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第三章 第四十一話「神器 海鉾トライデント」

勇者VS魔王


勇者の猛攻も魔王には届かず、最大火力でも傷一つつかなかった。

刹那、ネレウスに走馬灯が走る。


「ッ!!?」


理由は明白。それは先程の魔王からは感じられなかった明確な敵意によるもの。


「ぐぅッ⋯⋯」


ネレウスの身体はまるで睨まれた蛙のように自由が効かない。

まるで本能が、魔王に勝てないと言っているようにすら思えた。


魔王はそんなネレウスを嘲り笑うように展開した闇を飛ばしてくる。

恐怖に萎縮したネレウスは一瞬反応が遅れる。


「ぉぉぉぉおおおおおッ!!」


あわやという所で魔力のバリアを展開して押し寄せた闇をはじき返す。


「なんて邪悪な魔力なんだ⋯⋯」


軽く放たれたはずの闇だったが、あまりの膨大な魔力にネレウスの手は痺れた。

それでも全てを防いだつもりだったが、ネレウスの指先が薄紫色に変色していた。


「魔障に犯された身体は壊死すると聞くが、まさかもう⋯⋯」


ネレウスの指先は既に感覚を失い始めていた。

もう握りしめたところで反応が鈍い。


「あんなものがあと何度耐えられる事か」


決死の覚悟で時間を弄して描き放った魔法陣”鳥籠(インフィニット・パニッシュ)”。

光の勇者レドモンド・アッシュベルと講じた必殺技であり、万が一レドモンドが魔王を倒せなかった場合に、俺ごと殺せと言わしめた程の威力だった筈だ。


「くそッ、もう戻ってきた!」


しかし現実は非情であり、魔王は健在。それどころか弾いた闇はぐるりと向きを変えて、またネレウスを狙い手を伸ばす。

それはもはや亡者が生者を喰らわんとするかの如き怨嗟の塊の如き漆黒の闇。

とてもじゃないが、人を辞めない限り捌き切れるものではない。


「くっそぉおおおッ!」


今度は両手を前に突き出してバリアを展開するが、早々に破壊されて身体を通過していく。


「ぐぅぅううううううううッ!」


熱い-いや、痛いッ!

身体の中を、ドス黒いものが広がり侵食していく。

内側から破壊されてきているのが分かる。


見れば、自分の身体は少し黒いものに変色し始めてきていた。

これ以上はまずい。


「ならば-」


-攻撃は最大の防御。


痛みで霞む目を思いっきり開けて、目の前の魔王を気力で睨みつける。

魔王は既に次の攻撃を飛ばしていた。


「オオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」


視界を埋め尽くさんばかりの闇がぶつかる。

どこを見ても闇、闇、闇。

唯一、ネレウスの両手のひらから放たれる魔力だけが、希望の光だった。


押し返されたら負ける-死ぬ。


ネレウスは両手のみに魔力を集めることで、魔王の闇をどうにか四方へ散らしていた。

だがそれももう数秒と持たない。


「ッ-⋯⋯⋯⋯ダメかァッ!」


刹那、懐から伝達水晶が煌めき出す。伝言が入ったのだ。

ネレウスが手に取れない事を知ってか、それはひとりでに喋り出す。


「遅くなりました!王都中の民の移動完了致しました!」


「何ッ!!?それは本当か!?」


それはネレウスにとって本物の希望の光に他ならなかった。

ネレウスの両手のひらから放たれる魔力が少し強くなった。


「はい!ですので”神器”が使えます!」


ネレウスはニタリと口角をあげた。


「そうか⋯⋯ご苦労だった」


ネレウスは魔王からの攻撃を命からがら四方に散らして、さらに上空へと舞い上がる。

すると遠いからか、魔王は諦めたように攻撃を止めて城の方へと首を動かした。


「魔王もこの力を感じているのだろうか」


そんな事はどちらでもいいとネレウスは見下ろして、改めて”(まおう)”を見据える。


「王都アクアシア、アクアシア大陸の為に!この身を粉にしてでも魔王を打ち倒すのみ!」


ネレウスは当初から掲げた誓いを叫び、城の方へと手を伸ばして力強く叫ぶ。


「来いッ!我が”神器(しんぞう)”!海鉾トライデントォォオオオオオオッ!!」


刹那、呼応するように王都アクアシアが地鳴りを起こす。


震え始めたのは災いの兆しか、はたまた奇蹟の前触れか。それを知るものは水の勇者ネレウスをおいて他にない。


それでもネレウス以外、この事象を災いか奇蹟か知る由もないと言うのに、一方的に繋げられた伝達水晶からは潰えることのない歓声が上がっていた。


そして遠雷の如き衝撃が、城を突き破って上空に飛び出す。


何事かと思えば、打ち上がった”何かが、無数の瓦礫を置き去りにしてこちらに神速で飛来-ネレウスの手へと、まるで主の元へと還るように吸い寄せられる。


「-では」


手に触れる直前、ネレウスから怒りや焦りの感情が消え失せた。


刹那、ネレウスの魔力が爆発的に跳ね上がり、再び勇者である証拠の黄金の瞳が輝きを取り戻し、王都を暖かくも神々しい光で照らしだす。


背後には後光の如き”太陽(ダヴナ)”を羽衣のように纏いて神の使いとも思わせるオーラを放ち、握られた黄金色の輝きの中、宝玉のような青をあしらった鉾-神器トライデントは、ネレウスと共にあらんと呼応する。

それを手にしたネレウスの雰囲気は勇者ではなく、もはや神そのもの。


「-慈悲を与える」


慈しみを両眼に宿したネレウスは、神言を呟き聖裁を開始する。

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