第二章 第二十六話「俺も呼べよッ!?」
最初の協力する流れはどこへやら。
最後に海にたどり着いた勇人は投げ飛ばされて海の中。
見えた光景に目を輝かせて、俄然やる気が満ち溢れる。
巨人の大剣が見つかると信じて。
-数時間後。
俺は午前中ほとんど海から上がらず剣を探していたせいで、午後に無理が祟ってドッと疲れが押し寄せた。
お陰で今は適当に立てられたビーチパラソルの陰に入り、身体を休めている。
そして俺は目の前に広がる光景を、ぼんやりとした表情でじーっと眺めていた。
「行くぞーッ!」
そう言ってヴィランダさんがボールを弾き飛ばすと、それに対応出来ずに天は「きゃっ!」と声をもらす。
「ちょっと強すぎますよ~!」
「ヴィラちゃん加減加減⋯⋯」
「あれ?ごめーん。でも取れなかったから罰ゲームだ!」
「ええっ!?ちょっ、わわっ、きゃあ-ッ!」
二人は天を持ち上げて容赦なく海に投げる。
数秒して浮き上がってくる天は、「やったな?」といった表情でヴィランダさんに掴みかかる。
逃れようとヴィランダさんは身体をくねらせるもマフィンさんが構えており、二人で海に投げた。
おや?なんか急に天の上半身に肌色が多く見えるようになった気が⋯⋯。
「あれ?ちょっとミカちゃん水着⋯⋯」
「え?きゃあああああっ!」
すぐに胸元を隠して辺りを見渡す天の前に、浮かんできたヴィランダさんはニコニコ笑顔。
「へっへーん」と自慢するように手を掲げた先にあったのは、白い水着のブラだった。
「かっ、返してくださいよー!」
顔を真っ赤に、片手で胸を抑えながらヴィランダさんから取り返そうと必死な天。肌色が眩しく、片手じゃ収まらない張りのある胸が、際どく目に映る。
俺は見てはいけないものを見ている気がして、目線を逸らした⋯⋯いや、チラ見はしてた。
やっとの思いで取り返した天は、茹でダコのような顔のまま、こちらを睨みつける。
「⋯⋯⋯⋯見た?」
「⋯⋯⋯⋯見てない」
肝心な部分は見えてなかった。いや別に見たかったわけじゃないけど?
数秒くらいこちらをきつく睨みつけた後、「こっち見んな!」と叫んでまた遊びに戻っていった。
「⋯⋯んだよ。ちぇ、もうちょっと見えてくれても良かったのに⋯⋯」
なんだかいけないものを見た気がするのに、もっと見ていたかったと思ってしまう自分に男子らしさを感じる。
見るな、と言われてもやることが無いわけでして-。
暇で、やっぱり目の前の光景を見てしまうわけで-。
体力回復にまだ時間が掛かりそうでこの場を動くわけにもいかない-。
「仕方なく、見ちまうってわけだよなぁ⋯⋯」
などと、とにかく誰に対してでもない言い訳を繰り返して、この場に居座る理由を適当につける。
そして目の前の光景に意識を向ける。
灼熱の太陽が降り注ぐ真夏のような日差し。
雲一つない青い空に、澄み渡ったほど綺麗な海。
そして、目の前にはモデル並みにスタイルのいい女性たち!(一人は除くけど)
全ての事象が俺には眩しく映り、俺は向こうの世界では死んでいたんだと錯覚する。
今、生きてる-。
そう思うのは、生に近しい何かを感じているからだろうか。
「わかるぜユート。俺も今こう⋯⋯ぐっとくるもんがあるからよ」
ポンッと手が置かれて振り返ると、俺と同じく水着に着替えたライドがスッキリした顔で立っていた。
俺は苦い顔をしてしまった。
「特に白い水着のあの子-ミカちゃんだろ?やっぱり可愛いってか美人じゃねぇか。ぶっちぎりのタイプだわ~」
「⋯⋯そうか。ライドはローブを脱いだ姿を見るのは初めてだったな」
「そうなんだよ~。魔力の込められたローブを着てる人を無理に剥がすなんて出来ないだろ?各々事情もあるしよ?傷とか、見られたくない顔とか。でもあれはどっちでもない気がするね。モテすぎて困るから隠してたに一票」
何言ってんだよ。と振り返りたくても振り返れない。
何故ならぎりぎりと肩に置かれた手に力が入っていくからだ。
まずい、と俺は冷や汗がタラりと頬を伝う。
「ところでよ?どうして俺を呼んでくれなかったんだ⋯⋯?」
こいつに俺が剣を探していると知られたら、見つかったとしても報告しないと思っている。
もう一つは-⋯⋯ん?なんだもう一つって。
「ミカちゃんを独り占めしようって魂胆だろうがぁああああああッ!」
ライドは醜い嫉妬の炎を焚き付けて空に吠える。
「いや違ぇよ!?ただ俺はお前に剣の事を知られたら-」
「嘘つけっ!ミカちゃんの事知られたくなかったんだろうがぁあああああぅ!」
俺の首を掴んでライドは嫉妬に半狂乱となる。
「お?ライド!遅かったじゃん」
海から手を振って上がってくるのはヴィランダさん。
「ちょっと姉さんッ!ミカちゃん来るなら言ってくださいよ!俺がミカちゃん探しているの知ってたくせに!」
「だからBBQセット運ばせたんじゃん。サプライズってやつ?今日は暇だろ?付き合えよ」
なおも抗議するライドにヴィランダさんは大きな胸を押し付けて黙らせる。-分かるぞ。あれをされたら男子は何も言えなくなる。
「ほら、サプライズついでにBBQセット作ってくれ!それで飯にしよう!」
そうして海で遊んでいる二人を呼び戻して昼飯となった。




