第二十四話「挑発」
眠って覚めればまだ異世界。
夢ではないこの世界で自分は生きたいと再確認する。
いつの間にか眠っしまっていたのだろう、何かの物音が微かに聴こえて、瞑っていた目を開けるとうす暗い世界が勇人を待ち受ける。
昨日の事が頭に浮かんで「ちっ」と小さくぼやいては時計に目を向けると五時半を指していた。
習慣とは凄いもので、アラームをセットしていなくても体のリズムが起こしてくれる。窓の外に目をやると部屋同様まだうす暗い。
普段ならこの時間、このくらいの明るさでも問題なくさっさと木刀を手に取り素振りに行く。
だがここは異世界。自前の木刀も無ければ何万回素振りをやったってグリムには歯が立たない。
勇人は盛大にため息をこぼして二度寝でもしようかと布団に手をかけるとまた耳が音を捉える。
音に集中するとそれは人の声をようで「フッ、フッ」と気合の入った声音が聞こえてきた。
勇人は誘われるように部屋を後にして宿の外に向かうと声の主がいた。
ピンク色のキャミに赤いスカートと昨日見た格好と何ら変わらないフウカは、まだ日も昇らないうす暗い世界で木剣を振って鍛錬していた。
フウカの顔は汗まみれで服は肌にぴったりと張りついていた。
地面には汗で水たまりが出来そうなくらいになっていて、それでも構うことなくフウカはまっすぐ頭に想定した仮想敵に向かい木剣を振り続ける。
一体何時からここで鍛錬をしていたんだ?
あんなになるまで。下手したら五時前からだ。
よくみればフウカが振っている木剣は切っ先が丸く大きく膨れあがり、普通よりも重いものに見える。
それをフウカは体軸も剣も一切ブレることなく、一撃一撃相手を仕留める剛剣を魅せる。
体つきは至って普通の小学生と変わらない細さ。それでも勇人よりも明らかに破壊力のある一撃は空間を切り裂いて爆ぜる音が木霊する。
「すごいな、まじで」
俺の声が聞こえたみたいで「ほえ?」とフウカの視線がこちらを捉えるとパッと頬に朱の華を咲かせる。
「ユ、ユートくんっ!?いつからそこに!?」
フウカは「あわわ」と木剣を落として明らかな動揺を見せる。
「さっき。部屋にいたら声が聞こえてな」
「起こしちゃった?」
「いや、俺もこの時間くらいに何時も起きてるからよ。逆にごめん。集中斬らしちゃって」
「ううん、ちょうど休もうと思ってたところだったから」
フウカは大きく深呼吸して膝に手を付く。
俺はツカツカとフウカに近づくと地面に転がる木剣を拾い上げる。
「ーっぐ、おもッ!」
片手で持ち上げようとしたのが仇となった。手首があらぬ方向に曲がりかけて思わず両手で支える。なんだこれ。普通のよりも数倍重い。
こんなのをフウカは片手で振っていたというのか。
「あーあーだめだよそんな持ち方したら。手首痛めちゃう」
ヒョイっとフウカは俺から奪い取ると涼しい顔したまま片手でそれを構える。
「手首はあくまで離さないようにするだけ。打ち込み肩からだよッ」
そう言って放つ一撃はあれだけ鍛錬をした中いまだ衰える事を知らずに風圧を起こす。
今フウカの肩が倍くらいに隆起していたのを勇人は捉えた。
「肩から、か」
「ほええっ!?」
気になってフウカの肩に触れてみると予想に反してとても柔らかい。てっきり筋肉によってガチガチに固いものと思っていた。
「なるほどな。この筋肉の柔軟性が剣を振りかざすのに一役買っているのか」
もみもみ。ちょっと揉み心地が良くなってきた気がする。
「あっ、あうう・・・」
フウカはまた顔を真っ赤にさせてはどうすることも出来ずに顔を伏せる。
そんなことも気づかない勇人は肩や腰、そして脚と触れていく。
「腰もしなやかで細いけどよく引き締まってる。脚もいいバネしてるしそれに-」
「-って、いつまで触っているんですかッ!」
耐え切れずにフウカが身を捩ってその場を脱出。それにより勇人はハッと我に返る。しまった。つい強さの秘密に夢中になって相手は女の子ということを忘れていた。あとは小学生のような見た目のせい。
フウカは耳まで真っ赤にさせて「私だって17歳で年頃の・・・ごにょごにょ」と呪詛のように繰り返していた。何度もすいません。そういえば年上でした。
「純粋にすごいなって。流石は民兵隊だな」
「へへんっ!これでも”副”団長だからね!そういえばユートくん入隊希望だっけ?」
「へ?」と声を漏らす俺にきらきらと目を輝かせて期待を寄せるフウカ。
「昨日の話!入隊したいとかなんとかっ!」
「いや、フウカってどれくらい強いのかって気になっただけで⋯⋯」
そこまでは言ってなかった気がするが⋯⋯まあいい。
「⋯⋯それって、仮にフウカに”勝った”としても条件を満たしたことになるのか?」
俺はふとした疑問を視線を落としてそう問いかける。半分は冗談。でももう半分は本気だ。
それは幸か不幸か淀みなくフウカに伝わる。
「もしかして、”勝てる”って思われちゃった?」
フウカから放たれた声はいつもより少し低く聞こえた気がした。
顔を上げるとさっきまでの少女のような幼い顔は無く、そこには一人の剣士がいた。




