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第六話「異変」

アドレナリン爆発の勇人は、気でも触れたかグリムへと挑む。

その勝てる算段はいったいどころか来るのか。

そして、勝つ事が出来るのか。

俺は悠然と構えて刀身をグリムへと向ける。


「何言ってんの⋯⋯」


二階堂は不安と信じられないものを見るような視線を向けていたが、ニヤリと笑い返して再び前を見やる。

向けられた刃に怒っているのかグリムは「ガァアアッ!」と獣のような叫び声をあげてこちらに猛進。

もう今さら逃げだしたところで捕まるのは必然。


「まぁ、任せてくれよ」


勇人はもう迫り来るグリムに対して迎撃の構え。

どの道逃げていても捕まってしまう。ならばここで迎え撃ってしまえばいい。


「-グァアアアアアアッ!」


吠え猛るグリムに勇人は腰を落として集中する。

何故だろうか。もう怖くもなければ”勝てる”ビジョンすら浮かんでくる。

いつの間にか玉の汗は止まり、恐怖とは違った信じられない程の高揚感に勇人は支配されていた。


-異世界転生。


つまり俺たちは選ばれた存在というわけだ。


「-さぁ」


勇人はカッと目を見開いて、もう眼前へと迫るグリムに合わせて驚異的なサイドステップをみせる。

グリムはそれに対応出来ず、振りかぶった剛腕が勇人の横を擦過-凄まじい豪風が勇人の頬を殴るが無防備な土手っ腹目掛けて横一文字に刃を走らせる。

刹那、ズッ⋯⋯とした重みが勇人の腕を襲うが、顔を強ばらせながらも計算のうちと強引に引き抜いて距離をとる。

グリムは斬り裂かれたその痛みで失速し数歩前へとたたらを踏むと紫色の双眸を大きく見開いて完全にこちらを意識しはじめた。

これで二階堂の方への意識を完全に絶った。


「これでいい⋯⋯これで」


勇人は独り言のように呟きながらもそれは遺言ではなく、心置きなく戦えるという意味。

グリムの餌食になるつもりは一切ない。勝つつもりだった。

まだ固まっている二階堂に俺は強く頷いて逃げろと促した。

瞬間、グリムが爆ぜるように地面を蹴り上げる。

勇人は即座に意識を二階堂からグリムに切り替えて相手の戦力を伺う。

迫るグリムの腹には真横に斬り裂かれた傷が生々しく残っていた。それを見て勇人はまた口角が上がる。

同じ箇所をあと何度か開けば奴は倒れる。あの数歩たたらを踏んだ感じ、致命傷だったのだろう。

あの体勢から振るった剣では甘かった。

真正面から、力の入った全力の一刀ならあの重たかった肉も断ち切れる-俺の算段に敗北の二文字は無い。


-俺たちは選ばれた存在なんだ。

今まで俺はよくやってきた。

毎日欠かさず鍛錬して三年は経過した。

あれから強くなり、もしもの時のためと頑張って木刀を振るっていた。

かつて力が無くて泣いた自身とおさらばするように必死に努力したからこそ今の自分がいるのだ。

眼前のグリムを前に勇人が投影したのは好きなラノベの主人公。

彼もまた異世界に誘われて英雄とまで言われ着いた程の実力者。

そうしていつか行けたらいいなと願っての今。

異世界。

魔物。

あとは?俺たちの隠された力のみ。


どんな力を授かったのか-今覚醒する時ッ!


「オラァアアアアアッ!」


グリムの雄叫びを掻き消さんばかりの咆哮を上げて俺は振るわれた剛腕に対して全力で迎撃の剣を振るう。

自分たちは選ばれた。だからこそ-⋯⋯予想出来なかった。


「-えっ」


振るった剣はグリムの放った剛腕により面白いくらいに胸元までねじ込まれて自分に到達すると、地に足を付けていたというのにまるでトラックに跳ねられたような衝撃に身体が宙を浮いて吹っ飛ぶ。

軽く十メートル飛ばされた勇人は男たち同様、紙くずのように地面を転がり、ベチャと生々しい音を立てて突っ伏す。

俺は赤く揺れる視界と痛みに顔を歪めたまま訳の解らないように浅い呼吸を繰り返す。

立ち上がろうと震える身体に鋭く斜めに切り裂かれた痛みと全身を襲う鈍痛がそれを拒む。

先ほどまでとは違う感覚に心臓の鼓動が酷く脈打つ。それはグリムを最初見た時と同じ警告音を鳴らしていた。

逃げろ-と誰もが解るそれを勇人は無視した結果に後悔する。どうしてそんな簡単な事に気付かなかったのか。

赤くに映るグリムもまたこちらを見ていたが、少し腹をさするだけでそれ以上は何もない。

奴の腹を裂いたのは事実だ。しかしそれは生死を分かつには程遠く、大木のような太いグリムの腹の薄皮を切ったに過ぎない。

斬れた傷はもう腹筋がせり上がり止血していた。


「な⋯⋯⋯⋯んで⋯⋯」


歪む視界に唇を噛み締めて思わず零れる。

両手で力いっぱい振るったはずの剣でも薄皮を斬る程度の圧倒的な攻撃力不足。

そんな状態でどうして適うと思ってしまったのか。

アドレナリンでどうかしていたとか言う問題じゃない。

異世界転生する前の自身も殺された事を思いだす。

少し前に自分の実力の無さを嘆いたばかりだった筈なのに。


「いや⋯⋯来ないで⋯⋯」


グリムはこちらにもう興味を無くしてくるりと向き直ると、二階堂へと向かっていた。

動けずにいる二階堂に、異世界転生する前の姿が重なる。


-殺される


「やめ⋯⋯⋯⋯ろぉぉおおおおおッ!」


俺はぐわんと真っ赤に揺れる視界に全身を襲う虚脱感でも無理やり立ち上がりグリムへと吠える。

だがもう遅かった。

二階堂にグリムが触れる直前だった。


紫色の二階堂の瞳が妖しく光りだしたのだ。

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