがあったんだろう。今はそっとしておこう。


「-さて、ユウト君。僕に聞きたい事があるんじゃないか?」


椅子にゆっくりと腰掛けるサンライズさん。もう言い出したくて仕方ないように頬が上がっている。


「それはお互い様ではないですか?」


ま、俺もなんだけどな。

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