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第二章 第二十八話「許されぬ十字架」

夕暮れに沈む太陽-ダヴナを眺めて、勇人は見つから無かった悔しさが溢れ出す。

ライドからは「期待しすぎるな」と言われ、常日頃の努力を怠るなと言われてしまう。

「-と、言うことで。暑くなってきた今日この頃に負けないよう-浜辺の解放に乾杯ッ!」


「「-乾杯ッ!」」


ヴィランダさんの乾杯の音頭により、その合図に皆が辺りの人と次々にグラスを交わす。


ダウナは沈み、月-ルミナスが出てきた頃。

夜の浜辺にてまたBBQを開いていた。

参加は昼と同じメンバーに加え、漁港の修繕を行っていた者達を呼んだ総勢百人はゆうに越えている。


がやがやと賑わう浜辺は、暗くなった夜空を煩いくらいに明るく照らしている。

俺と天は中心から少し離れたところ、二人の空間となる場所からその光景を見て楽しんでいた。


「こういった雰囲気も良いな、天」


俺は手にしたグラスを揺すって肉を頬張ると、天に声をかける。

しかし返事はなく、見やると丸椅子に縮こまるように座って怯えているようだった。

理由は分かっている。


「今日の所は大丈夫なんじゃないか?」


俺は天に耳打ちするように話し、辺りを見渡して元凶である対象を見つける。


数メートル先、俺たち同様にがやがやとした空間に混じらずに外れた所にてちょこんと椅子に座るエルフ-フウカだ。

あちらは輪に入らないではなく入れないと言ったところか。隣に座るジェラが近づいて来る者を拒んでいるせいが大きい。

遠巻きにでも分かる。ジェラはフウカが好きなのだろう。

隣にいるジェラはフウカの機嫌を取ろうと必死に話し掛けているが、フウカは手にした肉も食べずに俯いている。


「ヴィランダさんだっているんだし、もし仮に暴れてこられても何とかなるって」


しかし反応が芳しくないのはこちらも同様で、天も俯いたまま何も発してくれない。


「そういやヴィランダさん、どこ行ったんだ?」


目を凝らして見ると、浜辺から上がってちょっとした小上がりの所に二人を見つける。

何やら話し込んでいるみたいで今そっちに行くのは邪魔となるだろう。


「まぁまぁ!今日は楽しもうよぉ~⋯⋯♪」


ズシッと背後からのしかかってきのはマフィンさん。


「ちょ、酔ってるんですかって重っ⋯⋯酒くさっ!」


俺は歯を食いしばり踏ん張るも、あまりに重い!


「あーひど~い!ドワーフが密度高いからって差別だぁー!うりゃあー!」


マフィンさんは酔った勢いのまま上から覆い被さり俺を潰しかける。


このマウントポジションは-。


悪い予感が頭をよぎったと同時、マフィンさんのハァ、とした欲情混じりの吐息が俺の頬を叩く。

指を滑らせて無防備となった俺の腹をなぞる。それは最初の出会った時を彷彿とさせてゾッと背筋が凍る。


「待て待て待てっ!というか前は重くなかったじゃん!?」


「えぇ?あー、ドワーフはぁ、お酒をぉ、本来の重さに⋯⋯のー?かなぁ?」


のらりくらりと揺れて、マフィンさんは呂律の回らない口で放つ言葉は意味不明で解読できない。

必死に足をバタつかせるも無意味な抵抗で、マフィンさんの顔が俺の顔の横にぴったりと張り付く。


「ユウト君。ちゃんとミカちゃんを見てあげなよ?ミカちゃんは君が隣に居るだけで安心するから」


スっと顔を離すマフィンさんは、僅かにニコッと笑った。


「あー、そういやぁヴィラちゃんどこいったぁ~?」


またマフィンさんは酔って身体をくねらせて辺りを見渡して探す。


「あっ、見つけたぁ♪でも王子君と一緒かぁ、残念。今絡みにいけなぁ~い」


マフィンさんは手にしていたグラスを一気に飲み干すと、「あ、なくなっちゃった」と空になったグラスと揺らして二人を眺め見る。


「こりゃ一撃、ううん半殺しくらいはもらうかなぁ。かわいそ~♪」


二人を見やると、サンライズさんは頭を下げて何度もペコペコと繰り返しているのが見える。いや、何度か殴られてないか?

サンライズさんはボッコボコにされて、もはや吹っ飛ばされて視界からフェードアウトしてしまった。


「仕方ないんだけどね。なんせ街を捨てた挙句、十年間なーんの連絡もよこさないんだからさ。ほんっと生真面目だねぇ」




「本当にすまない。私は今でも自身の下した決断を悔いている!」


サンライズが必死に頭を下げる相手はヴィランダ。だが次の瞬間にはヴィランダの拳が顔面にめり込む。

吹っ飛ばされて地面を転がるサンライズ。見上げれば拳を固めたヴィランダが吼える。


「あぁ!?ふざけんなっ!」


ヴィランダはサンライズの胸倉を掴み鬼の形相を寄せる。


「てめぇのな、その自分すら大事にしない考え方がずっとずぅーっと、グラディウスを結成した当時から大っ嫌いなんだよっ!」


「しかし!俺がそうしたせいで、この街の人達が-」


それ以上の喋らせまいと塞ぐのはヴィランダの拳。話の途中でぶん殴られたサンライズは血反吐を吐いてダウンする。

それでも容赦なくサンライズの顔を上げさせた。


「だったらお前は!あの時救った王都の人達の命を軽視している!お前はあのとき魔物の侵攻から逃げるべくこの街を見捨てた!それのお陰で助かった命が今なんじゃねぇのか!?それを否定すんのか?なぁ!?」


だがサンライズは「それでも⋯⋯」と口をまごつかせて何か発しようとする。


「⋯⋯お前がいなかったからって私たちは諦めもしなかったし、今日までずっと抵抗して今ここまで来たんだ⋯⋯勘違いすんな」


吐き捨てるように発したはずのヴィランダ。

それでもサンライズは苦悶の表情を浮かべて頭を下げると謝意を示した。


「多くを生かす為にした行動だ。お前は”王”として最善を尽くしたと思う」


「ただ-」とヴィランダは話を続け、尚も頭を下げ続けるサンライズをふわりと包み込むように抱擁する。


「この街に来たら覚悟しておけって話。それはお前が今後一生返していかなきゃ行けない、決して許される事のない永遠の十字架だ。そして昨日、十年逃げたと言えど謝罪しにやってきたこと。私は嬉しかったよ」


いつの間にか包み込んでいたヴィランダの身体が小刻みに震える。

それをサンライズが優しく包み返して、今度はヴィランダが包み込まれた。


「もっと⋯⋯早くっ、来て欲しかったよぉぉ⋯⋯死んだと思ったじゃんかぁ」


頬を伝う一雫の涙、それはもう留めることなく流れ落ちてサンライズの腕を濡らす。

それに応えるようにサンライズは、優しく、強く抱きしめた。


「遅くなってごめん。ヴィス」


「うん⋯⋯⋯⋯おかえり、サシャ」


そして二人は惹かれ合うように唇を重ね合わせた。

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