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第三十三話「斡旋場が圧巻の人混み」

ユキに言われて役場を目指す勇人。

大通りで人混みに揉まれて酔った勇人は立て直していると朝出ていったフウカと出会う。

どうやらフウカも役場に用事があるようだが、彼女と絡むと勇人は度々変な性癖に目覚めそうで困るのであった。

「違うんだ⋯⋯私は、違うんだぁぁ⋯⋯」


「いやもう落ち着けよ。多分誰もどうも思ってねぇよ。多分」


隣でわなわなと震えながら「違うんだぁ⋯⋯」呪詛のように繰り返すフウカを宥めて役場内に入る。

フウカが今こんな感じのおかげで人混み酔いが良い感じに抜けてくれている。頼むからそのままでいてくれ。

そうして役場に入ると「おぉ⋯⋯」と声を漏らす。

役場内は大通り以上に人でごった返していた。

数えきれない紙が上空を飛び交い、それを取らんとする者達が我先にと手を伸ばして奪い合っている。

ある者は殴り殴られてそれを、ある者は地面に落ちた求人へと手を伸ばしてその者達で戦いあっている。


「⋯⋯なにこれ」


「え?見て分からない?求人の奪い合いだよ?」


フウカは普通の事のように話すが、俺まだハ〇ーワークになんて行ったこと無いけど、絶対にこんなんじゃないだろ。

そしてこの一連の騒動の根源は間違いなく真ん中にそびえ立つ大きな円柱から求人をぶん投げる人達。

彼らは二メートルくらい高い位置から求人票らしき紙を下の仕事探し中の人達目掛けて飛ばす。


「そうらぁ!今日はアーヌさん家に生えた枝切りだよぉおおお!金貨十枚でどうだぁあああッ!」


「金貨十枚ッ!?」


俺の昨日の働き分の十倍じゃねぇか!


「アーヌさんは地主でそこそこお金持ちだからねぇ」


「くそっ、まじかっ!」


-これを逃す手はないッ!

下では「俺にくれっ!」や「俺なら半日で終える!」等聞いてもいない言葉を叫んでは金に飢えている人達で溢れ返っている。まるで地獄のような光景。

俺もその求人が欲しくて混ざろうとするが肉の壁に阻まれてそもそも入れない。


「おぉ、取った!俺のだッ!」


「違うッ!俺が先に取ったんだぞ!」


求人票が投げられたらしき所ではもう手に入れた者達が俺のだと主張して殴り合いが勃発していた。


「あぁ、俺の金貨十枚⋯⋯」


「いや俺のて」とフウカはやれやれと両手を広げる。


「あんな良案件なかなか出回らないからねぇ。無いものと思ってたほーが良いよ。取れれば運があった。くらいで」


肩を落とす俺にフウカはポンポンと手で慰めると「じゃあ私行くねッ!」と元気よく告げると風の魔力を使ってその円柱へと昇っていく。そこには先程の七三の男と他に胸プレートを付けた複数人の民兵隊。

彼らに迎えられたフウカは頷いて円柱の中へと消えていった。

どうやら朝の件で話があるのだろう。

役場であるからそういった内容も受け持ってたりするのかな。


-まぁとにかく。今日を生きる為のお金を稼ぐ為。

目の前のこの肉の壁の中に入り込むしかないッ!


しかし阻む肉の壁は厚くそう簡単に入らせてくれない。

すき間があったと下から潜ろうものなら踏み潰されても文句言えないだろう。

そうこう思案している内にも告げられる求人は軒並み価格のいい(その分危険かもしれない)物で、全て一瞬にして回収、取られていく。


「あぁ~!どうすればいいんだよぉおおおおっ!」


頭を抱えて叫ぶ俺の顔にバサッと覆い被さるように一枚の求人が舞い降りる。


「あっ?」


俺はそれを手に取り見やる。


「ええっとなになに⋯⋯畑仕事ぉ?」


勤務時間は今日のちょうどお昼から四時まで。

報酬は銀貨五枚。


「⋯⋯」


はっきり言って少ない。

あれだけ良物件の中これには惹かれない。それに銀貨五枚じゃまた二日間したら働かなきゃいけないじゃないか。

もっと一発で稼げる仕事⋯⋯。

だがそれは既に出来上がった肉の壁により絶対侵入不可の世界。もう入り込むことは不可能なのだ。

入りたければもっと朝から早く来いって事か。

選り好みは出来ない。


「ぐぬぬッ⋯⋯」


勇人は歯噛みしながらも自分なりに納得し始めていた。

それにこれは何かのご縁かもしれないしな。


「仕方ねぇ⋯⋯すみませんッ!これ行きますッ!」


俺は空間を切り裂かんばかりに叫ぶ。しかし前の人達の声量がもはや大砲のように上がるこの空間では簡単に呑み込まれてしまう。

何度か叫んだり跳ねたり手を挙げたりと繰り返すがそれも前の人達の壁により円柱の上にいる人には届かない。

やれやれ。どうしたものか。


-つんつん。


「-ひゃい!?」


ふと後ろから腰辺りをつつかれる感覚に自分でも驚くほど女の子に近い声を上げる。

慌てて振り返ると、まるでスーツのようなピシッとした身なりの綺麗な女性が立っていた。

どうやらここの職員のようで、自分の手にしていた求人を指さし「受諾しますので用紙を前に」と言葉を発する。

俺は求人を前に出すと女性は胸ポケットから小さな判子を取りだして手のひらを下に敷くとそこで押した。


「-はい。これで受諾となります。早速案内しようと思いますが、まだ時間まであります。どうされますか?」


女性の問いに勇人は顎に手を置き考える。

しかしさして用事も無かったので「すぐ行きます」と答えた。


「では、案内致しますのでついてきてください」


そう言うと女性は言葉と共にくるりとまわり役場を出ていく。

俺もはぐれないようその数歩後ろをついて行く。

役場を出てすぐに勇人は天を仰いでため息を漏らす。

ここに来て三日。正確には二日半くらいなんだけど。


「⋯⋯なんかバイトばっかりしているような」


セオリー通りならこの服が異世界では高値で売れたりして、生活費には困らないってのがあるはずなんだけど。

そんな甘い考えは最初の数時間で玉砕したんだった。


「はぁ⋯⋯未だに俺の能力分っかんねぇしよ」


グリムの時に発動しなかったってことは、あれは強敵でも何でもなかったってことか?

それとも本当に俺には何にもないって事か?


「やっぱりそうなんだろうなぁ~」


そう考えたらまた大きなため息が出てしまった。

まぁいい。とりあえずは今動けない二階堂の為。俺が稼いで当分は困らないようにしないとな。


「-うしっ!」


勇人は自分の頬を叩いて気合いを入れた。

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