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第二章 第十二話「街アサガナの修復」

魔物でも上位の存在が街を襲う。

だが立ち塞がる王の剣グラディウスの一人ヴィランダの攻撃により一撃で沈む。

改めて彼女の力を再確認するのだった。

ところ変わり街シークリフから数キロ離れた森の中。


昨日襲来したグリム達により、破壊された街アサガナを一刻も早く復旧しようと、民兵隊は日夜問わず木材の確保に奔走し働き詰めとなっていた。


「さっきの反応⋯⋯」


その中の一人、ボブのピンク髪を揺らす少女-フウカはとてつもない魔力の反応に、手にしていた木材を思わず落としてしまった。


「副団長ッ!」


それに素早く反応して駆けてくるのは髪を七三にきっちりと分けた副団長補佐のジェラだ。彼は自分の分も担いで精一杯のはずなのに、さらに落とした私の分すら拾おうとする。


「ごめん。ちょっと手が滑っただけ」


「てへ」と可愛らしく舌を出すフウカにジェラは安堵の表情を浮かべるが、すぐに険しい顔になる。


「もしかしてあの魔族の事ですか?」


どうやら昨日、魔族の事で倒れたフウカを心配しているようだった。

だけど「ううん。違う」と私は首を横に振った。


「あっちの方で濃い魔力反応があったから」


指さす方には、森を抜けて何にもない岩や土砂に囲まれた草木すら育たない砂漠地帯。

さらにその辺りを縄張りとするゴブリンや、その他の悪戯や魔物が生息しているだけ。-あとは。


「⋯⋯-シークリフ」


数多のならず者が潜んでいるとされる荒れた土地。別名”朽ちたオアシス”。

かつて海上都市”だった”王都アクアシアと交渉を図り、唯一このアクアシア大陸の架け橋となった場所。

海に生息していた魔物はディーヴァ達により拮抗を保ち、後に安寧と平和をもたらした。

おかげで周辺程度の海の安全は保証されて交流が盛んだった。

しかし他大陸に侵略をしようとした魔王にディーヴァが挑み、殆どが命を落とした。

以降、魔物が海を荒らし、その街は魔物により支配されていると聞いている。

皮肉にも、ディーヴァのハーフである王子もその街を見捨て、新たにドワーフと産み出した大陸と王都を結ぶ海を渡る船-ブラ二ドールを使い、魔王による影響のなかった数少ない街アサガナとの交流が開始された。

そのせいか、残った人が街アサガナを恨んでいる可能性はある。

情報では魔物に対抗するため”簡易武具(インスタントウェポン)”を所持しているとも聞いており、最近現れた黒衣の男も街シークリフからの差し金と思っている。


「シークリフ⋯⋯未だ機能しているんですかね?」


ジェラの疑問は最もだ。

ここ十年関わりはなく、足を運んでいるのは商人のネーチスさんだけ。

ネーチスさん曰く、街として広がっていると聞いているが。


「⋯⋯うーん、なんとも言えないなぁ」


私は一度みんなに指示を飛ばして休憩を取る。

私もジェラもその辺の倒れた木に腰掛けて話を続ける。


「ここ十年で街として広がるなんて。魔物によって人が住める場所は殆どないって聞いてたのに」


ただ、そうは言ってもさっきの魔力反応は明らかに私よりも大きい。おそらく魔族と同等のくらいに感じた。


「グラディウス⋯⋯」


ふと、私は頭に浮かんだ言葉を独り言のように呟く。

グラディウス。勇者以前の王を護りし剣。

選ばれたのは精鋭五人であり、実力は折り紙付き。

私が民兵隊になる頃には無くなっていたが、一人一人が魔族に対抗出来るほどの力を有していたとされる。


「グラディウスですと⋯⋯⋯⋯ヴィランダ・カースト」


ぐるりと思考を巡らせて放つジェラの言葉に私は「誰それ?」と返す。


「シークリフで生まれ育ったグラディウスの一人です。扱う魔力は”質量変化”。ある物を大きくさせたり小さくさせたりとする魔力で、それを使って”簡易武具”を生成したと言われてます」


