第三十四話「一歩踏み出す勇気」
勇人は二階堂の為に仕事を探しに役場へ。
しかしここも人気で人が多くいい求人はすぐに埋まってしまう。
更には人に阻まれ届かない中、一枚の求人が勇人に。
報酬は少ないが何かの縁とそれを受諾するのだった。
ふと目が覚めると真っ白な世界が広がっていることに気がつく。
原因は瞼を閉じているからで、朝が来たのだとすぐに理解して緊張からかため息が漏れた。
自分としてはそれが希望の光のようにも思えたからだ。
ただ、私は目を開けようとして一度立ち止まる。
-殺せぇぇええええッ!
あの村での光景が脳にこびりついて忘れられない。
また地獄のような世界に戻ってきたのだ、と。
思い出したら弱々しい自分の身体は面白いくらいに震えて止まらない。
私はまたこの世界を拒絶するように布団にくるまる。
あぁ、やっぱりだめかな⋯⋯。
-全然いつでもいいからな。また会おうぜ
ふと勇人が扉越しにそんな事を言っていた気がする。
その時は寝起きだったし結局二度寝をしたから確証はない。
「何それ」
そう冷たく突き放った言葉を口に出してはみたけど、決して嫌という訳じゃない自分がいる事に驚いた。
そういえばあいつ、村の人達が怖くて無我夢中で走ったってのに追ってきたな。律儀に森の中まで。
真っ暗な森の中、ついてきてまでなんて言ったっけ。
あぁ-。
「一人じゃ怖いじゃん⋯⋯って、本当に何それ」
思い出したら笑えてきた。
あの時も本人に直接言ったけどやっぱり気持ち悪い。
でも、その分真っ直ぐで嘘も隠し事もない気持ち。
私を気遣って?ううん、あいつはそこまで人に配慮できる人間とは思っていない。教室でも一人でラノベ?ってやつを見ながらニヤついてたし。
それでも自分の心のどこかを温めてくれていたのは確かだ。
普通に怖かったってのもあるけど、勇人のおかげで昨日は踏み留まることができたというのも事実。
そんなこと勇人に言うつもりなんてないけど、今はそう実感してる。
じゃあ勇人の為に私だってそろそろ立ち上がってみようかな。
そう頭に思い浮かべて「ハッ」と笑い飛ばす。
勇人の為にだって?違う。私の為だって。
また込み上げてきた何かが私の口角を上げる。
今だったらできる-はず。
私は恐れずに意を決してゆっくりと瞼を開けて昨日まで拒絶していた世界を迎え入れる。
最初に目についたのは天井から吊るされてゆっくりと回る木製のシーリングファン。大きな羽を拡げては心のどこか安寧をくれて敵意が無いことを示してくれる。
次は視界より先にチュンチュンと何処からか聴こえる小鳥の鳴き声に反応する。その声の先を追って視界を回すとカーテンが閉められた窓の方から聴こえる。
カーテンは締め切ったはずなのに、どうやら朝日が出て来る方向の都合上、どうしても陽の光が入ってきてしまうみたいだった。
それなのに私は昨日とは違いそれを不快とは思わず、なんならカーテンを開けて浴びたいとすら思えた。
私は貧血なのかふらつく足取りで窓に向かい徐ろにカーテンを開く。
「わぁぁ⋯⋯」
私はその光景に思わず感嘆の声を上げる。
カーテンを開けるとそこには街の通りが広がっていた。
まだ朝だからか大通りじゃないからか人通りは少なく、それがまた今の私には向いている気がした。
朝日は眩しいくらいなはずなのに優しく身体を包み込む感覚に、まるで世界の方から優しく迎え入れられているようだった。
「チュンチュン」
ふと上を見やると窓の桟に二匹の小鳥が互いに寄り添い合うように鳴いていた。どうやら私を誘ってくれたのはこの小鳥達のようだ。
「可愛い⋯⋯フフッ」
私はフッとまた笑えたことに驚きつつも、そんな自分が今は落ち着くと感じていた。
桟越しに小鳥に触れると「ピピッ」と鳴いて二匹は明るい世界へと飛び立っていく。まるで何かの始まりのように思えたその光景に「さて、と」私は声を漏らして部屋の扉に目を向ける。
さっきから扉越しから朝ごはんの匂いが漂ってきていた。
あの女性がまた作ってくれたのだろうか。
昨日の料理は美味しくてつい涙が溢れてしまった。
私は引き寄せられるように扉へと歩みを進める。
数歩進むと視界の端に何かが動いたように見えた。反射的に隣を見やるとドレッサーで、そこに映る私がいた。
「-あれ?」
私は素っ頓狂な声を上げて顔に触れる。
昨日まで瞳は紫色になっていたはずなのに今はいつもと同じように茶色へと戻っていた。
最初は驚いたが、すぐに鏡に映る私は「フンッ」と鼻を鳴らして腰に手を当ててポージング。自信に満ちた笑みを浮かべる。
「うんっ、いつも通り可愛いじゃん」
自画自賛だって?仕方ないじゃん。私って美人だし。
そう思えるようにまた自信が戻ってきた事にも嬉しく思えた。
少しずつ、少しずつだけど前進してる。
私は今の気持ちを大切にしようと思う。
「-うんっ!」
私は自分の頬を軽くはたいて鏡に向かって飛びっきりの笑顔をみせた。それがまた無邪気な子供のように映って恥ずかしくなって頬が朱の色に染まる。
私は気合いの入った顔で扉まで来るとドアノブ手を掛ける。
今なら行ける。大丈夫。
私は大きく深呼吸をして、扉を開けた。




