第二章 第二十三話「手伝ってくれる⋯⋯なわけねぇよな」
疑われたのはやはり天。
だがドス黒い魔力は何をしたとしても漏れてしまう為、隠し通す事は出来ない。
それでも見たと言うフウカとジェラ。
勇人は不確定要素だけで決めつけるなと言い放ち、その場を後にした。
「それに-」とサンライズはフッと笑い呟いた。
「彼だって、私と話したい事が有るからね」
その自信が、勇人を追わなかった一番の理由だ。
「おい」
サンライズが振り返ると、最初に対応してくれた店員。
「飲んだらさっさと出てってくれるか?」
店員は威圧的に見下ろしてズイッと顔を寄せる。
「あぁ。わかった。長居してすまない」
急かさせるように会計を済ませて、まるで勇人の後を追うように数分もせずに店を出る。
自分が歓迎されていないのは当然だ。
この街を-自分自身の決断で見捨てたのだから。
「あーぁ。勢いあまって出てきちまったけど⋯⋯どうしよ。」
勇人は先ほどの行為を後悔していた。
「ま、俺たちを嗅ぎ回るのは良いんだけどさ-⋯⋯なんて、どこの厨二病でも言わねぇよ!」
あの場では、自身に眠れる厨二病を宿すほか対抗策が見つからなかったのだ。
だがもう少しやり方が無かったのか、後悔先に立たずとはよく言ったものだ。
「わざわざ硬貨も叩きつけちゃったけど⋯⋯そもそも多めに払いすぎたよな?」
硬貨を入れていた巾着を開くと、払い過ぎたと気付く。
今更「あ、払い過ぎだので~」なんて戻ろうものなら、死ぬほど恥ずかしい思いをするだろう。
そうまでして戻る勇気は勇人にはなかった。
それにあの空気感⋯⋯次は心していかなくてはならない。
そうして件の、海に眠る剣の話をしようとこの街唯一の医療施設-マフィンさんの所へ歩を進める。
「ごめんくださーい」
数回ほど扉を叩くも返事がない。
仕方なく扉を開け放って入っていくと、奥にマフィンさんが座っていた。
「マフィンさん。居るなら返事して下さいよ!」
「あっ、シー⋯⋯」
口元で指を立てるマフィンさんに従い静かに近付いていくと、マフィンさんの膝で誰かが寝ている。
それは天だった。
「げっ!ここに居たのかよ」
てっきり宿に戻ってると思っていたのに読み違えた。
思わず帰ろうかなと視界を巡らせると、端に映るもう一人に気づく。
それは、ベットでうつ伏せの状態のヴィランダさん。
話したい事があると近付いていくも、こちらも寝息を立てていた。
「だめだよ。今日はヴィラちゃんもぐっすりだから」
「ちぇ、話したい事があったのに⋯⋯」
ぶつくさ漏らすも起きるわけもなく。
「なんか目、腫れてない?」
チラッと見えてしまったヴィランダさんの目が赤くなっていた。
「こらぁ。女の子の弱みに漬け込もうとするなー」
マフィンさんの方を見やると、天も少し目を晴らして赤くしていた。
「こらこら、覗くんじゃないのー」
ブー、と膨れた顔を寄せるマフィンさんに咎められ、俺はそうそうに止めた。
「あー、聞きたいことがあったのになぁ⋯⋯」
そう独り言をもらすと、マフィンさんの瞳がキラリと光った気がしてそちらを見やると、ニンマリとした笑顔をこちらに寄せていた。
「うぉお!?」
-びっくりした!
「いきなり顔寄せてこないで下さいよ!」
驚きのあまり声が上擦って大きくなってしまった。
「シー、だってば。ねぇねぇ。それより何の話ー?」
俺は言ってもいいものかと押し黙る。
「え、いきなり黙り?私に話せない内容?」
「そうじゃないんだけど⋯⋯うーん」
俺は腕を組んで見定めるようにマフィンさんを見つめる。
この人こんな見た目だけど、三十歳は超えてるみたいだし限度は分かるか。というか年齢半分くらいの俺から奪ったりしたりしないよな?
「なーんか失礼なこと考えてない?」
「いいえ。いたって突然の思考です」
勘繰り深く顎に手を置き考える。
まぁヴィランダさんに聞く時点でバレるか。
「⋯⋯海に眠る巨人の剣って、知ってます?」
「タイタンの話ね」
「あっ、知ってたんですね」
「まぁね。私だって何度が海に潜って探した事あるし」
やっぱり。この分だと見つけたら何か要求してくるかもしれない。
しかしそれは杞憂に終わる。
「端的に言えばそれを探すの手伝って欲しいってことでしょ?丁度暇してたしいいよ?」
「え、もし見つかったらくれたりしますか?」
「いいけど」
まさかの即答。
俺の表情を見て、マフィンさんは怪訝な表情を見せた。
「何それ。私をなんだと思っているのさ」
「俺の最初解剖しようとした変態だと思ってます」
「仕方ないじゃん。あの時はまだ疑いが晴れていなかったんだから。もちろん今だって未知数だけど、敵じゃないなら別になんでもいいしね」
そうあっけらかんとするマフィンさん。
この街の人達特有の大雑把な性格には、俺も天も救われた所があるんだけどな。
「まぁ私は良いんだけど-⋯⋯」
マフィンさんは苦い顔をして、視線を移す。
その瞬間、ぬるりと首元に手が回される。
「-へぇ。面白ぇ話するじゃねぇか」
愉しそうにニッと笑うのはヴィランダさんだ。
「ちょうど壊された下の街の漁港の一部ビーチに改装していてな、明日終わる予定なんだわ」
なんというタイミング。
これは俺がその剣を手に入れるまでのレッドカーペットが引かれたということか。
「つまり手伝ってくれるって事ですか!?」
目を輝かせる俺とは裏腹に「はぁ?」と不気味に口角をつり上げて哂うヴィランダさん。
「-んなわけねぇだろ?取ったもん勝ちだ」
勇人の淡い期待は早々に潰えた。




