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第二十話「年頃だよ?」

宿に帰るとエルフの女の子に出会った勇人。

興奮気味に話し掛けてい世界なんだとまた強く思い、感動するのだった。

勇人は椅子に深く座り目の前の机に突っ伏して目を閉じる。

ユキさんはカウンター奥の台所で料理を作り、フウカは落とした洗濯物に自分の汚れた服を加えてまた洗い直していた。

忙しそうに動く二人に「何か手伝おうか?」と声をかけたが客人だからと遠慮されてしまった。

時間があったので先に風呂によばれて出てきたがまだ時間を持て余している。

かといって部屋に戻れば着替えたこのネグリジェが温かく身を包んで眠りに誘うだろう。

ということでここに残ったのだがー特にすることがない。

残された選択として取った行動は”寝たふり”。

これは変人やら厨二病乙など言われた中学生の頃に編み出した時間つぶし。持ってきていたラノベを読み終わり、本っ当にやることがなくなった時の究極奥義。

こうすることで、あいつ一人で可哀想と思われる事を防ぎ、話しかけづらい雰囲気を纏うことが出来る。

皆にも、あいつ寝ているからというレッテルを張り付けることで、これ以上でもこれ以下でもない存在となりぶつくさ言われない。

一人が寂しいとかないが、学校生活を円滑に送る為の方法・・・なのだが。


やっぱり暇なことには変わりないので。


徐ろに勇人は頭を起こして何かないかと辺りをぐるりと見渡す。するとちょうど洗濯物を終えて、次は自身の金属板の胸当てをと抱えて歩くフウカと目が合う。

フウカは俺が寝ていると思っていたのか水色のキャミソールに水玉のパンツとまるで実家のような格好でそこにいた。


「あっ!うぅ⋯⋯」


フウカはみるみるうちに顔を真っ赤にさせて茹でだこのようになる。


「俺の服、洗ってくれてありがとな」


「あっ?ええっ!?」


ちょうど暇をしていたからと、勇人は恥ずかしそうにしているフウカの事などつゆ知らず歩み寄る。ええ、来ちゃうの?といった表情をしているなんて、人と接する機会があまり無かった勇人には残念ながら読み取れない。


「さっきも思ってたけど、胸元プレートだけって心許無くないか?」


胸元プレートをつんつんと触ると硬い金属がへっちゃらと言わんばかりに跳ね返してくる。だが層は一センチの厚みも無く、あの”グリム”の一撃を受けた後だと頼りなく感じる。


「え、えと⋯⋯あくまで攻撃は受けないのが前提でそれよりも機敏に動けるように機動性の確保を⋯⋯ごにょごにょ」


フウカはなぜか顔を伏せるので声が聞こえなくなった。覗き込むのも失礼かと見えたフウカのピンと横に伸びる耳に視線を落とすと真っ赤に染まっていた。


「ん?なんて言った?」


「⋯⋯なっ、なんでもないよぉぉぉぉおおおお!」


おおよそ瞬間湯沸かし器のように真っ赤に顔を染めたフウカは限界に達したように弾かれてお風呂場へと駆けていった。フウカの頬から光る数滴の雫を残して。


「な、なんなんだ急に」


勇人は頭を掻いて「うわーん」と子どものように泣きわめいて去っていったフウカの背中を見送る。


「勇人くん⋯⋯あれはないよ」


つんつんと突つかれた背中に振り返ると、いつの間にか近くにいたユキさんが冷ややかな視線を向けていた。


「えぇっ、俺ですか!?」


「そうだよ。君だよぉ?」


すると椅子の後ろからユキさんに両手を回されてギュッと抱きしめられる。そのせいで大きめな胸が背中に押し付けられて勇人の心拍は急激に唸りを上げる。


「ユッ、ユキさん⋯⋯」


振り払おうにも優しい抱擁はそれを許さない。耳にかかるユキさんの吐息も相まって勇人の思考は定まらずぐるぐると脳内を駆け回る。

勇人は抗おうとするのをやめて身を任し、せめてもと上がった心拍が悟られないよう抑えることに専念する。


「おーい、私も君と同い年くらいだしタメ語で良いよ」


フッ、と掛かる吐息が首筋に触れて勇人はたじたじ。それが面白いのか「ふふっ」とユキさんは悪戯っぽく笑う。


「うーん、私の時はその反応なのね」


ユキさんは艶っぽくも残念そうにこぼすとそっと勇人の背中から離れる。


「ユキさん、大人っぽいからついつい敬語になっちゃうんだよ」


勇人は火照る顔を見られないよう覆いながら言い放つと「ちがーう」とユキさんは否定する。


「あぁ見えても、あの子も同い年なんだからね」


「やれやれ」とユキさんは困ったように頭に手を当てて料理の途中だと調理場へ戻っていく。


「⋯⋯もしかして許可なくプレートに触れたのが良くなかったとか?」


「ちがーう」


調理場からボソリと呟いた勇人の答えを再度否定するユキさんの声。


「あの子だって年頃の女の子なんだからね?」


それを最後にユキさんの調理場は再び忙しさを取り戻す。


「うーん⋯⋯」


腕を組んで見て天井を見上げるがユキさんの言っている意味を最後まで理解することは出来なかった。

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