第二十八話「男なら自分の武器が欲しいッ!」
朝街を探検していると謎の黒衣の人と出会う。
何をするでもなくただ立っているそれに反応せず勇人が去ろうとするとねっとりとした声とともに後ろから手が置かれていたのだ。
「離れろッ!」
瞬間、裏拳を飛ばすもそいつはフワッとバックステップで避けると「ククク」と奇怪に笑う。
「いやあ、まだうす暗いこんな時間から出歩くとは。シークリフならとっくに死んでるぜ」
声音からして男。しかしその顔は黒のローブを深く被っていて目鼻立ちは見えない。唯一見えるのは小首を揺する際にギラついたように嗤う口元のみ。
「君、やっぱり武器すら持っていない?ハハッ、やっぱり不抜けだなぁアサガナの連中はよ!」
黒いローブの男はバカにするように笑い頭を押さえる。が、次の瞬間には黒衣から何かを取り出す。
それは胸元につけた銀色に鈍く光る剣の形をしたネックレスだった。
黒いローブの男はそれを引きちぎるように取り外すと目の前で振るう。するといつの間に手にしていたのか男の手にはなんと剣が握られていた。いや-。
「ネックレスが、剣になった!?」
「その通りだぜ」
男はなにやら呟いたあと剣を軽くこちらに投げる。それは勇人の目の前でガランガランッと音を立てて地面に転がる。
「それを銀貨数枚でくれてやるよ」
男は「ククク」とまた面白そうに笑って口元を歪ませる。
「はぁ?なんだよ急に」
男の発言に反射的に答えつつも武器から距離をとる。
万が一これが爆弾だとしたら危険だ。
「お前の思っているようなもんじゃねぇから安心しな」
男は俺を見透かすように笑ってこちらを指さす。
「ククッ、お前さっき武器を買う金すら無かったろ?見てたぞ」
「俺を追ってきたって言うのか?」
とにかく気持ち悪いな、こいつ。
勇人は額に汗をかきながらもそいつから視線を離さない。
そんな俺を見てへらへら笑う男は地面に転がる剣を指さし「取れよ」と命令してくる。
「お前が投げたんだ。お前が取ってこっちまで持ってこい」
勇人の背中を冷たい何かが伝う。
虚勢を張っては見たものの、身体は正直に反応してしまう。
「おいおい。そんなに怯えんなよ⋯⋯まぁ、いいや」
男は「たくっ、たりーなぁ」とボヤいては剣を手に取るとこちらに向かってくる。
距離にして五メートル。数秒で男は目の前まで来たはずだったがえらく長く感じた。
「おらよ。気に入るかどうか」
ズイッと突き出される剣を勇人は怪しみながらも手に取ると念入りにチェックする。だが変わった様子は見られない。多分?剣自体持ったの初めてだしな。
「そいつは”簡易武具剣”と言って⋯⋯まぁさっき見てもらったとおりネックレスがそのまま武器となる代物だ。通常五分しか剣の形を維持出来ないが、自身の魔力によって半永続的に使えるってのも魅力よ。ネックレスに戻したいなら手から離せば戻る」
よく見ると剣の柄の部分から紐が伸びている。その先端には鉄製の何かが付いていた。
「それは磁石でネックレスの時に手で強引に引っ張って取り外してすぐに闘えるし、手から離せば元に戻るからあとは後ろで磁石を止めたらいいだけ。どうだ?欲しくないか?」
-怪しい。けど欲しい。いや、怪しい。
喉から出かけた剣の欲しい気持ちをごくりと生唾と一緒に奥底にしまい込んで冷静に判断する。
こんな機能性に優れた物が銀貨数枚?
いくら普通の剣だからと言っても使い勝手が良すぎる。
「なんで会ったこともない初めての俺にわざわざそんな事をまでしてくれる?」
勇人は突き刺すような視線を向けるが、男はふざけたように笑って飄々と躱す。
「たまたまさ、たまたま。近くにいて、たまたま君が武器を欲しそうに眺めていたのを見たから声を掛けたってだけ」
「俺は本気で走ってまぁまぁな距離離れたと思うが、わざわざそれを追ってきたとでも?」
「君はぐるりと同じところを何度か回ってたぜ?気付かなかったのか?」
そういえば自分は方向音痴なのを忘れていた。
「俺としても金に困っているから、買ってくれると嬉しいんだぁ。アサガナ付近は平和だと言われているけど、備えはあった方がいいだろ?」
男は手を往々にしてわざとらしく広げる。
こいつの意見には一貫性があるから適当を言っていないのはわかる。
「お前をいまいち信用できない」
勇人はきっぱりと言い放ち、それでも剣からは手を離さない。
もし今襲われたとしてもこれで応戦すればいいだけ。
男から渡された物だから何かありそうで怖いけど。
「ククク、そんなに物欲しそうな顔をしてよく言う。いいだろう、本来なら金貨一枚でも帳尻合わねぇ。だが今回は巡り合わせがいい。銀貨八枚でやるよ」
―こいつ。人の足元見やがって。
「さては露店での俺と店主のやり取り見てたろ?」
だが男はニタりと笑った表情のまま答えない。
「どうだよ?買うの?買わないの?」
-欲しい。
異世界に来て自分専用の武器が欲しい。
そもそも魔法発生イベントすら終わってないのによ。
気付けが脳が勝手に口から思考を垂れ流していた。
勇人は銀貨八枚を男に放り投げる。
「買った」
数秒は考えたつもりだった。
実際には一秒とて経っていない。
「まいどッ!」
男は今まで以上に口角が上がりニカッと笑った気がした。
銀貨を手にした男は空中に放り投げては落ちる前にキャッチすると「これからもご贔屓に」と抜かすとこちらに背を向けて去ってしまった。
「買ってしまった⋯⋯」
勇人は後悔の念とは真逆の興奮により声が震えていた。やっと自分の武器が手に入った、と。