「ふーん⋯⋯ジェラ詳しいね」


横目で言葉を紡ぐと、あからさまにジェラがあわあわする。


「まっ、まぁ、当然ですよ!補佐ですし色々とっ!」


ジェラはゴホンッ、と咳払いして平静を装う。

さっすがジェラ!と言いたかったところだが、その様子に私は疑りの目を向ける。


「⋯⋯まーた変なこと考えてない?」


「ええっ!?」


私はじーっとジェラの瞳を見つめる。ジェラの瞳は動揺してとてつもない横揺れをみせる。


「この前も私の為にって、しなくてもいい仕事、してくれてたよね?」


「⋯⋯」


私の言葉にジェラは何も返さずにだんまり。私はそれに追撃の如くさらに言葉を並べ立てる。


「はぁ⋯⋯今回は何してくれたの?」


私が確信をもって放つと、ジェラは諦めたようにため息を漏らして口を開いた。


「黒衣の男⋯⋯もし、街シークリフの者でしたらどうされるおつもりです?」


それは前にも民が半殺しに合った時点で結論は出ていたはずだ。


「もちろん倒す。どういうつもりか分からないけど、団長にすら手を出した訳だしね。それくらい覚悟してもらうつもり」


「だからですよ」


ジェラはそっと自分の座っていたところを離れて、私の隣へと深く腰かける。


「えっ、ちょっとッ!?」


ジェラは時折、距離感がバグってる気がする。

急に近くに来られると変な意識をしてしまう。


「他の人に変に思われちゃうから離れて⋯⋯」


困惑する私をよそに、「大丈夫ですよ」とにこやかに笑ってジェラは私の手を取ると、真剣な表情で言葉を続ける。


「報復の為、街シークリフの情報を探していました⋯⋯貴方様の為に」


ジェラが握る私の手に優しく力が込められる。


「団長がやられて悔しいんでしょ?自分を育ててくれた方が何処ぞの馬の骨とも分からない奴に負けるのは」


「それは⋯⋯そうだけどぉ」


いつの間にか目と鼻の先にジェラの顔がある。

頬が赤くなっていくのを感じる。逃れたくても手を握られていてそれは叶わない。

そんな私を楽しそうに見つめたジェラは、そっと耳元で囁く。


「-戦争しましょう。シークリフと」


「え?何言ってるの?」


私は小声で言葉を返す。

戦争?シークリフの住民とってこと?


「そうです。黒衣の男は間違いなくシークリフの手の者、そう裏付けるには十分過ぎる情報がある」


「”簡易武具(インスタントウェポン)”の事?」


「そうです。奴らは私たちの戦力を削いでこちらに攻めてくるつもりなんです。今からでも叩いておくべきなのでは?」


「ちょちょちょっと待ってよ!」


私はジェラを突き飛ばして吠えるように言葉を放つ。

いつの間にか声が大きくなっていて、民兵隊の注目を集めてしまった。


「そんなの早計過ぎるよ!戦争だなんて⋯⋯」


私は最後、皆に聞こえないよう小さく漏らす。


「奴らは刻一刻とこちらを攻め入るつもりです!」


ジェラはもはやそうと信じて疑わない。


「だって黒衣の男単独かもしれないし⋯⋯もっと穏便に済ませられるはずだよ!」


「お考えをッ!」


「きゃっ!?」


勢いよく両肩を掴むジェラの目は、大きく見開かれて血走っていた。


「団長はしばらく動けません。今一番上なのは、判断を下すのは副団長です!」


「で、でもっ⋯⋯」


ジェラの勢いに負けて声がどもってしまう。


「⋯⋯だとしても、とりあえずは街の修復が優先だよ。それにもう数日したら、サンライズ様が来るから⋯⋯それからにしよ?」


「⋯⋯わかりました」


ジェラは何とか治まり、最初に腰かけていた横たわった木へと座る。

団長が倒れて私一人でここの指示を仰いだ。

こうして民兵隊の皆動いてくれているけど、皆家族が心配で帰りたいに決まってる。

はたして私は上手く団長の代わりとして機能を果たせているのだろうか。


渦巻くのは街を襲ったグリム達、黒衣の男、さきほどの魔力反応。やることが多すぎる。

そして一番気になっているのはミカちゃんが魔の者かどうか。

一晩経って冷静になれば、彼女は本当に魔の者だったのか疑問が溢れた。

少なくとも怯えだした彼女の身体には魔力を感じなかった。それと同時に彼女が纏う空気が変わった。


魔力は行使できない者でも少なからず身体に流れているもの。まったく無いなんて事があるのか?

魔力感知に絶対的な自信がある訳じゃないから分からないけど。


「はぁ~⋯⋯」


あんまり詰めて考え出すとまたくらっと来そうだ。

私は解き放たれたように大きく深呼吸を繰り返して、逃れるように空を見上げる。

私は鬱蒼と立ち並ぶ木々の中、隙間から森を照らし出す僅かな陽の光を見つめる。


「こんな時、ダヴナ様ならどちらに道を示してくれるのだろうか」


私は神にすがるように、人々たちの正しき道へと指し示す陽光の神-ダヴナ様の名を呟いていた。

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