第十四話「宿を探して」
街-アサガナへと辿り着いた勇人たち。
しかし他の所で”アサガナ”という所は存在せず。
勇人はこれ以上詮索される事を恐れて口を噤むのだった。
人混みを掻き分けて開通していた道を抜けると、大通りを曲がって小さな小道に入っては荷馬車を止める。小道に入ってから気が付いたが中世ヨーロッパのような建物が多く「王道だなあ」と独り漏らした。
「ふう、ようやく静かになったね。ここなら安心して君たちを降ろすことが出来るよ」
ネーチスは近くに乱暴に打ち付けられた木の杭に馬を縛ると荷馬車から梯子を伸ばして「お疲れさまでした」と優しく促す。その声に未だに身体を震わせていた二階堂も反応して状態を起こす。
「ここまで本当にありがとう。助かったよ」
勇人はネーチスから伸ばされた手を掴み固い握手を交わす。実際あの森の中で永遠と彷徨う羽目になっていたかもしれないのだ。屈託のない笑顔で対応する。
俺が梯子を伝って荷馬車から降りると二階堂も続くように降りようとする。
ネーチスは二階堂にも前と同じく手を伸ばした。
「うっ・・・」
だが二階堂は知らないとフイッと顔を逸らして梯子も使わずにそそくさと荷馬車から飛び降りた。ネーチスは残念そうに顔を俯かせた。
「おいおい。不服だからって送ってきてもらったんだから感謝くらいしろよ」
二階堂がキッとこちらを睨みつけると同時に走る腹への衝撃。痛みの発生源を見ると二階堂の肘がめり込んでいた。
二階堂は勇人にだけ聞こえる声で「うざ」と零すと、ネーチスの方を振り返った。しかしすぐに明後日の咆哮を向きながらも「ありがとう・・・」と小さく消え入りそうな声でネーチスへと届けるのだった。
「いえいえ。とんでもない」
ネーチスは顔を丸くさせて驚いては、次の瞬間には今までで一番のクシャッとした笑顔を見せた。
「これからお二人はどうされるのです?」
「ん~・・・とりあえず身体を休めたいし宿探しかな」
ちらりと二階堂に目を向ける。この世界に来てから休めておらず、疲弊しきっていた。それは勇人も例外ではない。
ごそごそと徐ろにポケットをまさぐると、出てきたのは五百円硬貨二枚のみ。期待の眼差しで二階堂を見ると指三本立てた。うーん、ちょっと心元ないな。
「安い宿とかないですか?」
「うー・・・ん。この辺りですと”戻り木の宿”がおすすめかもしれません。大通りから大分離れるので安いですし、ちょうどこの小道を進んで行くと奥まったところにありますよ」
「うし。ならそこにいくか」
「ただー」とネーチスは声を潜めて耳打ちする。
「店主が恐いので気を付けてくださいね」
ゴクリと勇人は生唾を飲み込む。
「あと、店主の妹もやばいですよ。先ほど出会ったゴウマンを数秒で倒してしまう程ですから。くれぐれも気を付けてくださいね」
あんな屈強な男を数秒で?どんなゴリラだよ。
「では。またこの街のどこかでお会いするとは思いますので、そのときはぜひ」
ネーチスは俺たちに不穏なことだけ言っては、再度荷馬車に乗り込み小道を出て大通りへと戻っていった。
「よ、よし。俺たちも行くか。その戻り木の宿ってところに」
少し臆してしまった勇人はわずかに口が震えていた。
そんな勇人を無視して二階堂はさっさと小道の奥へと進んで行ってしまう。
勇人は離れすぎないくらいの距離感で二階堂の後を追った。