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第三章 第三十二話「上がる土煙」

疑惑は確信へ。

王国軍騎士団団長であるシントからライドの裏切りを知る。

信頼していた者の裏切り。それはサンライズを酷く落ち込ませたが、民の為行動する。

その頃、勇人と天と祭りを楽しんでいた、


-ポスッ。


「ちぇっ、また外しちまった」


俺は苦い顔をして舌打ちする。

今回は方目を瞑って挑んだのに、射的っていうのは難しいもんだ。


「ふんっ、チェンジ」


ズイッと俺を押しのけて、自慢げに鼻を鳴らすのは天。

片手で器用にコルクを詰めると、なんの躊躇なく銃を構える。


「で、なに?」


「え?」


天はムッとして「だからっ!」と足を打ち鳴らす。


「何狙って欲しいかって聞いてんの」


「えっ、じゃあ⋯⋯あれで」


俺が指さしたのは木製の剣が貰えると書かれた札。

天はそれを見てプッと吹き出した。


「あんたって本当に変態だよね」


「うるせっ」


「まぁいいわ」と天は狙いを木製の剣へと変えると、天の大きな瞳は細く鋭く絞られる。


「おぉ⋯⋯」


銃口の先に一気に注がれる集中力。

それが一直線に対象物に向けられ、ターゲットを見据える姿は様になっている。

その普段と違う様子に思わず生唾を呑み込んだ。


「まるで殺し屋みたいだな」


なんの淀みもなく放たれた弾は、簡単に札を弾き飛ばしてしまう。

これには店員も反応遅れてベルを鳴らす。


「バカ。私の親が祭りに出資してるから、私こういうのは幾らでも遊ばせて貰ったから得意なんだ」


そう言ってすぐさま弾を込めると、隣のお菓子の入ったボトルも一撃で仕留めた。

おぉ、と周りから上がる歓声に天は満更でもなさそうに鼻を鳴らす。


「はい。これあげる」


店員からお菓子を受け取ると、近くの男の子に譲った。


「ありがとう、お姉ちゃん!」


子供の屈託のない笑顔。


「ほら、あんたも」


「おもっ」と悪態をつきながらも俺に木剣を手渡す。


「ありがとうな、天」


「フンッ」


そうそっぽを向けるも、「どうも」と小さく呟く頬は赤く染っていく-可愛い。


きっと天は可愛くて彼氏に物を取ってあげるどころか、小さな子にも気配りのできる人に見られている筈だ。

天はそれが気持ちよくて堪らないと言わんばかりにニヤけている。

このレベルなら調子乗ってしまっても仕方ないと思う。


「で、次何狙って欲しい?」


周りの注目は次何狙うのかと、完全に彼女に注がれていた


「うーん、なら次は-」


ピピッと甲高く言葉を遮るようにアラームが鳴る。

なんだよとポケットを漁ると、「ゲッ」と声を漏らしてしまった。

それはルミナスから手渡されていた小型のベルだ。


「くそっ、せっかく楽しんでいたのに」


時間だ。もうすぐ城の警備を交代しろとの事だ。


「わるい、そろそろ時間だ」


「そんな事言ってたね」


はぁ、とため息をついて、こんなに楽しい時間に鳴るなんて神様のいじわると空を睨みつける。


「これ頼む」


そう言って邪魔になりそうだと木剣を天に返すも、天は酷く顔を歪めた。


「はぁ?私もそんな重たいの持ちたくないんだけど」


「いや俺これからちょっと用事が-」


しかし言葉を待たずして突き返される。


「何?要らないっての?」


俺は首を横に振ると、「なら持っていきなよ」と顎でしゃくられる。

俺は渋々背に剣を刺すととぼとぼとした足取りで城へ向かう。

途中振り返って見ても、天は周りの人の声援を受けながら射的を楽しんでいるのが見えた。


俺は天と楽しみたかったのに、天はそうじゃなくても楽しそうなのね。

その姿を見てさらに大きなため息をこぼして、俺はドッと重いものがのしかかったように肩をだらんとさせた。


その城に向かう姿はまるでゾンビのような。「ヒィ!」と周りから悲鳴が上がる程沈んでいた。




「-何者かに王都の中に爆弾を仕掛けられたとの情報がありまして」


あれから少しして、サンライズは一人一人声を掛けて王都から逃がしていた。

最初は上手くいくか不安だったが、王子の言う事とあらば聞いてくれる人ばかりだった。


既にゲートを繋いで例の船を停泊させるよう回遊軍には連絡を飛ばしていた。

そしてさっき連絡があり完了とのこと。


「これで、少しは逃がすことが出来たか⋯⋯?」


と言っても見渡せばまだまだ楽しんでいる人が圧倒的だ。

サンライズの顔には焦りが浮かぶ。


出来ることなら一斉に逃がしたいところ。

だが相手に気取られてしまう可能性がある。


魔力を封じるローブを貫通する-そんな事、私ですら敵わないと言うのに、そんな手練が四つも王都の中から反応があるなんて。


「⋯⋯くそっ」


王誓剣(ガーディアス)”を握る手が震える。

カタカタと鳴らす手を必死に抑えて、止まっている場合じゃないと自分を鼓舞する。


-さっさと次いくぞ


そう心に決めて顔を上げた瞬間だった。

突如、爆発したような爆ぜた音が辺りを襲う。


「まさかッ!?」


サンライズは顔を歪めながらも周囲を把握する。

大通りから離れてあさっての方向から上がる土煙。巻き上げられた粉塵が、倒壊する複数の民家の轟音を引き連れて襲来。それがいくつも起こり、辺りを瞬く間に呑み込んでゆく。

刹那、”陽光(ダヴナ)”により照らし出された大通りは光を失う。


「くそっ!」


対応が遅れた-ッ!

一ヶ月間、五代推進円柱だけを狙っておきながら、まさか今回は王都を狙ってくるとは!


次の瞬間、王都に広がるのは混乱と恐怖による阿鼻叫喚。先まで楽しかった雰囲気の王都を地獄と変えてしまう。

サンライズの頭は焦燥に駆られてぐるぐると回転する。


どうやって侵入した?

くそっ、五代推進円柱に重きを置いたせいで街の警護の数が少ない!

まさかと思っていたくせにどうしてもっと早く人を逃がさなかったんだ!


-いいや違うだろ!


サンライズは頭を振って現状に目を向ける。


起こっているのは現実-今目の前に広がる光景だ。

ならば、やるべき事はたった一つ!


「王都は-皆はやらせんッ!」


サンライズは”王誓剣(ガーディアス)”であるジェットソードを握る手に力を込めて、土煙の中を駆けだした。

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