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第二十六話「今の実力」

勇人の挑発にフウカは民兵隊の顔を見せる。

お互い不可視の火花を散らしていざ、戦いへ。

その言葉を合図に互いに構えたまま間合いを測るように距離ができる。

その距離およそ五メートル。互いに踏み込まないと掠りすらしない距離。


「ユート君。始まってから言うのもあれだけど、剣は初めて?」


「げっ」と俺は心の声が表に出てきてしまう。


「なんでそんな事わかるんだよ」


「基本、剣は両手剣を除いて片手で構えるもの。なんの為に両刃があるのか分かるでしょ?」


そう。刀とは違い両側に刃が存在する。それは片手に剣、もう片手には盾を持つ場合が多いから。

片手で握る分自由度が利く利点を活かして斬る、叩き切る等の技が豊富。

それに比べて刀は片面しか刃が存在しないし両手で握る分自由度は低いが両断することに長けており、なにより片手より速い。


「とりあえずはいいんだよ」


勇人は本来ならおかしい剣を両手で抱えたまま答える。

いざとなったら片手に持ち替えて対応する。やったことはないけど。


「ふーん⋯⋯わかった」


フウカは静かにこちらを分析するように見やる。

勇人も同時に分析するように集中すると、フウカの片方の足を前に剣を後ろに構えた。

確かに剣先が見えずに間合いは測りづらいが互いに距離が離れている。当たらない。

そう思っていたから反応が遅れた。

フウカは剣を杖のように振るいこちらに剣先を伸ばすとブワッと何かが飛び出して勇人に迫る。あわやというところで回避すると、それは上空に捻じれ渦のように昇り数十メートル上空で飛散する。

