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第二十九話「朝日が昇り、影ができる」

怪しげな黒衣の人物。

口元だけがニタリと笑うが、勇人はお構いなく自分の武器を購入しハッピーな気持ちで宿へと向かうのだった。

「やっちまったぁ⋯⋯」


後悔のように漏らす言葉とは裏腹に宿へとスキップする足が止まらない。

ちらちらと自身の胸元に着けたネックレスを確認して何度も触っては口角が上がっていくのを感じる。

ついに自分の武器が手に入った。その事実が俺の心を満たしてくれていた。

本来ならこの剣をどこかで振ってしまいたい気持ちなのだが、もう日が昇りだしている時間、外には先ほどよりも多くの人が出歩き始めている。

それにユキさんから朝ご飯の時間は七時だと告げられている。

日の入りからしてもうすぐ約束の時間となるだろう。自分の欲望を叶えている時間はない。


「⋯⋯」


⋯⋯でも振りたい。振ってみたい。

生粋の厨二病である俺はこの剣を手に取り振りたい気持ちでいっぱいだ。

大通りを抜けて、宿に向かう一本道の小道に入ると何度か折れ曲がった所で足を止めて辺りを見渡す。

この小道は一本道であることと、何度も折れ曲がっているおかげで大通りからも、宿前の開けた所からもこちらを見ることは出来ない。つまり誰からも見られる心配はない。


「フッフッフッ⋯⋯」


俺は怪しげに胸元のネックレスを引っ掴むと思いっきり引き抜いて振り払う。刹那、ボンッと爆ぜるような音と共に勇人の手には銀色の剣が握られていた。


「~~~ッ!」


俺は興奮のあまり口が波のようにふにゃふにゃと揺れるのを感じる。興奮冷めやらぬ勢いで何度か何も無い空間を斬りつける。ブゥン!と勇人の剣が風切り音を立てて炸裂。

続けざまに正面、後ろ、また正面と連続で斬りつけてコンボを繰り出す。


「フッ⋯⋯間違いなくグリムはやれるだろう」


自惚れからか「ククク」と頭を押さえて小刻みに揺れて可笑しく肩を震わせて笑う。おいおい、今ならなんでもできる気がするぜ。

そう思った刹那、感覚が研ぎ澄まされていた耳が僅かな音を捉える。

それは軽く地面の弾むような、徐々に近づいてきて足音なのだと理解する。

―どこからだッ!?

身構えた勇人は足音の方-宿の方を向いてネックレスに手をかける。

足音はもうすぐそこまで来ていた。

しかし現れたのはピンクの髪-フウカだった。


「フウカッ!?」


俺は驚いて身体が硬直してしまう。このままじゃぶつかってしまう!


「わわっ、どいてーっ!」


そんな俺とは対照的にフウカは側転のように地面に手を付くと風を放って大きく勇人を飛び越えてゆく。


「ユートくん早く帰ってあげて!お姉ちゃんが心配してる!」


そう言い残してフウカは速度を緩めることなく足早に小道を曲がって去っていく。

フウカは緑の短めのワンピースに胸プレートを付けていた。つまりいまから民兵隊の仕事に行くということだ。


「あんなに急いで⋯⋯遅刻か?」


いやまて。ということはもう食事を済ませたということ。

もしかしてもう七時を過ぎているのか?

「やばいッ」と声を上げて宿へと駆ける。

狭い小道を疾走し何度か曲がると広場に出る。その奥の戻り木の宿の前に誰かが立っている。

それはユキさんで、着替えもせずに寝巻の格好のまま神妙な面持ちで眉を寄せていた。


「ユウト君ッ!」


ユキさんはこちらに気がつくと顔をほころばせて胸をなでおろす。しかしすぐに膨れた表情へと変わる。あれは間違いなく怒っている。


「―朝ご飯の時間に遅れてすみませんでしたああああッ!」


俺はスライディングのようにユキさんの足元に土下座をかますと「へ?」とユキから素っ頓狂な声が漏れる。


「あ、ごめん。まだ朝ご飯作ってないのよ。ちょっとばたばたしてて」


「へ?」と俺も声を漏らして顔を上げると「ごめんねすぐに用意するから」と両手を合わせてユキは謝罪する。


「なにかあったんですか?」


フウカも急いでどこかに向かっていた。何かあったに違いない。


「あっ、ええ⋯⋯と」


勇人の問いにユキは言っていいものかと顔を背けて暫く押し黙った後、意を決してこちらを見やると噤んでいた口をゆっくりと開いて言った。


「民兵隊団長のゴウマンさんが何者かに襲われたの」

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