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第二十一話「食事レイド」

料理を待つ中、暇で辺りを見渡すと目が合ったフウカ。

その格好は実家さながらで、顔を真っ赤にするフウカと小学生くらいの体にどうも思わない勇人。

なんとも思わず話しかけているとフウカに限界が来て逃げてしまうのだった。

「よーしっ、出来たよ~」


その声にいつの間にか机で寝ていた勇人は身体をビクッとさせて顔を上げる。


「ヒェッ⋯⋯お、おはよ」


目の前にはピンク髪のエルフ-フウカが座っていて俺の顔を見るなりサッと視線を逸らす。


「あぁ、おはよ⋯⋯」


まだぼやける視界に目を擦りながら壁の時計を見るとジャスト19時を指していた。手続きの際に言っていた時間通りだった。


「ふふんっ、お姉ちゃんは正確なんだよ」


さっきとは違い誇らしげに鼻を鳴らして胸を張るフウカは「あっ」と声を漏らしてすぐに椅子にうずくまると、頬を赤らめてキッとこちらに膨れた顔で睨みつける。


「おいおい、どうしたんだよ」


「やれやれ、やっぱり勇人くんは乙女心がわかってないなぁ」


ユキさんはフウカに濡れた布巾を手渡すと慣れたように机を拭きはじめる。すると大きく手を動かすせいでフウカの白いワンピースの胸元が重力落下によりなにか見えそうになる。

勇人は咄嗟に目を逸らしてあらぬ誤解をされぬよう務めるが遅かったようだ。

チラりと視線を戻すと拭き終わったフウカは顔を真っ赤にさせて、またこちらを睨みつけては両腕を組んで胸元を隠していた。


「⋯⋯不可抗力だ」


言い訳じみた言葉が目の前の女の子に届くはずもなく。


「⋯⋯エッチ」


理不尽だ。


「はーい、どいたどいた~!」


フウカが立ち上がると同時に目を輝かせて「わぁっ」と可愛らしい声を上げる。


「お姉ちゃんの料理っ!料理~っ!」


「はいはい。フウカは先に布巾を調理場に片してね~」


テンションが上がるフウカを宥めてテーブルに料理が運ばれる。それはゴロッとしたお肉が入ったビーフシチューだった。

テーブルに置かれた瞬間、勇人の鼻を美味しそうな匂いが通り思わず声を上げて空気すら頬張ってしまう。それがまた見覚えがあるものだから余計に腹が減る。

そういえば今日のバイト先で出されたのも普段口にしているものと何ら変わらないものだった。


「次々運ぶからね~」


そう言って次に出されたのはカリッカリに焼かれたフランスパンのようなもの。このビーフシチューと合わせたら最強だろう。


「はーい次~」


次は付け合わせの葉物野菜の盛り合わせ。その次はトマトのパスタジェノベーゼ⋯⋯ってあれ?また炭水化物系?というか-。


「-多くない!?」


ドンッ、ドンッと置かれるテーブルにはもうギッチギチに料理の皿が出されていた。


「お姉ちゃん料理好きだから沢山作っちゃうんだよ~!」


いやいやそんな生易しいものじゃない。

一品一品の量も店で出されるものよりも遥かに多い。

見ているだけでお腹が膨れていく気がする。


「よーっし、これで全部かな」


出された品は到底4人で食べ切れる量じゃない。


「二階堂は?」


「ミカちゃんは寝てるみたいだから先に部屋の前に置いてきたよ」


なら実質3人で挑まなくちゃいけないわけか。俺はゴクリと目の前の事実に生唾を呑み込む。

二階堂は大丈夫なんだろうか。


「心配なのも分かるけど、今はそっとしておいてあげていいんじゃない?」


顔にでも出ていたのかユキさんに見透かされてしまった。


「私もミカちゃんと食べたかった⋯⋯」


悲しそうにこぼすフウカにユキさんは「今はだーめ」と諌める。


「とりあえずは自分優先で良いと思うよ。今は放っておいてほしいだけ。さっ、食べようか」


「「-いっただいまーす!」」


元気よくいただきますと手を合わせて食事を始める。

何から食べようかと勇人は目の前の料理を吟味する。


「ビーフシチューはゴロッとして腹に貯まりやすい。かといってパンやパスタは炭水化物⋯⋯だめだ、何から食べていいのか」


くそぅ。美味しそうだけど全て食べ切れる気がしない。まるで夜飯レイドだ-夜飯レイドってなんだよ。


「あ、言い忘れていたけどちゃんと全部食べてね♪」


さらにユキさんからの一言で希望が絶たれる。


「⋯⋯もしかしてこの宿が一人銀貨一枚の理由って」


「そっ、ちゃーんと食べてね?」


一瞬、ユキさんの目が冷たく光った気がした。

ますます何から食べようかと迷っている俺とは対照的に、フウカは目の前のビーフシチューとパンを交互に頬張って食べていた。


「ん~っ、やっぱり美味しい~っ!」


フウカはその小さな頬が蕩け落ちそうなほど美味しさに悶える。

一方ユキさんはビーフシチューに口をつけてゆっくりと味わっていた。


「ごめんごめんユウトくん。煽っちゃったけどゆっくり味わって食べていいからね?」


まだ何も口にしていない俺にユキさんは気付いて優しく微笑む。それならと俺も一番気になっていたビーフシチューに手を伸ばす。

フォークをお肉に当てると弾かれたように柔らかく弾力があり、押さえた部分から肉汁が溢れでて一気に食指が動く。あぁ、だめだ。

もう、どう食べ進めようかなんてどうでもよかった。

勇人は口に運ぶとそれを噛みしめる。


「ーッ!?」


溢れでる肉汁が口の中で弾けて広がっていく。そこから封じ込まれていた香りの爆弾が一気に口の中で爆発して鼻を通過していく。

まるで高級レストランのようなそれに勇人の涙腺からゆっくりと一筋の涙が流れる。


「⋯⋯美味い」


そこからはもう無我夢中で口に掻き入れた。


「美味しいっ、美味しいッ!」


勇人にもこの世界に来て溜まっていた不安やストレスが気付かないうちに一定数あったのだろう。それがちょうど今の食事で爆発し、まるで元いた世界と同じように味覚を取り戻した気分だった。


「だっ、大丈夫⋯⋯?」


「そっとしておいてあげましょ」


若干引き気味のフウカとユキさんは悟っていたように自身の食事に没頭するのだった。

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