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第四十七話「再会」

相手の力を利用する事で正気を見出した勇人。

最後、天井からの自由落下と天井を切り上げた加速による魂の一撃は、ついにグリムを倒すに至った。

-グリムがいる


私ー天は無意識に呼吸を止めていた。

それに気付いて呼吸しようと開きそうになる口をとっさに抑え、反射的にその場から存在感を消す。

「グルルル⋯⋯」と背後から聴こえるグリムの恐竜のような唸り声は簡単に人の臓腑を震え上がらせる。

幸か不幸か、砂埃が隠しているのか柱一つ隔ててグリムからは奇跡的に私が見えていないようだ。

私は恐怖に震え上がっていた身体は、いつしか見つからかないようにと本能的に固まっていた。

砂埃が舞い視界が効かないというのにグリムは何度も鼻息荒く唸り、合間にスンスンと鼻から息を吸い込む音が妙に辺りに大きく響く。

まるで心臓がぎゅっと締め付ける感覚。

首は動かせない。

今にもバレそうな気がして、溜まった生唾さえ呑み込むのを躊躇う。

それでも精一杯の抵抗と視界の端に映る何かを捉えようと目が動く。

それは半壊した宿の中を、外の世界が照らして映るグリムの影。土煙が殆ど隠しているがその大きなシルエットは間違いない。

私はぎゅっと目を瞑り、「早くどっかに行って」と何度も心の中で願った。

しかしその心とは裏腹に奴はしつこくそこに居座る。

そして少しずつ舞い上がっていた埃が落ち、奴は辺りを見渡すようにして何かを探すように動いているのが分かる。


一体なにを探している?


ドクンッと二日前の記憶がまた蘇り、私の心臓はそれに惹かれるように大きく脈打つ。

止めてと願えば願うほど大きくなり、外のグリムに聞こえてしまうんじゃないかと必死になる。

私は無我夢中で抑え込むように身体を力ませるが効果はない。それどころかグリムの感覚を開けて聞こえていた唸り声がピタリと止んだ。

どうして?

私の鼓動が一際小さく跳ね上がって抵抗を見せる。

心臓がぎゅっーと小さくなっていく。

今にも消えそうだ。

さっきまで聞こえた唸り声と違い、今度は静寂が辺りに広がる。

もう小さく喉を鳴らすことすらない。

もしかして奴は違う所に行った?いやそんなわけは無い。あまりにも足音が無さすぎる。


ならきっと-悪魔はまだ後ろにいる。


どうして唸り声が止んだ?

だが強烈な死の宣告が私を微動だにさせず、そこから動くなと縛り付ける。

まだ動く瞳で唯一確認できる床を見やると、薄らとだけ見えていたグリムの影が明瞭となっていた。もう視界は開けたのだ。


「グルルルルッ⋯⋯」


さっきまでよりも影は大きくなっていた。

奴が近付いて来ているッ?

刹那、視界の端にまた新たなるものが映り込む。

目で追うと、気絶したままのユキさんに触れるか触れないかの位置にヌっと黒いものが現れる。

私は思わず悲鳴が漏れそうになった。

宿が軋む音。壁のように大きなグリムは身体を傾けてユキさんに近付いていた。

私はその姿を見て引き攣って困惑した声が短く響いた。


グリムとは?

見境もなく人であれ建物であれ、破壊の限りを尽くしていく悪魔の印象だった。

時に残酷に人をなじり、私が恐怖に染まっているのを見てニタニタと悪魔の面を張り付けた化け物だと。

しかし、目の前のグリムはユキさんを攻撃するどころが何かを確認するようにしきりに匂いを嗅いでいた。

そして違っていたのだろう、「フンッ」と一際大きく鼻息を鳴らすと傾けていた身体を正して立ち上がり、辺りをまた見渡し始めた。


こいつは一体なにを探しているっていうの?


それに呼応するように私の拳が強く握り締められる。

もう分かっているんじゃないかー、と。

あの村でも私は狙われていた。

きっと魔物に好かれる力でもあるのだろう。


それはどうして?


きっとー。


「グルルルルルルッ!」


先ほどの私が漏らした小さな悲鳴を聞き逃さなかったのだろう。グリムは確信したように私の隠れていた柱をぐるりと覗き込んだ。


「あー」


もう既のところに奴の顔面がいた。

まるで悪魔の象徴と言われた羊の様な顔は、牙を剥き出しにして開閉する口からは熱風と生暖かな風が入り交じって地獄の門と化す。

この世のものとは思えない紫色の双眸は、怪しく輝いて恐怖に染まり全ての悲劇を体現した私の顔を映し出していた。

その瞳の奥に見えるどす黒い何かが私を呼んでいる気がしてならない。

そんな私を眼前にグリムはようやく見つけたと喜んでいるように口角を吊り上げる。

ゆっくりと一筋程度の生暖かなものが頬を伝う。

グリムに映る私は恐怖を張り付けたまま涙を流していた。


もう逃げ場はない。

もう逃げられない。


絶望の状況、グリムは嬉しそうに私に顔を近付けてコツンッと額同士がぶつかった。


ーあぁ、もうだめだ。


私は最後、ボソッと心の声が漏れ出す。


「勇人⋯⋯」


刹那、誰かに後ろから引かれたように視界は遠ざかっていきブラックアウト、私を闇の世界へと引き摺りこんだ。

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