空間を切り裂きながら進むそれは風の魔力-フウカの力だった。


「-って、魔力ありかよ!?」


「もっちろん。民兵隊になるんだから危険と隣り合わせ。このくらいは対処してもらわないとね♪」


ニコッと無邪気に笑うフウカが初めて恐ろしく思えた。


「そりゃ、もう一発ッ!」


ポップな声とは裏腹に放たれた一撃は先ほどよりも大きく、今度は勇人の横を擦過し薄く頬を切り裂いていく。畜生、反応したけど完全には躱しきれないか。


「うーん、やっぱりレイピアじゃないと難しいなぁ」


悲しそうにしょぼんと顔を伏せるフウカにぞっとする。これでもまだ全然力を抑えているってことか。


「なんだよ。普段はレイピア専門なのか?」


「うん。でも鍛錬は木剣で行うよ。いついかなる時もレイピアがあるわけじゃないから」


ゲリラ戦に備えての鍛錬も欠かさないってわけか。本当にすごい奴だ。


「だからこそ勝ってみたいなあああッ!」


俺は咆哮を上げながら構えを解き、両手から片手に持ち返ると翻弄するように左右に振って迫る。

剣先から放たれる風の威力は見た感じ俺の力ではどうすることも出来ない。なら接近して剣が勝負を分かつ世界にするまで。


「もしかして剣先からしか出せないと思ってる?」


刹那、フウカが振り下ろした剣から突風が巻き起こる。


「なっ、なにい!?」


それは地面を抉り天にも届きそうなほど高密度で高い竜巻-もはや自然災害の域。


「こ、これは-」


「ふふん、どんなもんだいっ」


誇らしげに見せつけて鼻を高くするフウカ。凄まじい威力に近くにいる俺の身体も吸い寄せられる。


「ちょ、これ!宿とか大丈夫なのか!?」


「大丈夫っ!そっちには行かないから!それよりも負けを認めない?」


「にしし」と子どものように悪戯っぽく笑うフウカ。完っ全にこちらを舐めているだろ。


「まだっ⋯⋯負けてねえ⋯⋯ッ!」


だがこの竜巻に吸い寄せられて動けなくなっているのも事実。なんとか踏ん張ってはいるものの時間の問題だ。どうすれば⋯。

ふと、もう眼前に迫る竜巻に目をやる。これを使ってみるしかない。


「どーするー?負けを認めるー?もう少しで竜巻消えちゃうけどもうへとへとでしょー?」


竜巻のおかげでフウカから俺の姿は見えない-チャンスだ。


「すぐにそっちに行ってやるよッ!」


勇人は全力で身体を竜巻から引き離す。やっぱり抜け出すまでには至らないか。いや、今は逆にそれがいい。

勇人は限界まで引き離した身体を今度は竜巻めがけて駆けだす。すると凄まじい速さで身体は引っ張られる。

フウカが放った竜巻は一方から引っ張られているように見えて巻き取るように俺の身体を寄せている。ならその流れを逆に利用すれば-。


「おおおおおおおおッ!待たせたなあああッ!」


竜巻の力で超加速した勇人は弧を描きながら竜巻を突破-フウカへと迫る。

これは相手も予想できまい。思わず口角が上がる。

しかし不意打ちとなるはずの攻撃はフウカが眼前に現れたことで瓦解する。


「わおっ!?やっぱりそうきたねッ!」


「なっ-」


フウカはこちらが来ることを予期していたように迎撃の為に竜巻の陰から踏み込んできていた。

更に悲しい事にフウカの剣はもう振り始める直前だ。

当然そこから動いていないと思っていた勇人は反応が遅れる。


「-おおおッ!?」


瞬間、横薙ぎに振るわれた剣は少女とは思えない神速。身体をも捻じって生まれた力はもはや人の膂力ではどうにもならない。

咄嗟に防御と剣を前に出すが、生半可な構えが通用するわけもなくあっさりと勇人の剣は弾き飛ばされる。


「うお-」


言い終わる時には眼前にフウカの切っ先が向けられていた。

完全に勇人の敗北。降参と両手を空に上げて「ハハッ」と半笑いがこぼれた。こりゃだめだ。


「⋯⋯うん、うん。うんッ!良いッ!良いと思うッ!」


するとフウカは冷たい表情からパッとした笑顔を見せて剣を置くと勇人の両手をガシッと掴む。


「さっきの攻撃。そもそも殆どの人は対応できずに土手っ腹に一撃なんだけど。ユートくんは反応してきて、まさか剣で応戦までされるなんて思ってもいなかったよ!」


「あっ、いや⋯⋯あれは前に出せただけで-」


「それにそれにッ!竜巻だって皆飲み込まれるから今回も解除しなきゃって思ってたのに、まさか抜けてくるなんてね!びっくり!」


全く。軽くあしらっておいてどの口が言っているんだが。


「その割にはしっかり対応されたけどな」


嘲笑気味に答えると「そりゃあ仕方ないよ」とボヤかれる。


「私エルフだから風の流れに敏感なんだよね。だから竜巻のところで風が揺らいだから、あ、これ来るなって」


空間を支配するほどの竜巻の中、風すら読んでいたのか。

これほどの者ならグリムを倒す事に納得だ。全く恐れ入る。

それにさっきの攻撃。やはり腕力だけでなく身体全体で振っている。まるで一つの大きな剣のようだった。


「クッソ⋯⋯まだまだ全然足りねぇな」


勇人は「あ~ぁ!」と地面に寝転がり空を仰臥する。空は未だ太陽が昇る時刻には程遠く、曇天の空模様はまるで俺の心情を現しているようだ。


「にししっ、どんなもんだいっ!」


エッヘンと威張るフウカの身体は汗のせいでぴったりと肌に張り付きそのラインを露わにする。

そして悲しいかな、胸を突き出されたフウカの胸は少し前に出るくらいでそれ以上は何も無いに等しい。

こんな幼児体型の子に負けるなんて。それがまたショックを加速させる。


「はぁ⋯⋯まさかロリに負けるなんてな」


「ロリって言うなぁっ!」


ぽかぽかと殴ってくるフウカを無視して勇人は空に手を伸ばし拳を固める。

分かってはいたが、挑んでみていざ目の当たりにすると嫌でも来るものはある。

力も。応用力も。体幹も。そして精神性も。

全てにおいて彼女に勝っているものが無かった訳だ。

だけど驚かせるものがあったのは今までの努力の結果だろう。


「これからだな。本当に」


今までやってきた事が無駄だったわけじゃない。

俺はもっと強くなる。

そして-今度こそ、グリム勝つ。


「無視するなあああッ!」


⋯⋯放っておこう。

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