第三十一話 「魔力により形成された宿」
シークリフと名乗っていた勇人。実はこの街とは敵対関係というか目の敵にしている危ない街だったと知る。
ユキから朝は出歩くなと言われて宿へと戻るのだった。
宿に戻るとユキはさっそく料理に取り掛かる。
勇人は自室に戻ってネックレスを外して机の上に置いた。
ふと二階堂の部屋側の方へと目が行っていた。
彼女は大丈夫なんだろうか。
ユキさんは放っておいてあげなさいって言っていたけど、声くらいはかけた方が良いのかな。
勇人は良かれと思い、自室を出た後に二階堂の部屋を軽くノックしてみる。
「二階堂。起きてるか?」
暫く待ってみたが、やはり返事は帰ってこない。
「やっぱりやめた方が良かったか」
俺は力なくぼやいて、去り際に「全然いつでもいいからな。また会おうぜ」と残してユキさんの元へと戻った。
「ユーウートーくぅん?昨日放っておいてあげてって言ったよね?」
にっこにこの笑顔、でも額に怒りマークが付いているのが見えて逃げようと試みたが、次の瞬間には頭を両脇から拳でサンドイッチされていた。
「すっ、すみません!どうも様子が気になって!」
「今はセンシティブな状態だから、一人の方が良いのよ?」
するとユキはパッと手を放して勇人の額に軽くデコピンをかます。
「はいっ、おしまい。良い?今はそっとしておいてあげて。自分で整理中なのよ」
「女の子って難しい⋯⋯」
「そのうちあっちからユウト君に頼ってくれるはずよ?」
そう言い残してユキはまた料理場に戻る。
「そんなものなのかなぁ」
少なくとも異世界に行く前の二階堂からは全く想像できない。いや、今もだ。
それから数分もしないうちに「できたよー」とユキの声。
「はい、どうぞー」
運ばれてきたのは昨日と同じで日本でなじみのある白ご飯とたくあん、そしてハムエッグとみそ汁だった。
昨日働かせてもらったカフェや露店とは違い、ここで出される物は現代の日本に通ずる物が殆どだ。
俺は冷めないうちに「いただきます」と食べだす。お腹の虫も我慢の限界だった。
ユキさんも自身の料理に手をつけはじめて二人で食事をする。
暫くして、俺は食べ終えてから「やっぱり他とは違うなぁ」と呟くと「当然っ!」とユキさんは胸を張って鼻を鳴らす。
「殆どが他のところで作られていないメニューだけど、結構好評なのよ?」
「今出してくれているメニューも自分で考えて作ったのか?」
「うーん⋯⋯それはちょっと違うかな」
ユキは少し寂しそうに窓の外を見やるとぽつぽつと呟く。
「⋯⋯お母さんから教えてもらったの。ある時居なくなっちゃったんだけどね」
そうこちらに見せた笑顔は無理に作った笑顔だとすぐにわかった。
ユキさんは大きくため息を漏らして「今は何処にいるのやら⋯⋯」と文句をこぼす。
「この戻り木の宿が存在している限りは安心なんだけどね」
ユキさんは優しく机を撫でると微笑んだ。
「この宿とその人と関係があるのか?」
俺は思った問いをそのまま投げかける。
口を開いてから家庭の事情に突っ込むのかと心の中で自分に叱咤するが控えめに気になったのだ。
ユキさんも少し戸惑って口を噤むが、喋りだす。
「⋯⋯うん。この宿は普通の木じゃ無くて魔力で練り上げられて造られているから。魔力が尽きぬ限りこの宿は腐らない。腐らないって事は、魔力の主はまだこの世界のどこかに居るってことだから」
「そうなのか⋯⋯ごめん、あんまり聞いちゃいけないこと」
遅めの謝りに「ううん」とユキさんはこちらを気遣って首を振ってくれる。
「その為にこの宿を開いているって言うのもあるから。久しぶりに原点を思い出せたわ。ありがとう」
ユキさんはまたこちらに配慮して笑顔を見せる。
そこまでフォローされてしまうと本当に申し訳なくなった。
「あっ、いけねっ!宿代稼がないとだった!」
俺はわざとらしく、でも忘れていた事に気付く。
剣を買ったせいで俺は一文無しだ。このままでは今日俺どころか二階堂も泊めてもらえない。
期待の眼差しでユキさんを見やるが「今日は人手が足りているしなぁ」と悲しい現実を突きつけられる。
「もしかしてお金が無い?それなら役場に行ってみたら?あそこなら即日求人なりその日の仕事等も斡旋してくれてるから」
ユキさんは「大通りに出たら右にひたすら真っ直ぐ-」と教えてくれて俺はそれを覚える。
どうやらこの街の中心にそんな施設が立っているらしい。
「なるほど。なら今から行くか」
俺はとっとと食べ終わった食器を片付けて身支度をする。
もっとこの街の情報も欲しい。
それには働いて環境を知ることも大事だろう。
働いた事の無い恐怖は昨日のうちに取り払った。もう大丈夫。
「そんな焦らなくても、別に今度でも-」
ユキさんの言葉を待たずして俺はゼロの数字を指で作って見せつける。
「⋯⋯あ、今銀貨一枚すら無いって事ッ!?」
こくりと頷く俺にユキさんはやれやれと頭を押さえて「銀貨八枚もどこで使ったのよ⋯⋯」と呆れる。
「武器です」
「なるほど。納得。行ってらっしゃい」
ユキさんは手を振ってくれると俺はそれに応えるように手を振り返す。
「行ってきます!」
そうして俺は宿を飛び出し役場を目指す。




