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第四十九話「魔王の目覚め」

まだ残るグリムを倒そうと奮闘する勇人。

民兵隊とも合流し勇気付けられるが、突如襲うドス黒い魔力の存在。

それはいつぞやの黒い魔力と似ていて-。

暗い闇の中、引き摺られながら感じる浮遊感を私は数秒で手放すと同時に真っ暗な闇の海へと激しく音を立てて飛び込んでいた。

私は慌てて息を吸い込むが、地上と何ら変わらず呼吸できることで平静を保つ。

おかげで海から顔を出そうと考える余裕が出来るが、どういうわけか私の身体は抵抗する意志すら持てずに身を委ねて、ゆっくりと堕ちていく感覚を味わう。


どのくらい深いのだろうか-。


背中から堕ちる私には分からない。だが不思議と恐怖心は無かった。

それどころか何処か心地良さが私を包み込んでおり、私は海と言う冷たくも温かな羽毛に目を瞑って安堵のため息を漏らす。

少しずつ沈んでいく私の身体に、海の重圧が重くのしかかる。それでも苦しいとかはなく、そこに今乗っているんだといった感覚だけがあった。

海の中、落ちていく身体のまま私は前を見ていた。

暗い海を出たところであるのは暗い闇。どちらも変わらない暗闇の世界が広がっていた。

なら別に無理に足掻く必要はないだろう。

私は小さく呼吸を漏らして、ふと思いだす。


どうしてこの世界に引き摺りこまれたのか。


-あぁ。きっとあの悪魔に襲われて命を落としたのだろう。


だけど私は小さく首を振って朗らかに笑った。

もうそんな事はどうだっていい。

私は今、この心地良さに身を委ねていたいのだ。


「-そうか。なら利害の一致って事だな」


何処からともなく声が聴こえる。

それは地底から死者が生者を地獄へと引き込もうとしているように冷たく、生気が感じられない声。

思わず辺りを見渡してみても誰もいない。

まるでそれはこの空間自体から呼び掛けられたようだった。

ふと身体に自由が戻っていることに気付く。

しかしそんな事はどうでもよく声の主を懸命に探す。


「誰?」


たまらずに見えない声の主に呼び掛ける。


-返ってこない。


代わりに人を小馬鹿にした嘲り笑ったような声。

なんだがゾッとしたえも言えぬ恐怖が身体をなぞっていく感覚が襲う。


「あっ-」


私はいつの間にか封印していた記憶を呼び覚ます。

呑まれたあの感覚-。


ゆっくりと、だが確実に侵食され、真っ黒に染まっていく感覚-。


私は足掻こうとして手足に力を入れようとした瞬間、両目を誰かに塞がれた。


あの時と同じ-⋯⋯。


「-やめてっ!離してッ!」


動けるようになった手足を伸ばすが、そこには何の空間も無く、誰の手もない。

ただ視界が塞がれている感覚のみがそこにある。

視界は真っ暗な世界のまま変わらない。

だがその感覚はすぐにこの世界自体を恐怖の対象へと変えてしまう。

まるで真っ暗な世界は恐怖するものなのだと教えてくれているように。

あの時の恐怖が、あの時の感覚が蘇り、私は我を忘れて叫び散らす。

それすら予定調和の如く見えない奴が笑う。


ピタッと身体に何かが背中に触れる感覚。それは一つ、また一つと数を増やしていく。


ズズッ⋯⋯。


それにより私は急速に身体を下に引っ張られ始める。


-怖い怖い怖い怖いっ!


さっきまでとは違い、心地良さは無くなり深淵が私を呑み込まんとしている。

足掻こうにも海の重圧により押さえつけられて為す術はない。

口も重く、ズシッ⋯⋯と錠でも掛けられたように開かない。

見えない視界はこんなにも怖いのだと発狂しかける。


-いやだいやだいやだいやだッ!


情けなくも顔をぐちゃくちゃにさせて私は身体全身で恐怖から逃れようと必死だった。

だが願いは叶うことはなく、引っ張っていた何かが私の中に入り込んでくる。


「もう嫌だッ!⋯⋯やめてっ!やめてってばぁ!」


半狂乱になりながら泣き叫ぶが、それを愉しそうに空間が嗤って私の中でうねうねと動かす。

それは手や足に少しずつ侵食していき、私の意志が切り離されていく。

何をしてもそれから逃れることは出来ない。

動く首を必死に振って喚く。だが数秒もしないうちにそれすら叶わなくなって、私という自我は身体からは完全に切り離されて心の中にのみ残る。


-やめて⋯⋯。


そう心の中で唱える事しか出来ない。


また侵食されていく-。


「-よく馴染む⋯⋯やはり似てるだけある」


私の意志とは無関係に口が勝手に動いて喋る。

もう手足は私ではなく違う者により動かされる。

涙で半開きの口はニタリと口角を吊り上げていく-。


「まーた君かぁ⋯⋯ご苦労なこった」


視界はいつの間にか先程のグリムを映し出していた。


-ヒィィィッ!?


眼前のグリムに心の中で恐怖が漏れて驚き叫ぶ。

だが私とは違い、私から自由を奪った何かは「フンッ」と軽く鼻を鳴らすと徐ろに手をグリムの顔へと当てる。

刹那、グリムは驚愕の表情を張り詰めたように目を見開いた。


「-では、貰おうか」


瞬間、ボンッ!と掌からとてつもない衝撃と、自身の視界を覆ってしまうほどの大量の黒い何かをぶっ放した。

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