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第三章 第三十七話「お前に殺し合う意思はあるか?」

所変わって勇人は城の中を一人歩いていた。

妙に静かだと思えば、玉座の間には騎士団が無惨にも殺られてしまっていた。

恐る恐るその玉座の後ろに続く空間に出れば、不敵に嗤うライドが構えていたのだった。

「ちぇっ、もたもたしてたからかな~。おっかしいなぁ~、入れないようにカーテンを掛けた筈だが⋯⋯まぁいいか」


そうボヤくライドの視線は落ちるも顔は笑ったまま。


いつもと変わらない-その筈なのに。


「なんだよ、その笑顔⋯⋯」


もうその顔が普通に映らない。不気味に感じる。

まるで貼り付けたような笑顔のような狂気を感じる。


ライドは後ろ手を回し、まるで近場の小石を蹴りあげるように足を遊ばせてこちらに歩き始める。

おもわず勇人は身構えるも、ライドは歩みを止めない。

それどころか口笛まで吹きやがった。


「この一ヶ月で五大推進円柱を二つ破壊した。あとは一つ破壊すれば終わり⋯⋯と思っていたんだけど」


ライドはそこまで言って口を閉ざすと、綻びから「プッ」と笑いが漏れ出す。


「⋯⋯何がおかしい」


「いやだって!そうかお前解らないんだっけ!?魔力を察知出来ないんだったなぁ!?まぁでも繋がってるから俺の場合は”感知”なんてしなくても分かるんだけどさ!」


ライドの笑いは止まらないどころか増していく。

大きく両手を広げてピエロの様な嗤いを見せる。


「この城にある五大推進円柱以外の二つ。それを攻めていた仲間が簡単に殺られてしまってさ!」


そう言い終わるとライドは堪えきれずに「ハハハハハッ!」と城内に響き渡る声で大笑いした。

こいつ、自分で説明しておいて、状況が見えていないのか?


「つまりお前がピンチって事か?」


「ハハハハハハッ!おまっ、そんなに笑わせるなって!」


遂にライドは地面に膝を付いて腹を抱えて笑った。

目には笑い涙を浮かべて、「ヒィッ、ユウトってマジで⋯⋯ヒィ-⋯⋯」と過呼吸を起こしてしまう。


「言ったろ?五大推進円柱は全部で五つ。半分以上-三つ破壊すればこの王都アクアシアは墜ちる。で、それはこの城にもあるって話だったよな?なら簡単じゃねぇかよ。この城の五大推進円柱を壊してしまいだ」


ライドはようやく立ち上がるも不敵な笑みを止めない。


「この一週間で城内は大体把握。しかし見つからず。最後、探していないのは玉座の後ろだけ。なら、ここにある柱を全部破壊してしまえばいいだけ」


ライドはつかつかと、また歩みを始める。


「この英雄生誕祭。騎士団が殆ど警備に駆り出され城には居らず、居るのは極小数の騎士団と信用された者-今の時間はルミナスだったか?そいつも排除して全て片付けたつもりだったが⋯⋯まさかお前が現れるなんてなっ」


ライドはまた吹き出しそうになる口元を抑えた。


「なっ、何がおかしいんだよッ!お前の言い分じゃ、今頃全滅なんじゃないのか!?勝ち目は-」


「だから笑わせるなって!」


「ギャハハハッ!」とライドは汚らしく唾を飛ばして嗤うと吠えた。


「現れたのかお前程度なら簡単だろ!?一捻りも要らねぇ、瞬だ、瞬!どうやってカーテンを抜けたのか知らねぇが誤差なんだよ!」


「あぁ!?」


確かに俺はライドに勝ったことは無い。

何度か喧嘩をしたが、ライドは手を抜いているようにも見えた事があった。


「だけどお前とは引き分けた事しかないぞ!」


随所随所、総合的には負けているだろうが根性では負けてないはずだ。


「俺はそんな事を言ってんじゃねぇよ」


ライドはさっきまでとは打って変わり、能面のような顔をこちらに突きつける。


「殺せるの?俺を」


そしてまるで息を吐くように呟いた。


殺す?

ライドを?

何を言っているんだ?


不意に出た言葉を飲み込めずにいる俺に、ライドの畳み掛けるように小首が縦に揺れて肯定する。


「そう。見てきたじゃんさっき」


「ほれ」と俺の後ろに首をしゃくれば、脳裏に先程の光景が浮かんでくる。

飛び散った人であったパーツが、頭にこびり付いて離れてくれない。


「ウッ⋯⋯」


思わず口元を抑える俺に、ライドは鼻を鳴らす。


「あれをヤッたのは俺だけど-お前にあんなことできるの?」


つまりライドは俺を殺せるのかと聞いているのか。


「そんなこと⋯⋯出来るわけない」


気付けば歯を鳴らして拳を強く握りしめていた。


「だろうな。ならさっさと回れ右して帰れば?」


「えっ?」


「俺もできるだけ殺したくない。無駄に死体が増えるのも面倒だしな」


「だ、だけど-⋯⋯」


ライドから逃げてしまえば、王都は堕ちてしまう。

かといって友達と殺し合いだなんて⋯⋯。


「あぁ、もしかして他に助けが来ると思ってるなら期待しない方がいいぜ?どうやら外にドス黒い魔力が溢れてきたみたいで、水の勇者も他の人もそっちに掛かり切りだ」


ドス黒い魔力⋯⋯もしかして天なのか?


「つまり一騎討ちって事か」


「そ。俺とお前の”一体一(タイマン)”ってわけ。だが勝負になるかなぁ?その分だと、人を殺したことなんて無いんだろ?それも友人の俺だ?無理だろ?だけど俺はお前と違って殺す事に躊躇いないぞ。それが例え友人だったとしてもな」


ライドの今までの笑い方は変わらない。

目の前の彼は本気で俺を殺しにくるだろう。


「出来るのか?お前に?」


ライドはこちらを強く射抜く。


「⋯⋯⋯⋯出来ない」


-だけど俺が止めなきゃ、王都は終わる。


「王都が墜ちようがお前には直接関係ないだろ?だったら-ッ!?」


頭が、まるでかち割れるような痛みを覚える。

握る拳からゆっくりと力が抜けていくのを感じる。


殺し合いなんてしたいわけがない。

それも気心許した友人、友人なんだ⋯⋯友人なんだよ。


-だけど。


「-俺はネレウスさんと約束したんだ」


俺は再び強く、より強く握りしめる。

歯を食いしばってライドを強く睨みつけた。

ライドの表情が、一瞬だけ悲しそうに見えた。


「馬鹿野郎ッ⋯⋯。まっ、嫌って言っても逃すつもりはないけどな」


ライドの瞳は冷たく見開かれ、ナイフを取り出して構える。

呼応するように俺の手はネックレスに。だけどその手は震えて上手く握る事が出来ない。


また心に迷いがある。

ライドを殺す?なんてそんなの考えられない。


-だけど。ライドを止める為に振るわなくちゃいけないなら、俺は迷わずにこの武器を振りかざす。


刹那、決意を固めた勇人の目はカッと見開かれ、剣を展開する。


「お前を止めるよ!ライド!」


その張り上げた声に、ライドはまたしても不敵に笑った。

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